第5話 ダブルデート 会長編前編
愛ちゃんの提案もあって三人で出かけることになったのだが、普通に買い物に行くのではなくダブルデートと言うことになった。
ダブルデートと言っても僕と愛ちゃんは恋人同士であるのでデートと言っても問題はないのだが、会長には彼氏がいないのでダブルデートなのに一人だという事になる。しかし、恋人のいない会長に対して愛ちゃんは僕とデートをすればいいだけだと謎の提案をしていたのでダブルデートと言う体裁は一応整っているそうだ。僕には理解出来ないのだが、愛ちゃんと会長の二人はそれで納得はしているようではあった。
学校外で愛ちゃんと会うのは初めてだったので緊張していたという事もあり、僕は待ち合わせ場所である駅に早めについていたのだ。普段利用しない駅という事もあって見慣れない景色が新鮮ではあったが、そんな事も気にならないくらい僕は緊張していた。
待ち合わせの時間前まだ少しあるのだが、突然後ろから肩を叩かれて僕は驚いて変な声を出してしまっていた。
「おはよう。そんなに驚くとは思わなかったよ。ごめんね。まだ会長さんはきてないのかな?」
僕が驚いて振り向くとそこには愛ちゃんが立っていたのだが、制服姿ではない私服姿の愛ちゃんも可愛らしい。なんでこんなに可愛い子が僕と付き合ってくれるんだろうと思うくらいではあったが、愛ちゃんはそんな僕の表情を見て楽しそうにほほ笑んでいたのだ。
「おはよう。会長はまだ来てないね。でも、もうすぐ約束の時間だからそろそろ来ると思うよ」
「そっか、私の方が会長さんよりもまー君に早く会えたって事だね」
愛ちゃんはそう言って僕の隣に立って周りの様子をうかがっていた。僕も愛ちゃんと一緒に会長が来るのを待っていたのだが、私服の愛ちゃんが隣にいるというだけで今まで以上にドキドキしてしまって何を言っていいかわからなくなってしまった。
それにしても、私服の愛ちゃんも可愛らしいな。
僕は制服姿の愛ちゃんの印象が強いのでスカートではない姿を見るのは新鮮な印象を受けていた。今日はてっきりスカートで来るものだと思っていたのだけれど、僕の予想に反して愛ちゃんはスリムタイプのジーンズを履いていたのだ。
今まで何度も愛ちゃんの脚を見ているはずなのに、ジーンズを履いている足は今まで見てきた愛ちゃんの脚よりもスッキリとした印象を受けていたのだ。でも、スカートじゃなくてジーンズだったらどうやってパンツを見せてくれるんだろう。僕はその事の方が頭から離れなくて何も思い浮かばなくなってしまっていた。
「制服じゃないまー君も良いね」
「愛ちゃんもその服とか凄い似合ってるよ」
「嬉しいな。変に思われたらどうしようかって思っちゃってたから」
「全然変じゃないよ。誰よりも可愛いと思うから」
「そう思ってくれるだけで嬉しいよ。あ、会長さんが来たみたいだよ」
愛ちゃんが手を振っている方を僕も見ると、そこには会長が小走りでやってくる姿が目に入った。
会長と外で会うのも初めてなので制服姿ではない私服姿の会長を見るのも初めてなのだが、僕はその姿に度肝を抜かれてしまった。
正直に言って、僕は会長はちょっと太めなのだと思っていたのだが、体が大きいという事ではなく胸が大きかったのだ。制服姿の会長は太って見えていたのだが、胸のサイズに合わせて少し大きめの制服を着ていただけだったという事をこの時に初めて知ることとなった。
私服姿の会長は春っぽい淡い色のスカートとクリーム色のニットを合わせていたのだが、そのニットはウエスト部分を絞っているので胸の大きさがやたらと強調されていた。制服の時はゆったりとした感じで着ていたので気付かなかったのだが、会長は胸が大きい割にはウエストがキュッとしまっていていたのだ。身長が少し低いので胸が大きいことに若干の違和感はあるのだが、僕はその大きな胸を直視することは出来なかった。
僕たちに気付いた会長は手を振りながら駆け寄ってきてくれているのだが、会長が走るのに合わせてその大きな胸も楽しそうに弾んでいた。楽しそうだと感じたのは、今まで見た事の無いくらい嬉しそうな笑顔を会長が浮かべていたからなのだが、僕はそんな会長の事も直視することが出来なかったのだ。
