第24話 絶望に満ちた結末で、彼一人だけが勝利を確信する

 

 私が彼の婚約者。


 そのセリフを告げた時、世界がとってもゆっくりと動いているような錯覚を覚えた。

 リリィは幽霊でも見たように言葉を失っているし、トリュスは満足そうに笑ってる。そしてアレンは。


「ま、待ってくれ」


 ずっと黙っていたアレンが、ここにきてようやく声をあげた。頼りなく右手を挙げた彼は、静かに私たちの輪に混ざり込む。


「今さら何の用? あなたの出る幕なんて無いわよ」


 リリィが言った。

 けれどその言葉に臆することなく、アレンはトリュスに向かって訊ねる。


「百歩譲って、エイミーが君の……婚約者だとしよう。でも、実際問題お金はどうするんだ?」


 それは彼らしいといえば彼らしい、随分と平凡な疑問だった。


「リリィも言ったとおり、エイミーは無一文だ。おまけにこの先、実家からだって援助は見込めない。そんな境遇の相手を君は支えられるのかい? 綺麗事じゃ済まされないぞ」

「……」


 私には何も言い返せなかった。

 だってそれは事実だから。


 もし、トリュスがここで『全て冗談でした』と答えたとしても、私にはそれを咎めることは出来ない。


 でも、私は――


「エイミー……?」

「ご、ごめんなさい」


 何故か彼の服を握りしめていた。


「分からないの。分からないんだけど……手が、勝手に」

「……」


 どうしよう。

 冷たい視線が突き刺さる。


「いっ、今すぐ離すわ。それか一思いに叩き落として貰っていい?」


 その方が解決するには早いかもしれない。


「いいのか、それで」

「だって私はこれ以上、誰かの迷惑になりたくないし」

「あーうん……なるほど」


 これで終わる。

 彼の今の一言で私は全てを確信した。


「じゃあ」


 終わりの言葉が告げられる。


「相手の人間が公爵家なら問題ないだろ」



 ……公爵? 

 聞き間違いだろうか。今、確かに公爵って。


「……誰が、公爵家だって?」


 最初に問いただしたのはアレンだった。

 私もリリィも同じの気持ちを抱きながら、彼の次の言葉を待った。


「誰がって、俺がだよ」

「!?」


 いや、そんなはずはない。

 だって彼は花屋が実家で。


「あーあ、変な空気になった。だから言いたくなかったんだ」


 そう言って彼は自嘲気味に笑った。


「ねえ、トリュス」

「ん?」

「じゃあ、あのお花屋さんにいたお爺さんは何者? あなたのお爺さんじゃないの?」

「あーそれ」


 少し考えるように空を仰ぎ、それから彼は答えを述べる。


「うちで昔働いていた執事の爺さん。今は引退してこの街で花屋やってる」

「じゃああなたは……?」

「実家の暮らしが合わなくて、ちょいちょいこの街に遊びに来てる暇人だな」


 そんな。

 そんな馬鹿な事があってたまるものか。

 けれど、こうも事実が提示されてしまったのなら認めるしかないだろう。


「で、他にご不満は?」

「……ないわ」

「そりゃ良かった」


 

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