第5話 二人の新部員

そのままファミレスで解散した俺はそのまま帰路についた。

しかし、どうしたもんかなぁ。

日南に事情を説明しても、恐らく納得しないだろう。

もういっそのこと、わずかな可能性に懸けて金平宗一に直接言ってみるか?

……いや、今は不要に接触するべきじゃないな。

俺は冷静になって考えた結果、俺も少し様子を見ることにした。


「あぁ……吐きそ。」


黒崎さんに充てられて俺も食い過ぎた……。

俺は、本来下から出るものが上から出そうになっていることに恐怖をしながら、

ゆっくりと歩いた。

必死こいて家の前まで着くと、何故か玄関前に日南が待機していた。


「あー! やっと帰ってきた!」


日南はいつも通り近づいてきた。

ここで一蹴してもよかったんだが、様子を見ると決めたからにはここはいつも通り対応しないといけない。


「おう。待ってたのか?」

「うん! 確かめておきたいことがあったんだ〜!」


そう言って日南は、俺の方に歩み寄ってきた。


「さっきまで、誰とどこにいたの?」


まただ。

この冷たい目。

いつもの日南からは想像もできないほどの表情。


「別に、一人でファミレスで飯を食べてきただけだ。」

「……本当に、一人だった?」

「あ、あぁ。」


怖い! 怖いよ!

