十七歳 ── 3

 朝食を摂りながら談笑していると、アレクシスの膝の上にいたパスカル様が起き出した。

「……ふぁ……」

「ああ、おはようございますパスカル様。何か食べますか」

「……だれ?」

「オレの知り合いです。しばらくはここで暮らすことになります」

「はじめまして、小さな王様。僕はアレクシスで、こっちが兄のアレクセイ、こっちが弟のアレクシオス」

 アレクシスが笑いかけてパスカル様の頭を優しく撫でる。その仕草に敵でないと判断したのか、緊張していた表情がほんの少し和らいだ気がした。

「お腹空いたでしょう、何か食べたいものありますか?」

「……みんなとおなじのがいい」

 私たちに配られていたのはパンとクリームシチュー。パスカル様の言葉を聞き、ミスター・アレクセイが頷き立ち上がる。小さめなパンを二つとシチューをよそいパスカル様の前に置いた。

「召し上がれ」

「……いただきます」

 初めこそゆっくり食べていたが、お腹が余程空いていたのかぱくぱくとあっという間に平らげてしまった。たくさん食べられるのは元気な証拠だ。

「───ああそうだ、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか」

「もちろん」

「今回の襲撃の件、なぜ国兵と宗教団体の者が共に戦っていたのか。何か情報が来てたりしないか」

「……それは確か、ローベル様が糸を引いていたはずだな」

「ローベル様が?」

 久しく聞いていなかった名前に心臓が跳ね上がる。ローベル様は、ユリスの父だ。

「お前さんたちの国の隣の国、戦いに負けて王が死んだだろう。今はその娘が幼い王として即位していたはずだが、そのサポートをしているのがローベル様らしい」

「……一年くらい前から王城の中で姿を見かけなかったのはそういうことだったのかもしれんな」

「じゃ、じゃあ、宗教団体の方は」

「単純だ。トップと面識があるらしい」

「でも襲撃の動機は」

「───それに関してはオレに心当たりがあるんだ」

 カリムさんの言葉に耳を疑う。

「父さんに聞いた話だから確実かは分からんがな、王位継承の時に少々揉めたらしい。それからずっと兄弟の中が悪いままなんだそうだ」

「その恨みで、国を丸ごと……」

 身勝手だ。兄弟喧嘩に巻き込まれて、私の家族、仲間がことごとく死んでいった。なんて身勝手で子供のような理由なのだと軽蔑する。

「それが負けた隣国の気持ちと同調したんだろうと思う」

「それっぽいけど、確実とも言えない。憶測の部分が多すぎる」

「しばらくは、何も起きないといいですけど」


 夜眠れず、外に出て星を見上げていると、扉が開き誰かが近づいてくる気配がした。

「セリーヌさん、寝なくて大丈夫なんですか」

「疲れているはずなんですけれど、なんだか気を張ってしまっているみたいで」

「……僕の方が年下なんですから、そんな堅く話さないでくださいよ。アレクシオスって気軽に呼んで、話してください」

「ですが」

「赤の他人ですし、信じきることができないのも分かります。けどいつまでか分からないですが長い付き合いになるんでしょうし、そんなに堅苦しいと毎日疲れちゃいますよ」

「……いいのか」

「もちろん。うーん、何かココアとか作りましょうか?」

「───お願いしてもいいだろうか」

「アイアイサー! なーんて」

 アレクシオスは笑い、店の中へ戻っていく。心優しい少年だと思った。はあ、と肺の中の空気を全て吐き尽くすように深く息をつく。

「はい、お待たせしました。ちょっと熱いかもしれないので気をつけてくださいね」

「ありがとう」

「……セリーヌさん、おいくつなんですか? あ、すみません失礼なこと聞いて」

「いや、何ともない。今は十七の歳だ」

「十七! 僕とほとんど変わらないじゃないですか」

「そんなことは……君もしっかりしているじゃないか」

「いつもありがとうございます、あんまり僕たちには関係ないような感じですけど。今のちょっとくらいはゆっくりしてくださいよ」


 ココアを飲んでいると、いつもは出てこない弱音がポロポロと零れてきた。

「……正直、何も守れなかった自分がのこのこと生きていていいのかと思った」

「突然どうしたんですか」

「すまない、話半分に聞いてくれ」

 こんな所で、今日会ったばかりの少年に話すことではないが、一度緩んだ栓は戻ることを知らない。

「私は戦いの最後、城下に火が放たれたと聞き王城を離れ家に向かったんだ。騎士団の一員だというのに」

「……いや、僕だって兄さんたちがピンチになったら任務なんて忘れて助けに行きますよ。何よりも家族を大切にするのは普通だと思いますよ? そんなに気に病むことじゃないですよ」

「そう、か?」

「はい。今のセリーヌさんに出来ることは、終わったことを悔やむことじゃなくて、パスカル様を守って、襲撃の真実を知ることですよ」

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