第2話 黒崎絢香という女子高生。
「ねぇ、あのすごい人、私の隣の席だよ。」
どうやら、あの金髪は日南の隣の席らしい。
あのガタイを見るからして、あの金髪もスポーツ推薦か?
俺はあの金髪と日南を見比べた。
「……そろそろHRが始まるぞ。」
気がつくと、教室には40人ほど揃っていた。
大体男女半々くらいの割合だ。
みんな高校デビューなのか茶髪や金髪は結構いた。
空央学園は校則がほとんどない。
だからなのかは知らないが、側から見たらとても有名私立高校の生徒には見えない。
それから俺は日南が気になり横目で見たが、金髪も日南もスマホを触っていた。
「……気にしすぎか……。」
そして時間になり、担任の教師が入ってきた。
「おはよう。私が君たち五組の担任を務める白石 秋子だ。よろしく。」
その先生は黒板に名前を書いて自己紹介をした。
モデルのようにスラっとした体で、スーツを着こなしているその教師は今度は淡々と学校内の案内をしていった。
俺はその話をさも当然かのように聞き流していたら、気がつくと、話が終了したようだ。
「今日は顔合わせ程度だからここまでだ。明日から授業が始まるからしっかり予習しとけよ。」
俺たちは、そのまま終礼をして解散ということになった。
日南は部活動見学がしたいと言って体育館に行った。
俺もついて行こうとしたが、案の定断られてしまった。
「一人で帰るか。」
俺は門をでで、そのままバスに乗り込んだ。
うちの学校の生徒の多くは部活動に参加しているので、バスに乗っている高校生は俺だけだ。
窓の外を見ると、外回り中のサラリーマンや、買い物中の人たちが人混みを作っていた。
「あの金髪……気をつけとかないとな。」
なぜか、俺はあの金髪を警戒している。
特に何かあったわけじゃない。会った事があるわけでもない。
なぜ警戒しているのか自分自身でもわからない。
「日南も何とかしないとな。」
それからバスは順調に走り続け、最寄りのバス停に着いた。
俺はバス停を降り家に帰ろうとすると、大きなカメラを構えた女性が物陰に隠れているのが見えた。
不審者かなと見ていると、向こうもこちらを向いて目が合ってしまった。
普通、こういう時は迷わず逃げるべきだろう。
なので迷わず逃げようとしたところ、無事捕まった。
「君、いい目をしているね。私のパートナーにならない?」
綺麗で真っ直ぐな黒髪にクールな目つきをした女性。
いきなりパートナーにならないかと聞く、いかにも不審者のような人だ。
「すいません。俺、宗教とか興味ないんですよ。」
「宗教勧誘じゃないよ。そうだね、まずは自己紹介をしておこうか。私は
黒崎絢香。美少女探偵だよ。」
自分のことを美少女と名乗るこの女性。
ネイルやピアス穴がないということから恐らくは中高生。
それに、割と身長があるので年上だろう。
しかし、本当に不信者だという可能性も捨てきれない。
俺はいつでも逃げられるように心構えをした。
「それで、そんな美少女探偵とやらが一体何のようですか。」
「要件はもう言ったよ。君、私のパートナーにならないか? ってね。」
彼女は、見た目とは裏腹に意外とフレンドリーだな。
だが、この人とはあまり関わらない方がいいと思い、その場を離れようとしたとき、偶然振り向いた先に日南と例の金髪が一緒に歩いていた。
「…………。」
俺は素早く黒崎さんの隣に隠れた。
隠れた後、俺は冷静になろうとしたが、思考が上手くまとまらない。
すると、隣からシャッターを切る音が聞こえてきた。
「……あの女の子は、君の知り合い?」
「……はい。」
「そう……。」
まだ日南が浮気したとは限らない。
日南はそういうことには鈍感だからだ。
「あの金髪男の名前は金平宗一。最低最悪のクソ野郎だよ。」
「ご友人が被害者に?」
「……驚いた。どうして私じゃないとわかったんだい?」
黒崎さんは、そのクールな目を少し見開いた。
「黒崎さんが被害者なら、もっと他に情報収集する手があるでしょう。カメラで撮っているということは、他に大した証拠が無いということでしょう?」
