第12話 お出かけ。


元母親からの電話に、俺は少し迷って電話に出る。

 絢香も未玖も、それを黙って見届けている。

 俺は大きく深呼吸をしてスマホのスピーカーを耳に当てた。


「も、もしもし。」

「あら、生きてたのね。」


 聞こえてきた声に、心臓が大きく反応した。

 今までの16年間の人生で、一番多く聞いた声。いつも俺の味方をしてくれた声……だった。

 まあ電話の第一声が『あら、生きてたのね。』は辛辣すぎるが。


「何の用でしょうか。」

「別に、生きているかの確認よ。あんた、どこで暮らしてるの?」

「あんたに関係あるのか?」


 絶縁発言しておいてこの態度。流石に頭に来た俺の口調が少し強まる。


「生みの親に向かってその態度? あんた、日南ちゃんにはちゃんと謝ったんでしょうね。」


 またこれだ。自分の息子より人んちの子供が大事な親。何も知らないのにただ謝れと強要してくる。

 俺が怒っているのが顔に出ていたのか、それとも雰囲気で察したのか分からないが、絢香は俺の左手を優しく握って、何かを伝えるよに頷いた。


「……はぁ。」

「何?」

「謝るわけねぇだろ、このババァ!!」

「なぁ?!」


 俺の渾身の叫びに、何故か予想外という反応で返してきた。逆に、どうして俺が素直に謝ると思ったんだこのアホ。


「あんたらは俺の代わりに老後の介護してくれるやつでも探しとくんだな!」

「あんた! 学費払わなくなってもいいの?!」

「上等だよ、余った金でホストクラブでも行ってこい!!」


 俺はそれだけ言って、電話をぶち切った。正直学費のことは一瞬やばいと思ったが、もうどうでもいいような気がしてきた。

 今日から高卒認定資格の勉強始めるか……。


「相棒!」


 スマホを机の上に置くと、不意に絢香に呼称で呼ばれた。

 こうやって相棒と紹介されることはあったが、呼ばれたのはなんやかんやで初めてかもしれない。

 俺が絢香の方を振り向くと、優しい笑顔で包み込むように聞いてくる。


 「言いたいことは言えた?」

 「どうだろ。まだまだあるかもしれない。」

 「奇遇だね。私も相棒に言いたいことがあるんだ。」

 

 そう言って絢香は椅子から立ち上がり、俺のところに来て、座っている俺を前から抱きしめた。


「あ、絢香?」

「頑張ったね、涼太。」


 絢香の言葉に、俺の心が跳ねた。

 彼女は知っている、自分には過保護なくらいが丁度いいと。だが、同時に理解している。過保護になるだけではどうにもならないこともこの世には沢山ある。

 そんなとき、人の温かみに触れることが何より救いになる。

 

「私にも相談しなさいよ。」


 未玖は座っている涼太の頭にポンッと手を置く。

 俺の目から涙が流れていくのが分かった。散々泣いて、もう涙も出し切ったと思っていたが流れ出てくる。

 そのまま5分くらい絢香の胸を借りて泣いた。俺が泣き止むまで、未玖はずっと俺の頭を撫でていてくれた。


「……すまん。服汚しちまった。」

「気にしない気にしない! 君は私の相棒で、パートナーだから。」

「「それ、おんなじ意味だから。」」


 座った俺に手を差し伸べる絢香の言葉を、俺と未玖は声を揃えてツッコんだ。

 俺たちは顔を見合わせて笑う。


「さ、今日は何をして過ごす?」

「私は配信しないと。」

「俺は特に予定はないな。」

「未玖、配信は何時から?」

「7時から始めようと思ってる。」

「俺も手伝ったほうがいいか?」

「そうね、少し手伝ってもらおうかな。」

「それじゃあ皆、7時までは時間あるってことだね。」

「何かするのか?」


 俺が何となく聞いてみると、絢香は待ってましたと言わんばかりの反応をした。

 

「いい質問だね、今日は皆で買い物に行こー!」

「言うと思った。お姉ちゃん暇な時の過ごし方買い物以外ないの?」

「ん~レンタルビデオショップで映画でも借りてくる?」

「それ、先週もやった。しかもお姉ちゃん、5作品くらい借りてたのに、1作品目で寝たじゃん!!」

「人は三大欲求には勝てないからね。」

「確かにお姉ちゃん、一枚すんごいの持ってるもんね。最近着けてるところ見ないけど。」

「未玖?! なななな、何言ってるのかさっぱりだね……ハハハ。」

「お前……。」


 この前ずっこけた白い布切れは見たことあるが、そんなにすごのがあるのか……。

 それはぜひとも見てみたいものだ……。

 俺がちらりと絢香の方を見ると、目があってしまった。


「涼太?」

「いや、なんでもないっす。」

「いいよ涼太。私が今度見せたげる。」

「はぁ……それじゃあ各自出かける準備。10時には出掛けるよ。」

「「は~い。」」


 そんなこんなで俺たちはさっさと用意を済ませてから、10時前にリビングに集まった。

 リビングには既に二人共揃っており、二人共おしゃれに服を着こなしていた。

 絢香は青い紐リボンがついた白のワイシャツに白のロングプリーツスカートで、上から水色のカーディガンを羽織っている。

 未玖は七分袖の白いセーターに、デニムパンツとシンプルで可愛い服装。

 そして俺は、カーゴパンツにポロシャツ、その上から薄手のジャケットを着ている。この季節はどんな服装をしていいのか分からないので困る。


「よし、みんな準備出来た?」

「うん、で結局どこ行くの? ショッピングモール?」

「でもいいかなと思ったけど、今日は涼太もいるし今日は駅前に行こう。」

「いつものお姉ちゃんらしくないね。どうしたの?」


 いたずらっぽく聞く未玖。


「そう言う未玖も、普段はそんなお洒落しないじゃん。どうしたの?」


 それに負けじと姉の強さを見せる絢香。


「もうすぐ10時すぎるぞ。」


 そして姉妹の小競り合いに巻き込まれる俺。


「わ! バスきちゃうから早く!」

「「は~い。」」


 結局行き先は駅前に決定したそうだ。

 ちなみに後でこっそり教えてもらったが、未玖は普段出掛ける時はチノパンにパーカーらしい。

 イメージぴったりだなおい。

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