第173話 真実はいつまでも隠し通せるものじゃない

「ちょっと何よこれ!」


 突然叫ぶような声が聞こえてきたので、俺は思わず目を開け辺りを見渡す。

 いったい何なんだ。エミリアの喚いている声で一気に目が覚めたぞ。

 手を繋いだ先を見ると、隣にいたノノちゃんも眠い目を擦りながら身体を起こしていた。

 どうやら俺もネムネム花の匂いに当てられ、眠ってしまったようだ。


「どういうことか説明しなさい!」

「「どういうこと?」」


 エミリアが何を言ってるのか意味がわからない。ノノちゃんも頭にはてなを浮かべている。

 まさかエミリアがエメラルドユニコーンの角を手に入れようとしている時に寝ていたから、文句を言ってるのか? だが好きに過ごしていいと言っていたよな。


「これよこれ! 何でここに⋯⋯」


 エミリアが向ける視線の先、ノノちゃんの足元にはキラキラと光る物が置いてあった。


「これって⋯⋯」

「エメラルドユニコーンの角だ」


 いつの間に⋯⋯全く気づかなかったぞ。

 どうやらエメラルドユニコーンは俺達が寝ている間に、ノノちゃんの膝で安眠していたようだ。

 だけど思っていた通りの結果になったな。エミリアとノノちゃんが離れたことが功を奏したようだ。


「美少女の私の方には現れなかったのに、何でノノの所に現れるのよ」

「エミリアも美少女だけどノノちゃんも美少女だろ? だからノノちゃんの所に現れても不思議じゃない」

「そうね。私程じゃないけどノノも可愛いから、エメラルドユニコーンが現れてもおかしくないわ」

「お兄ちゃん可愛いなんてそんな⋯⋯」


 二人は頬を赤く染めて照れているように見える。何だか女たらしのようなセリフだが、二人が美少女なのは間違いではない。それにエミリアが納得してくれて良かった。

 もし真実を知ったら大激怒することは間違いないだろう。


 エミリアとノノちゃんに伝えていない秘密⋯⋯それはエメラルドユニコーンは

 エミリアは身体は清らかかもしれないが、心は悪魔なのでエメラルドユニコーンが膝で眠ることはなかっただろう。だがノノちゃんなら全ての条件を満たしていると考えて、俺は今回同行をお願いしたんだ。

 とにかくエミリアには絶対に知られないようにしないとな。


「目的の物を手に入れたなら早く街に戻るわよ」


 こうして俺達は巨大スライムというトラブルを乗り越えて、無事にエメラルドユニコーンの角を手にすることが出来たのであった。



 そして俺達は泉に来た時と同じ様に強化魔法をかけて、街へと戻った。


「さあ、この私が手に入れた角をあの店主に叩きつけてやるわ」


 手に入れたのはノノちゃんだろ? エミリアはほとんど役に立っていないはずだ。エミリアがしたことといえば俺を蹴り飛ばして気絶させ、巨大スライムに服を溶かされてハレンチな姿を見せただけだ⋯⋯⋯⋯いや、少なくとも俺にとっては良い結果だったな。エミリアが来てくれてありがとうと感謝しよう。


 そして俺達は武器屋に到着すると、店主がカウンターの中で何か作業をしていた。


「いらっしゃい⋯⋯ってあなた達か。エメラルドユニコーンの角を取ってくるのは諦めたようですね。それならきっちりと金貨500枚を――」

「ふふ⋯⋯その後のセリフはこれを見てから言うことね」


 エミリアは手に持ったエメラルドユニコーンの角を店主に見せつける。


「ま、まさか本当に取ってきたのかい! しかもこの短時間で!」

「そうよ。この私の手にかかればこのくらい楽勝だわ」

「私の目も曇ったものだ。あなたは絶対にエメラルドユニコーンに逃げられると思っていたのに」


 まあ実際に角を手に入れたのはノノちゃんだけど。


「いやはや、あなたが清らかな乙女だと思わなかったよ」

「えっ? それはどういうこと?」


 やばい。店主が余計な一言を口にしてしまった。


「エメラルドユニコーンは、美しい乙女の膝で眠るとお礼に角を置いていくんじゃないの?」

「少し違いますね。身体と心が清らかな美しい乙女の膝の上で眠ると言われています。そっちのお兄さんには伝えてあるはずなんですけど。お嬢さんは悪漢に蹴りを入れるようなじゃじゃ馬⋯⋯ではなく活発な感じしたから、エメラルドユニコーンは逃げてしまうと思っていました」


 店主が真実を述べてしまった。このままだとエミリアの手によって、俺はズタボロにされることは間違いないだろう。


「リックゥゥ⋯⋯まさかノノを連れてきたのは、清らかな乙女じゃない私には、捕まえることが出来ないと思っていたわけ!」


 エミリアは後ろにいた俺の方を振り向き、鬼の形相でこちらを睨んできた。

 しかしその場には既に誰もいない。


「お兄ちゃんなら外に行っちゃったよ」

「許さない⋯⋯絶対に許さないわよ!」


 そしてエミリアは怒りを露にしたまま、風のようなスピードで外へと向かうのであった。

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