第20話 永久服従の呪いと再会お嬢様
「アレン?」
彼女は現れる。
まるで悲劇のヒロインのように。
その足音はゆっくりと死の宣告を告げるがごとく、彼に近づいていく。
「私とまともに結婚する気は無かったって」
「い、いや、それは」
「私、確かに聞いたわ」
リリィは淡々と告げた。
「あの、今の言葉は言い間違いで」
「そんなにハキハキとした言い間違いなんてあるかしら」
「え、えっと」
ないだろう。
さて、こうなってはもうおしまいだ。
目の前に私、背後にリリィ。
私たち姉妹に挟まれたアレンは、逃げることも出来ず困惑したまま、目をキョロキョロとさせていた。
「これは結婚してから破棄した訳ではなく、偽りの結婚。つまり詐欺。この場合、どうなるか分かるわよね?」
「どうなるんだ?」
トリュスがこそりと耳打ちする。
当然彼が知るはずはない。
だって、これは私と彼の家で設けられた特別なルールなのだから。
「財産全てを提供した上で、相手に永久服従」
「怖っ」
「私もそれは思う。でもそのくらい両家の仲は固く結ばれていたのよ」
「ふーん……じゃあお前の件は? お前と別れるくらいなんだから、それこそ偽りだったんじゃないのか?」
「……『最初は』愛していたんだから、偽りには当たらないんでしょ。恐らく」
恐らくと言ったのは、相手の本当の気持ちまでは読めないからだ。
本当であって欲しい気持ち半分、偽りであって欲しい気持ち半分。なんとも複雑だ。
「ちなみに、お前の当時の気持ちは?」
「内緒」
「あ、そ」
「気になるの?」
「別に」
そう言って彼は適当な方向に視線を逸らした。
その姿がなんとなく面白かった。
「とにかく、気持ちが本物であっても偽りであっても、本来ならそれが偽りかなんて分からない話なのよ」
「まあ、そうだよな。進んで『自分は彼女を愛してません』なんて言って、地位と全財産を没収される馬鹿はいないよな」
「そう。今回みたいなことが無い限り」
私達は再びリリィとアレンの動向を見守った。
膠着した二人の姿は、こうして自分が部外者だからこそ落ち着いて見守れる。
「……そういえばさ、エイミー」
「なあに?」
「あの女って、お前も知り合いなのか?」
彼が顎でリリィをしめす。
そうか、言われてみればトリュスはリリィのことを知らない。
「妹よ」
「え、妹」
トリュスが驚いて私達の顔を見比べる。
まあ、当然の反応だ。
リリィは生まれながらに、派手な顔つきで、愛くるしい表情を見せるのも上手。フワフワの可愛らしい洋服も似合って、いかにも女の子らしい風貌なのだ。
それに引き換え、私は一言で言えば地味。シンプルイズベストがモットーだからそれでいいんだけど。
そんなこんなで昔から私達姉妹は事あるごとに比較されていた。勿論、称賛されるのはリリィであることは明白だ。
というわけで、次に来る反応はあらかた予想出来るわけだけど……。
「驚くでしょうね。あの子、可愛いもの」
「いや、そうじゃなくて」
おや。
予想に反して、あっさりした答え。
首を傾げた私に対し、彼は予想外の答えをもたらした。
「今朝、一度会った」
「今朝、一度会った!?」
「あら!」
つい出てしまった素っ頓狂な声にリリィがピクリと反応した。
こつこつこつと音を立て、彼女が私達の前へとやって来る。
「こんな場所でもう一度会えるなんて。お会い出来て嬉しいわ」
「お、おう……」
どうやらトリュスの言葉は本当のようだった。
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