俺は今にも吐きそうだが、それを我慢して何とか会話を終わらせようと頭をフル回転させた。


「すまん。食い過ぎて吐きそうなんで帰るわ。」


考えに考え抜いた結果、馬鹿正直に応えるしかできなかった。

いやまぁ、立派な言い訳になるから別にいいか……。

そんで、割とマジでやばい。


「……そう。よかった! あんまり遅くなると心配になるから気をつけてね!」

「わ、わかった……。」


話が終わった瞬間、俺はトイレに駆け込んで思いっきり吐いた。

果たしてただの食い過ぎで吐いたのか、それとも日南と話したことで吐いたのかはわからない。

ただ一つわかったことは、日南には俺が知らない顔があると言うことだ。


✳︎


「……知らない天井……なわけないか。」


朝から何をやっているんだろう、俺。

もしかしたら、昨日吐いた時一緒に頭のネジも吐いたかもな。

俺は枕元に置いておいたスマホを確認すると、日南からメールが来ていた。


「……今日から朝練に参加するから先に行ってるね……か。」


もし、日南と金平の関係がエスカレートしたら、あいつら朝からお盛んに何のかね……。

俺は、そんなNTR漫画の寝取られ役みたいなことを考えながら学校に行く準備を始めた。


「そろそろ俺も日南離れする時期なのかな……。」


俺は伸びに伸びた前髪をいじりながら呟いた。

昔、日南に言われた。

『涼くんは目つき怖いから、前髪で隠しておいた方がいいよ!」

それから、俺は前髪で目元を隠していた。

美術部の友達に火傷の痕まで描いてもらい、それを隠したいから。

なんて理由で中学校は乗り切った。

その呪いじみたものも、そろそろ終わりにするか。


「なぁ母さん、ちょっと頼みがあるんだけど……」

「え? どうしたの急に。もしかして、お姉ちゃんに言われたことまだ気にしてるの?」


……そういえば、俺の目を誉めてくれた人が二人いた。

一人はうちの姉貴。

『あんたいい目してるのに、だっさい前髪してんのね。」

いきなりそんなこと言われて、『ん?』ってなったことを覚えている。

ちなみに今は、どこかの国で顔を広げていることだろう。

そしてもう一人、つい最近言われた。

『君、いい目をしているね。私のパートナーにならない?』

あの自称美少女探偵だ。

黒崎さんは初対面で俺の目について触れた。


「……はぁ。」


俺は、またも幼馴染彼女よりも出会って間も無い自称美少女探偵を信じるのか……。


「な〜に、ため息なんてついて。切った前髪は戻らないよ。ほら早く行かないと、遅刻するよ。」

「やべ! じゃあ行ってきます!」

「行ってらっしゃーい。」


俺はバス停まで全力疾走した。

昨日吐いたからか、前よりも視界が良好になったからかわからないが、随分と走りやすい。

俺は何とかバスに乗り込んだ。

バス内は、俺のせいかこれから会社に行くサラリーマンの怨念のせいか熱気に包まれていた。


「お、奇遇だねぇ、涼太。」

「……ほんとに偶然か?」


俺は、適当に座った席の隣に“偶然“いたらしい黒崎さんと話すことにした。


「前髪切ったんだね。」

「まぁ、暑くなってきたからな……。」

「やっぱり……うん、いい目をしてるね。」


そりゃどーも。

俺は、朝から元気な自称美少女探偵と厨二臭い話をした。

そして俺は、黒崎さんに昨日の日南について話した。


「んー……。そんな日南さんが見え始めたのは最近?」

「あぁ。確か、私立高校の一般入試が終わったくらいからだったかな。最初は確か……前髪を上げて入試に行った時だ。」


『だめだよ。涼くんは目が怖いんだからみんな怯えちゃうよ。』だったけか。

あの時はだいぶ傷ついたなぁ。

というか、今考えたら言われてること昔と変わって無いじゃん、俺。


「……ねぇ、日南と金平宗一が推薦入試の時から知り合いだった……ってことは無い?」

「それは無いだろうな。日南が金平宗一を見た時の反応は嘘をついたようには見えなかったぞ。」

「んんー……いい線いってたと思ったんだけどな〜」


でも、二人が前から知り合いだったというのは可能性としてはないことではない。

あの日南なら、嘘をつかれても俺は気づかないだろう。


「俺も、あの二人が初めて会ったとは思わないけどな…‥。」


フレンドリーレベル完ストしてる日南だから何とも言えないんだよな〜。

日南が強敵過ぎるんだけど……。

やはり天然元気っ子系スポーツ女子は敵にするべきではないな。

俺がそんなクソしょうもないことを考えているとバスは何事もなく学校前についた。


「ねぇ、ちょっと体育館前通ってみる?」

「練習中じゃないの?」

「まぁ、一応……ね。」


俺は黒崎さんに連れられて体育館前まで移動することにした。

これさ、もしあの二人が体育館裏とかでイチャイチャしてたら、俺はどんな反応をしたらいいんだ?

俺は若干の恐怖と好奇心を抱きながら体育館に行った。


「普通に朝練してるね。」

「みたいだな……。」


……もし、俺が日南を本当に愛していたとしたら、心の底から安堵していたんだろう。

だが、今の俺は『よかった。』くらいにしか思っていない。

つまりは……そういうことなのだろう。

だが、俺は最後くらい日南を信じて見ようと……そう思った。


「教室行こっか、涼太。」

「あぁ。」


唯一の救いは、まだ二人がデートまがいみたいなので済んでいると言うことだ。

人生がつまらないと感じていた俺が、大切にしたいと思っていた人。

そんな人が今、俺の元を去ろうとしている。

一人の男によって、今まで紡いできた15年間が一気に崩れようとしている。


ーー俺は……どうすればいいんだ?


