第19話 真実の奥には闇が詰まっていた
「アレンさん」
「何かな?」
洋服を新調したトリュス。
すっかり外見も整った彼は、あらためて隣を歩くアレンに訊ねた。
「話によると、エイミーと復縁したいそうですね」
「そうだよ、もちろん。ああ、そこに本当に愛があるかを知りたいって話かい? 当然あ……」
「いや、そんな話は別にどうでもよくて」
「……」
ばっさりと、彼お得意の愛で煙に巻く語りを、トリュスは一刀両断した。
「エイミーと復縁した後は、この街で一緒に暮らそうとしてますよね?」
「好きな女性と一緒に暮らして何が悪いのかな」
僕にはハッピーエンドにしか見えないが。そう付け加えて、アレンは挑戦的な眼差しでトリュスを見つめた。
少しでもおかしなことがあれば反論してやろうという気持ちが見て取れる。
「何故、ここで一緒に」
「どこで暮らそうか僕の勝手だ」
「いいや、あなたの場合は違う。だって元々の公爵家の暮らしがあるでしょう? それを簡単に捨てるなどありえない」
「くっ」
アレンの顔が珍しく歪んだ。
それに追い討ちをかけるが如く彼は続ける。
「元通りにするならば、そちらに二人でそちらに帰るのが妥当なはず。でもそれをしようとしないのは……」
「じ、自由になるためだ!」
「ほう」
トリュスは静かに呟いた。
「僕は昔から公爵家の堅苦しい暮らしが気に食わなかった。いつか逃げ出してやろうと思っていた。そんな時、エイミーを見て思いついたんだ。一旦彼女と別れて、それから復縁するために彼女を追いかけて行けば、自然な形で自分も自由になれるって」
つらつらと並べられる自分にだけ都合のいい言葉。
そして極め付けはこれだ。
「だから別れる際は、復縁した後の暮らしが苦にならないよう、財産の七割を彼女に渡したんだ」
計画的犯行。
まさかそれだけの為に、私の婚約が破棄されていたとは。最悪な男だとは思っていたけれど、更に最悪の記録を更新してきた。
私の人権を軽んじてるってどころの話じゃない。
「じゃあ最初からリリィとまともに結婚する気は」
「悪いけど無かった」
アレンは確かにそう言った。
ああ、なんて悪い。
本当に悪い。
でも、何よりも一番悪いのは……彼の運かもしれない。
「……今の話は本当なの?」
聞き覚えのある声が問いかける。
私も、そしてアレンもハッとする。
お互いに顔を見合わせてから後ろ向いた。
「アレン、本当なの?」
「「リリィ」」
庶民的な街には似合わない、大きなリボンにふわっふわの黄色いドレス。
そこには私の妹、リリィが立っていた。
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