「待たせちゃってごめんね。ちょっと遅れちゃったかな」
「大丈夫ですよ。私も今来たところですし、待ち合わせの時間にはまだ早いですからね」
「そうですよ。僕もちょっと前についたところですから。今日は何をするんですか?」
「えっと、まー君って高いところ苦手だったりするかな?」
「あんまり行ったことないですけど、苦手ではないと思いますよ」
「じゃあさ、あっちのビルの屋上にある観覧車に乗ってみたいんだけど、三人で行ってみない?」
「良いですね。私もアレに一度乗ってみたいなって思ってたんです。ずっと気になってたんですよ」
「僕もあの観覧車は気になってたんでいいと思いますよ」
「決まりだね。その後はさ、どこかで飲み物買って公園にでも行こうか」
僕たちは駅前から少し離れた観覧車のあるビルに向かうことになったのだが、二人が僕を挟む形で左右に立っていた。
二人とも同じような距離を保って僕の側にいるのだけれど、何か話すという事もなく無言のまま歩くことで謎の緊張感が生まれていた。一人で歩いている時よりも時間がかかっているような気もしていたのだが、観覧車乗り場が近付いてくると愛ちゃんはチケット売り場に小走りで向かっていったのだ。
「愛ちゃんって本当に可愛いね。観覧車に乗るのがあんなに楽しみだったんだ」
「そうみたいですね」
愛ちゃんは僕たちがチケット売り場についた時にはもうすでにチケットを購入していてくれていた。僕はチケット代を確認して代金を払おうとしたのだが、愛ちゃんは財布を取り出した僕の手を押さえてお金を払わせてくれなかった。
「今日は無料券を使ってるからお金は大丈夫だよ」
「無料券なんて持ってたんだ」
「うん、私がまー君とデートするって言ったら真美ちゃんが無料券をくれたんだよ。下の階にあるカラオケに行くと無料券を貰えるらしいんだけど、その無料券は真美ちゃんは使えないんだってさ」
「え、なんで?」
「あのね、この無料券ってカップルしか無料にならないんだって。真美ちゃんは彼氏いないから使えないって私にくれたんだよ」
「じゃあ、三人で乗れないって事じゃない?」
「そうなのよね。でも、大丈夫。まー君は私と会長さんと二回乗ればいいでしょ。会長さんもそれでいいですよね?」
「そうだね。私はそれでもいいけど、愛ちゃんは私とまー君が二人で観覧車に乗っても平気なの?」
「うーん、正直に言っちゃえば平気じゃないですけど、今までも二人だけで何かしてたって事もあると思うんで信用はしてますよ。それに、会長さんも変な事をする人だとは思ってませんからね」
「へ、変な事なんてしないって。なあ、私とまー君は今まで何度か二人っきりで活動したこともあるけどそんな事なんて一度もなかったもんな」
「そうですね。色々とありましたけど、そういう事は意識したことなかったですね」
愛ちゃんはちょっと慌てている会長を見てから僕の耳元で囁いてきた。
「二人っきりだからって会長さんのオッパイばっかり見てたらダメだからね」
僕は思いもしなかった愛ちゃんの言葉を聞いて驚いてしまったが、そんな僕を見て愛ちゃんは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「じゃあ、乗る順番ですけど、最初は私と会長さんで乗りましょう。次はまー君と会長さんが乗って、最後は私とまー君って事で」
「私はそれでいいけど、まー君はどうかな?」
「僕もそれでいいですけど、二人もカップル無料券で乗れるの?」
「さっき聞いた時は大丈夫だって言ってたよ。一応、カップルらしく手を繋がないとダメみたいだけどね」
「そうなんだ。でも、それだったら真美さんも無料券を使えるんじゃない?」
「まー君は知らなかったかもしれないけど、真美ちゃんって誰かと行動するの苦手なのよ。だから、誰かと観覧車に二人で乗るのって無理みたいよ。まー君が相手だったら平気かもしれないけどね」
「それってどういう意味?」
「さあ、どういう意味だろうね」
愛ちゃんは会長と手を繋いで観覧車の乗り場へ向かっていった。
