第18話 ここが修羅場なら場所を変えてみればいい

 

「こんなところで立ち話ってのもなんなので、少し場所を変えませんか?」


 トリュスのそんな一言により、私達は場所を変えた。


 で、今。

 議論の場所は冷たいお風呂場から、にぎやかな街中へ。


「……ってちょっと待って、これどういう状況?」


 あの険悪な状況から一転、私とトリュスとアレンの三人は街で仲良くお買い物。そんなの、さすがの私でもおかしいって気付く。何が悲しくてトラブルの原因とそんな事しなくちゃいけないんだ。


「俺の服、濡れて使い物にならないんだ。ならいっそ、新しいのを買った方がいいだろ」


 飄々とトリュスが言った。


「そんな事しないで、自分の家に取りに行けばいいんじゃない? あなたの家はこの街中の一角にあるんだし」


 わざわざ三人で街中をショッピングする必要はない。

 私が真面目に問いただすと、彼は笑ってこう返した。


「いいのいいの」

「?」

「だってそうしたら、その間はお前と元婚約者があの家で二人っきりになるだろ?」

「あっ」


 言われてみれば確かに。

 それは勿論、気まずいことこの上ない。


「あとそれに」


 トリュスはこそっと私だけに聞こえるように耳打ちをした。


「またさっきみたいな勘違いであの男が暴走しても、ここなら人の目がある。ある程度、対外性を気にして無謀な振る舞いはしないって思ってさ」

「……なるほど」


 確かにそういうのはあるかもしれない。

 公爵なんてのは、よっぽどのことが無い限り、自分から醜態を見せない生き物だから。

 傍若無人で世間知らずな人間は別として。


 トリュスがくるりと後ろを振り返った。

 

「アレンさん、すみませんね。こんな場所に付き合わせた上、お洋服まで借りてしまって」

「ああ、別に構わないよ。困っている人間がいたら手を差し伸べるのが僕達だ」


 そう言うアレンの服装はさっきよりも身軽になっていた。

 上着を一枚トリュスに貸したためだ。

 下だけはどうにか早く乾いてよかった。じゃないと、裸に上着だけを羽織る危険人物が生まれてしまうところだった。



 しかし、ここまでなんだかんだ言っても気遣ってくれるし、いざという時の力もある。用心棒にして正解だったかもしれない。



「ん? 何笑ってるんだよ」

「えっ、なんでもないわ」


 私は小さく首を振った。

 笑っていたのか。

 そう思い、頬に手を当てたその時だった。


「おい、危ないって」


 ついふらっとしてしまった私の肩をトリュスが抱き寄せた。


「!?」


 私のそのすぐ隣を馬車が一台すごい勢いで走っていく。


「ここはお前んちの庭じゃないんだから、気を付けろよ」

「あ、ありがとう……」


 それはなんだか、とても照れくさいような気がして、私は彼を見ることが出来なかった。

 ガタガタと過ぎ去っていく馬車の蹄の音を耳にして、体にはまだ彼の体温を感じる。


「……えーっと、本当に君は用心棒でいいんだよね?」


 アレンが小声で呟いていた。

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