「……下を向いてると、目の前にある壁にぶつかり続けるよ。」

「……どういうことだ?」

「そのまんまの意味だよ。君は今、あの二人が起こす行動一つ一つに大きな傷を負っているよね。でも、君ならわかるんじゃないかな。あの二人がどこまで行ってしまうのか。」


……何言ってんだこの人。

俺にそんなもん、わかるわけ……。


「君の勘の良さは折り紙付きだよ。この私が保証するよ。」

「黒崎さんに保証されてもわからないものはわからないよ。」


今この状況も、日南からみたら浮気ってことになるしか俺にはわからない。

だから他人のことなんてもっと……。


「金髪、色黒、体格がいい、浮気……この先の展開は決まってるようなものなんじゃない?」


あぁ、俺も最初に思ったよ。

でもそんなもの、同人誌展開でしかない。

俺も、人のことをどうだこうだ言ってるが、学校生活のほとんどをこいつと共にしている。

考え方を変えれば、俺も浮気とそうそう変わらない。


「……黒崎さんは、今の俺の行為についてどう思う?」

「彼女がいるのに、他の女の子達とこうしてイチャイチャしてること?」

「……。」


俺は黒崎さんの質問には答えなかった。

改めて言われることに、俺は喪失感を抱いたからだ。


「涼太?」

「結局、俺も日南と対して変わらないってことだよ……。」

「それは違うよ。」


黒崎さんは急に止まって、俺の腕を引いた。

俺も歩くのをやめ、黒崎さんの方を向いた。

その時の彼女の表情は、いつもの余裕のある顔じゃなかった。

それはいつもの彼女からは想像できないほどに真っ直ぐな目をしていた。


「確かに、側から見れば君も日南さんも同じかもしれない。でも、君はずっと日南さんのことを考えてたじゃないか。そんな君が、一緒なわけ無いよ。」

「……そうだといいんだがな。」


俺はそう願いながら教室の扉を開けた。

教室内は数人と白石先生がいた。

珍しいな、HR前に先生がいるなんて。


「珍しいね、先生がいるなんて。」

「だな。……だがまぁ、そういう日もあるだろ。」


教師の仕事はかなりブラックと聞く。

朝早く来てやらなきゃいけない事があっても別におかしくない。



「そうだね。」

「そういえば、白石先生って何か顧問とか引き受けてるのか?」


教師がブラックな原因は休日出勤で給料が出ない部活だと聞く。

俺が聞くと、黒崎さんはあ、そういえばと言って俺に教えてくれた。


「白石先生はうちの顧問だよ。」


✳︎


「やっほ〜由那ちゃん……と、」

「こんにちは……あ、」


化学準備室の扉を開け、何となくで挨拶すると鈴森部長以外にも顧問の白川先生もいた。

黒崎さんに聞いた話によると、白石先生はほとんど部活動に来ないらしい。

来たとしても、ほとんどパソコンで作業しているだけらしい。


「……そういえば、新入部員が入ったんだったな。知ってると思うが、ここの顧問の白川 秋子だ。」

「ども。」


俺は、先生と適当に挨拶を交わし、その辺の椅子に座った。

鈴森部長はレポート用紙に何かをまとめていた。

そして黒崎さんは、飲み物を買いに行くと言って教室を出た。

だが、俺は知っている。

あのポケットの膨らみ方は財布じゃない。

多分、スマホか文庫本。

……あいつ、逃げやがったな。


「なぁ鈴原。」

「なんですか?」


鈴森部長はレポート用紙を書きながら俺に話しかけた。


「髪、切ったんだな。」

「はい。」

「それと私も、あの後色々考えてみたんだがな。」

「はい。」

「素直に『別れよう。』じゃ駄目なのか?」


……確かに。

シンプルすぎて気付かなかったわ。

……だが、俺の中で引っ掛かることが二、三個。

まず、時折り見せるあの表情。

日南があれを見せるのは俺の容姿についてのことばかりだ。

だが、日南は俺に地味なるように仕向けている。

金平とは真逆だ。

そして、あの二人の仲が良くなった異常な早さ。

日南ならありえなくはないが、俺にあれだけ固執している日南が簡単に着いて行くとは思えない。

そして、昨日。

玄関前で待っていた理由はなんだったんだ? 俺が心配だと言うのは嘘だ。

本当に心配しているなら、電話の一つや二つくらいかけてくるはずだ。

これら全てを片付けてから、日南とかたをつけたい。


「考えて下さった部長には申し訳ないんですが、俺とあいつの関係は何処ぞの星の一族並みの因縁なんです。なので、せめて相手がロードローラー持ってくるくらいのラストは必要でしょう。」

「……なら、私も亀になるくらいの覚悟はしておこう。」

「お前ら、何の話をしてるかは知らんが、私は4部が一番好きだぞ。」


白石先生はパソコンで作業をしながらサラッと話した。

ごめんね先生、4部を綺麗に越えちゃったね。

俺は心の中で白川先生に謝罪して、早速仮定を立てていくことにした。


「あ、そういえば言い忘れていたが、今日から新入部員が二人入ってくるぞ。」

「二人?」


一人は、前に言っていた鈴森部長の友達。

で、もう一人は誰だ?

まさか、もう連れてきたのか?


「連れてきたよ〜。」


案の定、二人目を連れてきたのは黒崎さんだ。

俺はこの前のことを思い出した。

『まぁ大丈夫だよ。この美少女探偵に任せなさい。』

全く、とんでもない奴だな。


「失礼します。」

「こんにちは。」


入って来たのは、一人は何処かで見た事がある気がするおさげ眼鏡の子。

もう一人は、清楚で大人しそうな子。

……しかし、何処だったか。

このおさげの子を、俺は何処かで見た。

んー……。

俺は見当がつかず、失礼を承知でジロジロと見ると、彼女が右手に腕時計をつけていることに気づいた。

あ、思い出した、日南と金平を注意した勇者だ。


「あの、なんですか? 警察呼びますか?」

「あいや、なんでもない。」


俺なんかに税金を使うなんて勿体無いからな。うん。

というか、黒崎さんはあの時からこの子を狙ってたのか……。

『あいつが自分のことを美少女探偵と名乗るときは、全てを見通してるときだ。』

俺は思った。

探偵要素、必要だった? これ。


「よし、全員集まったな。それじゃあ一応、自己紹介しとくか。」


全員が集まったことを確認した白石先生はパソコンを閉じて、俺たちを招集した。

部員は全員で五人。

顧問含めて全員キャラが濃そうだな……。


「それじゃあ、まずは私だな。私は鈴森 由那。この部活の部長だ。」

「入部した順で行くと次は私だね。私は黒崎 絢香。一応、副部長になるらしいよ。」

「えーっと……鈴原 涼太です。よろしくお願いします。」


残念ながら役職の無い俺は、随分とシンプルな自己紹介をした。

俺が横目で黒崎さんの方を見ると、黒崎さんは下を向いて震えている。

絶対笑ってるだろてめぇ。

まぁ、そんなことより二人の自己紹介だ。

勇者の名前くらい知っておきたいからな。


「それでは、私から先に。私は比屋定 黎です。珍しい名前ですが、覚えていただけると幸いです。よろしくお願いします。」


比屋定さんは礼をした。

この人……絶対にどこかのお嬢様だ。

俺の中で珍しい苗字の人は何かあるという圧倒的偏見が働いた。

そして、比嘉定さんは俺と目が合うとそっと目を逸らして席についた。

……もしかしたら、俺、早速嫌われた?


「それじゃあ最後は私ですね。私は有栖川 紗夜です。よろしくお願いします。」


これで全員の自己紹介が終わった。

俺はなんと、新しく来た二人に早速嫌われました。

……なんでやねん。


「さて、自己紹介すんだし私は会議があるからもう行くから、あとは鈴森、頼んだぞ。」


白石先生は鈴森部長に頼んで教室を出た。

化学準備室には少しの沈黙が流れた後、鈴森部長がこの部活のルールを説明を始めた。


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白石先生と鈴森部長口調が似てるから一緒に使いづらい\(^o^)/

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