「君、私より探偵に向いているんじゃない? ……それはそうと、少しは落ち着いたかい?」
……そうだった。今は日南のことだ。
まぁ、この人のおかげで多少は落ちついたがやはり気になるな。
「さて、私はこれから明日の準備があるから帰るよ。」
そして黒崎さんは、ちょうど到着したバスに乗って行ってしまった。
彼女が何者なのかはわからないが、どうやら悪い人ではなさそうだ。
さて、俺のやることは、まず日南の話を聞くことだな。
『偶然一緒になっただけ。』と言うのが一番理想なんだがな......。
*
次の日の朝、俺は日南に聞いてみることにした。
日南の家は俺の家の隣だ。しかし、家と家の間には大きな木があり完全に間隣ということではない。
俺は、いつも通り用意をして日南を待った。
日南に関してそれは無いと思うが、悟られたら面倒だ。
何とかさりげなく聞くしか無いだろう。
「お! 涼くん! 待った?」
「いや、まだ集合時間前だよ。」
日南はいつも通りに集合場所にきた。
特にこれと言った変化は無い。
「じゃ、行こっか!」
日南は元気に歩き出した。
さて、どう話を切り出したらいいものか……。
俺が迷っていると、先に日南から話を切り出した。
「そうだ、昨日のガタイがいい人いたじゃん、あの人、見た目によらずすごいいい人だったよ! 涼くんにも紹介したいよ。」
……まさか、向こうからその話を持ち出して来るなんてな。
だがこれはチャンスだ。
ここで上手く聞き出しておこう。
「どうしていい人だって知ってるんだ?」
「えっと、宗一は女子バレー部のマネージャーなの。それで昨日一緒に帰ったんだ。」
んんんん? 最近は彼氏がいても他の男と一緒に帰るのは許してやるものなのか?
俺は戸惑いながらも、まだ証拠が足りないと思いここは我慢することにした。
さて、落ち着け。
「そうか。また機会があったら紹介してくれ。」
可能性は二つ。
一つ、あの黒崎絢香が嘘をついている可能性。
二つ、小森日南が嘘をついている可能性。
普通、こういう時は幼馴染を、自分の彼女を信用するべきだろう。
……しかし、あの金平宗一を信用できないことに関しては黒崎さんに同意だ。
「涼くん? どうしたの? 怖い顔して……。」
「ん? いや、今日は一段と眠たいなって。」
俺たちは、そのまま到着したバスに乗って学校まで向かった。
バス内でも俺はひたすら考えていた。
どちらを信じるのか……いや、金平宗一を信じるか信じないか。
早く結論を出さないと、二人の行為がもっとエスカレートしてしまうかもしれない。
「あ、涼くん。私今日も部活に行くよ。」
……ここは、少しカマをかけてみるか。
「なぁ日南、俺も女子バレー部のマネージャーになってもいいか?」
「ダメ。……だって、女バレのみんな可愛いから涼くん、目移りしちゃうかもでしょ?」
随分と食い気味に答えてきたなおい。
まぁ、無理矢理入部する方法もあるんだが、万が一誤解だった時がだるい。
そして、バスはそのまま走り続け、あっという間に学校に到着した。
「涼くん、私 入部届出してくるから先に行ってて!」
「一緒に行こうか?」
「ううん! その後顧問の先生と話すから。」
「わかった。じゃあ後でな。」
俺は一人で階段を登り、教室に入った。
時間が早いためか教室には数人しかいない。
俺は席に座り持ってきた本を読む。
そうして、そのまま何事もなく時が過ぎていった。
次に俺が本から目を離して周りを見渡すと、すでに結構な人数揃っていた。
もちろん、金平宗一もいた。
そして俺は後悔した。金平を見たことを。
「それでね! その時のサーブがすっごくいい所に入ってね!」
「マジか! 日南は天才だな!」
「んふふ! ありがと!」
聞こえてきたのは、二人の会話。
見えてきたには、楽しそうに笑う二人の姿。
感じてきたのは、喪失感。
そして俺は結論を出した。
俺は、15年間一緒にいた幼馴染の彼女より、名前しか知らない女性を信じようと。
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