第4話 僕の彼女と会長の彼氏 後編

「メールが返ってきたみたいです。ちょっと見てみますね」

「うん、いい返事だといいな」


 なぜか僕以上に会長は緊張しているようなのだが、僕がスマホを手に持つと同時に新しいメールが届いていた。ポップアップウィンドウに表示されていたメールには一言


 着いたよ!!


 とだけ表示されていた。

 僕はいったいどういう意味なんだろうと思って部室の入口を見てみると、ドアの前に立っている愛ちゃんがガラス越しに中を覗いている様子が見えていた。

 愛ちゃんと目が合った僕は少し驚いてしまっていたが、僕と目が合った愛ちゃんは嬉しそうな笑顔を浮かべて僕たちを見つめていたのだ。

 どうして中に入ってこないんだろうと思って僕がドアを開けて聞こうとすると、僕よりも先に愛ちゃんが食い気味に話しかけてきた。


「部活中なのに急に来ちゃってごめんね。中に入っていいかわからなかったからさ、入っても大丈夫かな?」

「うん、大丈夫だよ。いいですよね、会長?」

「ああ、もちろん。入ってくれてかまわないよ」

「お邪魔します。意外と綺麗な部室なんだね」

「部室って言っても、準備室を借りているだけだからね。正式な部活じゃないからあんまり物は置けないし、そこにあるカラーボックス一つ分だけしかオカ研のものは無いんだよ」

「そっか、正式な部活じゃないって聞いてたけど、色々と大変なんですね。ちなみになんですけど、会長さんはまー君に何か恋愛のアドバイスとかしてました?」

「え、別にそんな事はしてないよ。まー君に彼女がいるってのはさっき知ったばっかりだからね」

「そうなんですね。でも、ありがとうございます。まー君に私を誘うように言ってくれたのって会長さんですよね。私はまー君からデートに誘われないかなってずっと待ってたんですから。学校で何かする時もいつも私から誘ってたし、告白したのも私からなんですよね。だから、まー君は私にあんまり興味ないのかなって思ってたんですけど、誘ってもらえてすっごく嬉しかったんです。そのきっかけを作ってくれたのも、私をさそうって事に気付かせてくれたのも会長さんですよね?」

「いや、私はそのきっかけを与えたに過ぎないというか、まー君も君の事を誘いたいって思ったたんだと思うよ。ただ、タイミングが合わなかっただけだと思うし」

「そうだったんだとしても、会長さんが言ってくれなければそうならなかったと思うんです。だから、それをまー君に気付かせてくれた会長さんは私の恩人みたいな人です。まー君から誘ってもらえる日がこんなに早くやってくるなんて思ってなかったんで、今はとっても嬉しいんですよ。何かお礼をしたいんですけど、会長さんって三年生だから受験とかで忙しいですよね」

「お礼なんて気にしなくていいよ。私も可愛い後輩であるまー君に彼女が出来たのは素直に嬉しいしね。それも、君みたいに可愛い子が彼女なんて誇らしいことだよ。君はまー君の事が凄く好きみたいだしね」

「はい、私はまー君の事が誰よりも好きですよ。でも、ちょっとだけ不安だったんです。まー君から誘ってもらえる日がいつかやってくるのかなって」

「その気持ちは少しわかるかも。でも、私が言わなくてもまー君は誘ってたと思うよ。たまたま誘う前に私が助言を与えただけかもしれないからね」

「会長さんって優しいんですね。まー君の事をそんなに気遣ってくれるなんていい人です。ちゃんとお礼をしないと私の気も済みません。受験勉強で忙しいとは思いますが、空いてる日があったら一日、いや、数時間でもいいんでお礼をさせてください」

「そんなに気にしなくてもいいのに。私は可愛い後輩であるまー君のためにしただけだからね。それにさ、私はもう指定校推薦で行く大学も決まってるからね。忙しい日なんてあんまり無いよ」

「じゃあ、三連休のどこかでダブルデートをしましょうよ。今日初めて知り合った会長さんですけど、まー君のお礼と会長さんの大学合格祝いも兼ねてダブルデートです」

「ちょっと待ってもらっていいかな。私のお祝いをしてくれるというのは嬉しいんだけど、ダブルデートと言っても私には彼氏はいないんだが」

「そうなんですか。会長さんって恋する乙女の目をしていたから彼氏がいるのかと思ってたんですけど、私の気のせいだったんですかね」


 気のせいかどうかはわからなが、僕は会長が恋をしているという事を今初めて知った。思い起こせば、オカ研に入って結構経つのだけれど、こうして恋愛話をしたことは無かったな。僕に彼女が出来た事で世界が変わることがあるのかもしれないと思ったことはあったけれど、こんなに身近な世界ががらりと変わってしまうなんて思いもしなかった。

 その後も愛ちゃんと会長が勝手に三連休の予定を決めていたのだが、僕はどの日も予定が無かったので二人の都合に合わせることになるのだ。何となく、初日よりも最終日よりも中日の方が良かったのだが、二人とも僕と同じ考えのようでダブルデート(?)は三連休の中日に決まったのだ。


「私には彼氏がいないんだが、それでもダブルデートって言っていいのかな?」

「良いと思いますよ。実を言うと、私もまー君以外の男子がいるのってあんまり嬉しくないんで三人が良いなって思ってたんです。でも、ダブルデートってのは昔から憧れていまして、一回くらい体験してみたいなって思ってるんですよ」

「でも、私に彼氏がいないんだからダブルデートにはならないと思うんだけど」

「そうなんですよね。だから、今回だけお礼としてまー君とデートをする事を許可しますよ。隣に私がいるんで変な事をしたらダメですけどね。それでもいいなら、ダブルデートって事でどうですか?」

「変な提案だけど乗ることにしようかな。私も高校生活で一度もデートをしたことが無いってのはちょっと寂しいなって思ってたからね。大丈夫。ちゃんと節度を守って健全なデートってやつをさせてもらうからさ」


 僕の知らないところで勝手に話が進んでいるのは気になるけれど、愛ちゃんも会長も嬉しそうにしているから良しとしよう。

 でも、一回のデートで二人を相手にするってのは大丈夫なのだろうか。僕にそんな甲斐性があるとは思えないが、出来るだけ二人を悲しませないようにしないとな。いや、楽しませるようにしないとな。

 会長はカラーボックスからオカルトマップを取り出してきて近所の店を調べているようだ。あのオカルトマップは心霊スポット以外にも普通の飲食店も載っているので何かと重宝するのだが、こんな時にも役に立つとは意外だった。

 真剣に調べものをしている会長を横目に愛ちゃんが僕の手を引いてきた。自然と僕の視線は引かれた手の方へと誘導されたのだが、愛ちゃんはなぜかお尻を少し浮かせてスカートをたくし上げていたのだ。

 お尻の部分に可愛らしい小さいクマの顔が描かれているパンツだったのだが、今の状況と大人っぽい愛ちゃんとのギャップで僕はドキドキして変な声が出てしまいそうになっていた。

 驚いた様子を会長に気付かれないように平静を装うとしたのだが、愛ちゃんに手を握られると心臓の鼓動が一段と早くなっていったのが自分でもわかっていた。あまりの出来事にどうやってつばを飲み込んでいいのかもわからなくなってしまい、僕は不自然な形でつばを飲み込んでしまっていた。

 会長も僕の違和感に気付いてはいたようだが、隣に愛ちゃんがいることで緊張していると思っているのだろうか、それほど僕の変化を気にしてはいないようだ。


「デートの時はちゃんと大人っぽいパンツを履いていくからね。会長さんにはバレないように見せてあげるからね」

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