第3話 僕の彼女と会長の彼氏 前編
学校生活において楽しみは人それぞれだったりする。純粋に勉強が好きで学校に来ている人も中にはいると思うのだが、ほとんどの人は友人と会っておしゃべりをしたり部活に参加したりして青春を謳歌することに楽しみを見出しているのだろう。
僕も一応部活には入っているのだが、活動自体はほとんどしていないようなものだったし、友達もそんなに多い方ではないのでお話をする相手もそんなにいないのだ。
僕の所属するオカルト研究会は基本的に参加自由でいつでも来て良いことにはなっているのだが、それは逆を返せばいつでも休めるという事でもあるのだ。だが、僕は特にこれと言って決まった予定もないので毎回参加はしていた。僕の他に毎回参加しているのは会長だけなのだが、最近では会長と二人だけで本を読んでいるだけの時間が多いような気がしていた。
「なあ、まー君は学校楽しいか?」
「どうですかね。楽しいって思う事はあんまり無いですけど、それなりに楽しい時はありますよ。会長は学校楽しいですか?」
「私は結構楽しんでるよ。勉強もそこそこできたおかげで指定校推薦枠で大学に行けそうだし、後は問題を起こさないで無事に卒業するだけだからね。残りの高校生活を楽しもうと思ってるところさ」
「会長って頭良いですもんね。僕がここでテスト勉強をしていた時も色々と教えてくれましたよね。そのお陰で僕の成績も伸びましたし」
「そんな事もあったな。でも、勉強くらいだったらいつだって教えてあげるぞ。そうだ、今度の三連休のどこかで勉強会でも開くか。中間テストも近いし私も今のうちに復習しておきたいところがあるからさ」
「三連休ですか。勉強会は魅力的なお誘いなんですが、ちょっと予定が入るかもしれないんですよね。もしかしたらの話ですけど」
「そうか。それなら仕方ないな。急に誘っちゃって悪かったね。気にしないでおくれよ」
今のところ三連休の予定はないのだけれど、愛ちゃんと付き合ってから初めての連休なのでどこかに行くかもしれないと思って一応予定は空けておくことにしたのだ。
誘われなかったら誘われなかったでゲームでもして過ごせばいいだけだし、中途半端にしかやってないゲームも多いからちゃんとクリアしてあげなくちゃな。そうなると三連休を全てゲームに捧げる必要が出てきてしまうのだが、そんな事は気にするような事ではないか。
「ちなみになんだけど、その予定って家族とどこかに出かけるのかな?」
「いや、違いますよ。まだわからないんですけど、彼女と出かけるかもしれないって思ってて」
「え、まー君に彼女なんていたの?」
「はい、いますよ。最近告白されたんです」
「告白されたって、まー君から告白したんじゃなくて彼女から告白されたって事か?」
「そうです。僕も告白されると思ってなかったから驚いたんですけどね。でも、告白されるのって嬉しいですね」
「ちょっと待ってもらっていいかな。そんな話は聞いていなかったので驚いているんだが、頭の中を整理する時間を少し貰えないかな」
会長は何かブツブツ言いながら背中を向けて考え込んでいるようだ。その声は僕に聞かせるためではないので声量が小さくて聞こえづらいのだが、いくつかの単語は聞き取れた。その中には、“彼女”“告白”“デート”と言ったものが何度か出てきたいたので聞き取ることが出来たのだ。
「すまんすまん。まー君に彼女が出来たなんて知らなかったから動揺してしまったよ。私はあんまりそう言った話になれていないものだからさ、どう喜んでいいのかわからなくてね」
「そうだったんですね。でも、喜んでもらえたなら嬉しいです。僕も初めての彼女なんで言った方が良いのか黙っていた方が良いのか悩んでたんですよ。でも、会長には伝えておきたいなって前から思ってたんですよ」
「教えてくれるのは嬉しいけど、どのタイミングで聞かされても驚いてはいたと思うよ。ちなみになんだけど、まー君に彼女が出来たって事は他のメンバーは知っているのかな?」