無料券をくれた真美さんは愛ちゃんと仲の良い友達なのだが、僕は彼女と話したことが無かった。というよりも、愛ちゃん以外の人と話をしているところを見た記憶も無かったのだ。
真美さんは勉強も運動も出来るタイプだとは思うのだが、社交性はないらしく先生たちとも最低限の会話しか交わしていないように思える。愛ちゃんはコミュニケーション能力も高く誰とでも打ち解けることが出来るのだが、それくらいでないと真美さんとは仲良くなれないのだろうと思う。
思ってみれば、僕も社交性が無い方なので愛ちゃん以外とはほとんど話をしたことが無いんだよな。その点は僕と真美さんの共通する部分ではあると思うが、コミュニケーション能力が無い人同士を合わせても円滑な関係は築くことが出来ないのではないかと思ってしまった。
二人が乗った観覧車は十二分で一周するようなのだが、その時間で僕は色々な事を考えることが出来ていた。
愛ちゃんに告白されてから今まで色々なことがあったなと思い返してみたり、オカ研で会長と過ごした時間を思い返してみたり、これから愛ちゃんとどんなことをして一緒に過ごしていくのだろうかと思ってみたり。
十二分という長さは意外と色々な事を考えることが出来るものだと思っていた。
そんな事を思っていると、そろそろ愛ちゃんと会長が乗ったゴンドラが一周してくるところであった。そこでふと思ったのだが、カップル無料券を使うためには手を繋いで乗らないといけないという事なのだ。僕は会長と手を繋いだことなんてないので緊張するという事もあるのだが、それ以前に僕は彼女である愛ちゃんと手を繋いだことも無かったのである。
彼女である愛ちゃんの目の前で愛ちゃんよりも先に他の女性と手を繋いで良いモノなのか、僕は急にそれを考えてしまってそれ以外の事を何も考えられなくなってしまった。
このままでは考えがまとまる前に二人が下りてきてしまう。そうなると、僕は会長と手を繋いでゴンドラに乗り込むことになるのだが、そんな事をして愛ちゃんは不愉快な思いをしないだろうか。僕はそれが気がかりで仕方がなかった。
僕はゴンドラからおりてきた二人を出迎えつつ自然な流れで愛ちゃんに近付くと、そのまま愛ちゃんの手を引いて先ほどまで座っていたベンチの方へと誘導した。
とにかく緊張してしまったが、僕なりには自然な形で愛ちゃんの手を握ることが出来た。これで、愛ちゃんより先に会長と手を繋ぐという事は避けられたのだが、僕に突然手を握られた愛ちゃんは驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべていたのだ。
「まー君、急にどうしたの?」
「いや、カップル無料券を使うのに手を繋がないといけないって思ったらさ、僕は愛ちゃんと手を繋いだことが無いって思って、愛ちゃんと手を繋ぐ前に会長と手を繋いで良いのかなって思ったんだけど、そんな風に思ってたら愛ちゃんの手を掴んでた」
「え、そうだったんだ。言ってくれればいつでも手を繋ぐのに。それに、カップル無料券で乗る時に手を繋がないといけないってのは、嘘だよ」
「え、嘘なの?」
愛ちゃんは時々見せる意地悪な顔を僕に向けていた。
「でも、その嘘のお陰でまー君と手を繋ぐことが出来たね。たまには嘘をつくのもいいかもね。さ、私はここで待ってるから二人で観覧車に乗ってきてよ」
「そ、そうだったんだ。勘違いしちゃってたかも」
「本当にまー君は愛ちゃんの事が好きなんだな」
僕は会長の言葉を聞いて顔が真っ赤になっているんじゃないかと思うくらい熱くなっていた。実際に赤くなっていたかもしれないのだが、僕は恥ずかしくて二人の方を向くことが出来なかったので気付かれてはいないと思う。
「二人っきりだからって、変な事をしたらダメだからね」
僕と会長は愛ちゃんに見送られて観覧車に乗ることになったのだが、僕たちを見送る愛ちゃんの顔はいつもの優しくて可愛らしい表情であった。
「じゃあ、私とまー君の短いデートを楽しませてもらわないとね」
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