十七歳 ── 2

 今回無惨にも殺害されてしまったこの国の王であったアンリ様の子が、パスカル様である。私たち近衛の騎士団は、王族に仕えこの国を守るのが仕事だ。

 そしてカリムとリアムのルベライト兄妹。兄のカリムさんは私の三つ上の歳で、二年前の選抜試験の時のあの人だ。試験の後奇しくも再会し、今でも先輩として、ライバルとして良い関係であれている。妹のリアムは私の一つ下の歳、今年から騎士団の仲間になったばかりの新人だ。しかし兄に負けず劣らず剣術に長けている、サーベルを見事に操る新進気鋭の女騎士。


 日が昇り始めた頃の出発だったためそこまで暑くはなかったが、長袖にブレザーの騎士団の制服は荒野の散歩には相応しくない。カリムさんの腕の中の幼い主は、気絶したように眠っていた。

「で、今回の襲撃のことだが。相手はどこだったんだ」

「今回の敵は、昨年私たちと戦い、負けた隣国の兵たちでした。それと、隣国内で近年勢力を増してきている新興の宗教団体の者もちらほらと」

「こりゃおかしな連合軍だな」

「うーん……隣国の兵が来るのはまだ分かるけどなあ、宗教団体ねえ」

「もしかすると、今から向かおうとしてる所のマスターが知ってるかもしれんな」

「マスター? どこに行くつもりなんですか」

「荒野にあるバーのような、旅人が休める店だよ。オレも遠征から帰ってきた時にちょくちょく寄ったりするんだ。そういう所はいろんなやつが来るだろう、情報屋としても一部の人間の間で重宝されてるんだよ」

 なるほど、やっと理解できた。果たしてそこまではどのくらいで着くのだろうか。

「どのくらいかかるの?」

「そこまでじゃないさ。荒野がそもそもそんなに広くないんだから」

「日が高くなる前に着きたいですね」


 結局目当ての場所に着いたのは、太陽が地平から三十度くらい昇った頃だった。だいたい二時間ほど。お腹が空いたし、体が乾いて仕方ない。

 店内は換気がなされ割と涼しい。カリムさんがマスターらしき人に声をかけた。

「よおアレクセイ、久しぶりだな」

「おお! 誰かと思ったらカリムじゃないか。どうしたんだ」

「いろいろあってだな。今は他の客は?」

「いや、お前さんたちが今日初めての客だよ」

「そりゃいい。いろいろあったことを説明した上で、オレたちに協力して欲しいんだ」

「聞こうか」

 アレクセイ、という人は少し面白そうに小首を傾げて言う。

「まず連れを紹介するな。一人眠ってるがまあ気にしないでくれ」

「……自分からでいいですか? はじめましてミスター・アレクセイ。近衛の騎士団が一人、セリーヌ・アグネカイトと申します」

 私はそう言って左胸に手を当て、腰を折る。

「次は私ですね。はじめまして、アレクセイさん。セリーヌさんに同じく、近衛の騎士団の一員のリアム・ルベライトです。よろしくお願いします」

「カリム、前から言ってた妹ってのが嬢ちゃんって訳か」

「そういうことだ。そんでここで寝てるのがアンリ王のご子息のパスカル様」

「おうおう、こりゃまたお偉いさんだなあ」

 そう言ってミスター・アレクセイは笑う。度胸のある人だ。

「で、そんなお偉方四人が目白押しでどうしたんだ」

「それはだな……」

 カリムさんはゆっくりと、今回の襲撃とその結果についてミスター・アレクセイに話して聞かせた。

「なるほどねえ、んでお前さんたちは逃げる場所を求めてこんな辺鄙へんぴな所まで遥々やって来たってことだな」

「ああ。どのくらいになるかは分からないんだが、しばらく置いてくれないか」

「そうだな、裏から人を呼んでくる。二人にも聞いてからにするよ」

「分かった」


 しばらくして、ミスター・アレクセイは二人の青年を連れてきた。面立ちが似ているように思われる。兄弟か、それとも親子か。

「さ、自己紹介しなさい」

「アレクシスです。フローライト兄弟の次男坊です、よろしくお願いします」

「アレクシオスです。末っ子です、よろしくお願いします」

 随分歳が離れているように見えるが、皆何歳なのだろうか。

「上から二十二、十五、十三だよ」

 そのミスター・アレクセイの言葉にぎょっとする。それとミスター・アレクセイはこの貫禄で二十二歳、それにも驚く。

「こっちはカリムとその妹のリアム、それと二人と同じく騎士団のセリーヌ。あとカリムの腕の中にアンリ王の息子のパスカル様」

「王の息子? どうして」

「事情はお前さんが話してくれよ、カリム」

「あ、ああ。さっきだな……」

 ミスター・アレクセイに話したような内容をまた話して聞かせた。聞いている二人は眉間にしわを寄せていた。

「無論そちらにマイナスの面もあるのは聞かなくても分かる。オレたちは、パスカル様を死なせたくないだけなんだ。よかったらしばらく置いてくれ」

 二人は不安そうに長兄の顔を顧みる。

「二人はどう思う、この四人は信用に足るのかどうか、四人をここに置くことの利益と損失どちらが大きいか」

「……置いていいんじゃないかな、彼らの言葉に嘘は見えなかった」

「僕もそう思う。お客さんがいる間は僕たちの部屋にいてもらえば下の人たちにも気づかれないんじゃないかな」

「じゃ、そういうことだからしばらくよろしくな」

 あっけにとられてしまったが、了承を得られたということだろう。

 その後店内を案内してもらい、遅めの朝食をとともに一行は一度休憩を取ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る