「僕は誰にも直接は伝えてないんですけど、もしかしたら知っている人はいるのかもしれないですね。オカ研メンバーと何度か廊下ですれ違ったことはあるんですけど、今までと違ってみられてるような感じがしましたから。僕の気のせいかもしれないですけど、そんな気がしたんですよね」
「そう言うのはあるかもな。自分の環境が変わると周りの人達がそれに気付いてみてるんじゃないかって思う事はあるかもしれないな。特に、今回のまー君みたいに恋人が出来たなんてことは大きな出来事だし、今まで気にも留めていなかったような周りの視線にも敏感になってるのかもしれないよ」
「そんな事ってあるかもしれないですね。今まではクラスメイトの事もあんまり気にしてなかったんですけど、彼女が出来てから他の人の視線とか気になったりしますもん」
「実際はそんな風に見られてはいなかったとしても、そう思い込んでしまうってことはあるかもしれないな。じゃあ、三連休のどこかでまー君の予定が空いていたら彼女が出来たお祝いでもしようか。可愛い後輩であるまー君の幸せを私が祝ってあげよう」
「ありがとうございます。でも、会長と二人っきりってのは彼女に悪いような気がするんですよね」
「それはそうかもしれないけどさ、今だってこうして部室で二人っきりなんだし、そんなに気にする事でもないと思うんだけどな。それに、そんなに気になるんだったら彼女に聞いてみたらいいんじゃないかな。それで断られたら私も引き下がったりしないで諦めるからね」
「そうですね。とりあえず聞いてみますね」
「ちなみになんだが、三連休は彼女と遊ぶ予定は入れていないのかな?」
「今のところは入ってないですね。誘われてないもんで」
「ちょっと待ってくれ。まー君は誘われるのを待っているのか?」
「はい、彼女はいつも忙しそうなんで。空いている時間があれば誘ってもらえるかなって思いまして」
「それは良くないな。とても良くないよ。考えても見てごらん。まー君が今の彼女の立場だったとして、自分の彼女が恋人である自分と遊ぶ予定を入れずに別の異性と遊ぶ予定を先に入れてもいいかって聞いてきたらどう思うかな?」
「え、ソレは嫌ですね。というか、良くないって思います」
「だろ、そうならないためにもさ、いったん彼女にデートの誘いをしてから私がお祝いをしたいって言ってるって伝えた方がいいと思うよ。でも、それは同じタイミングで言っちゃダメだからね。もしも、デートの誘いを断られた直後に私から誘われてるなんて言ってごらんよ。受け手側からしたら良い印象にはならないだろうね」
「難しいですね。あんまり人の事誘ったことないんで難しいですけど、頑張ってみます」
僕は会長の後押しもあって愛ちゃんを自分から初めてデートに誘うことになった。いつも受け身である僕から積極的に誘うという事に心理的抵抗はあるのだけれど、いつまでもそんな事ではダメだと思っていた。昨日も寝る前にはデートに誘おうと思っていたのだけれど、実際に愛ちゃんに会って話をしていると誘うタイミングを僕は見付けることが出来なかったのだ。
今だって電話にするかメールにするか悩んでしまっていたし、この時間に愛ちゃんが何をしているのか僕にはわからない。誰かと話している時に電話をするのは良くないような気がするけど、メールだったらすぐに気付いてもらえないかもしれない。それでも、ヘタレな僕は電話をかけずにメールを送ることにしてしまった。
三連休に予定が無かったら一緒に何かしない?
こんな短いメールを送るだけでも僕は緊張で汗が出てしまっていたのだが、僕を見つめる会長も緊張しているのか両手をガッチリと握りこんで見守ってくれていた。
メールの返信がすぐに来るとは思っていなかったので僕はスマホを机の上に置いていたのだが、僕のスマホは彼女からのメール着信を知らせるために何度も画面を点灯させていた。
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