第48話 フシギダネ

遂にブラジルサントスの自宅に戻って来ました。


「隆文さん、ニルギリ呼んできましょうか?」

「ああ、会うのが待ちどうしいよ」


もう時間がありません。

急いで帝都に戻らないとザッケリーニ王国の大臣を待たせているかもしれません。


「優愛、アッサム、葵、準備は出来た? あれ、茜も行くの?」

「もちろん行くに決まってるでしょ‥‥ってどうして私だけはぶるのよ」

「じゃあ、隆文さんこの家任せましたので遠慮なく愛の新居にしてください」

「任せろ」


引き籠りのニルギリだけでは不安ですが勇者に任せておけば安心です。


ドンドンドン


不機嫌な足音を響かせてリビングに来たのはニルギリでした。


「あら、死ななかったの? 死ねばよかったのに。 まぁ生きていたのなら結婚してあげるわよ」

「お、おう」


ニルギリのツンデレにやられてしまった勇者高杉隆文であった。


「じゃ、綾香さん、麻美さん、直樹さん、また会いましょう」

「えっ? 私も連れて行ってくれてもいいのよ?」


綾香さん、貧乳枠は埋まってますので、すみません。


「急いでますので、それでは」

「ちっ、逃げられた」


綾香さんの呟きは外まで聞こえました。


それから急ぎの二日間で帝都に到着しました。

待っていたのは驚きの事実でした。


「い、生きていたのか、ファレノプシス?」


いつも冷静な皇帝が驚きの表情を隠せなかった。


「はい、生きてますが?」

「いや、タボラッツィー皇国がお前を殺したと言ってきたのだ」

「僕もカースの首魁が皇子を殺したのを知りました。どうです、僕は人違いだって分かりましたか?」

「はぁ、もう良い! そんな事より皇国にカッサンドラが、お前の妹が攫われた!」


そんな事より、僕が生きていたことよりも大事だと? まぁ、僕は他人だからそんなものでしょう。


「あのぉ、僕には妹はいませんが、そうだよねグロ?」


皇帝の隣に座っていた姉に尋ねました。皇帝の隣に堂々と座るなんて肝の座った姉です。まぁ、姉は皇帝の娘らしいのでそれも当然かもしれませんが‥‥


「あんたには妹がいるの! そのカッサンドラが攫われたのよ! 少しは焦りなさいよ!」

「えっ、僕には生き別れの妹がいたの? やっぱり、奴隷に売られてたとか?」

「まぁ、生き別れには違いないけど、奴隷になってたのはあんたの方でしょ!」


お姉ちゃんが久しぶりにエキサイトしてます。実家に帰って英気を養って元気になったってところでしょうか。


「ファレノプシス、お前は皇太子だが、(仮)だが不死のスキルを持っているとグロリオーサから聞いている」

「あっ、それ間違いです。進化して『イモータリティー』不滅のスキル、不老不死に変わりました」

「だったら余計に都合が良い。お前が責任もって妹を奪還して来い。それで戦争の勝敗が決まるかもしれん」

「あの、僕他人なんですけど、何度も言うようですが絶対に人違いしてますよ?」

「はぁ、グロリオーサ、お前の所為だぞ。早急にファレノプシスの記憶を回復しろ」

「え~っ、だって、簡単にはいかないわよ! 出来てたらやってるってーの! それくらい我慢してよ父上ぇ」


姉が誰かに甘えてることなんて初めて見ました。どうやら本当に親子のようです。

そして僕とは完全に他人なのでしょう。


「ファレ、お姉ちゃんも一緒に行ってあげるから」

「え~っ、グロが来ても役に立ちそうにないって言うか、役に立たないって言うか、無意味って言うか、邪魔って言うか」

「酷ぉい! もう料理作ってやらないからね!」

「あっ、それはありがたいな」


グロリオーサは料理が下手ののです。今はメイドが作るので、その申し出は嬉しい限りですね。


「くそっ、ねぇ父上、もう一回記憶を消す? そしたらまともになるかも?」

「いらんことせんで良い。それでファレノプシス、どうやって奪還するのだ?」


皇帝は奪還の手段が無いのでしょうか、他人に丸投げするなんて。


「そうですね。ザッケリーニ王国には隣の大陸まで三日ほどで行ける高速船があるのです。それで隣の大陸に渡ります。そこで考えます」

「なんだ行き当たりばったりだな」

「それは情報不足なのですから仕方がないですね。とにかくやるだけです」

「ファレノプシスがやる気になってるな」

「それはそうです僕は勇者ですから」

「お前は花屋だろ?」

「いえ、インディードしました」

「いんでーど?」

「転職です。では直ぐに向かいますので」

「宜しく頼むぞ」


僕はスキルの『タネ』を植えた人物を操ることができると同時にどこにいるかを把握することができ呼び出せるのです。ですのでスパイAとBを呼び出して事情を聴こうと思ったのですがスパイBしか近くにいませんでした。Aは認識の範囲外でした。


「それで、スパイB、僕の妹だというカッサンドラはどこにいる?」

「カッサンドラ様を乗せた船は現在東の大陸に向かっています。誘拐から三日たってます。早ければおよそ一週間で到着しますので今は海の上ですね」

「後四日ほどで到着か」


急いでザッケリーニ王国へ帰って船で三日で東の大陸に到着するとして同じくらいの到着になります。


「妹は乱暴に扱われてないか?」

「大丈夫です。Aのやつが担当に志願して大事に扱ってますので」


志願した?

ということは誘拐したのもA??

でも誘拐を阻止すればその後の情報収集ができなくなる可能性もある訳です。

いや、それでも、戦争の大局を左右する皇族の誘拐は阻止すべきだったかもしれません。しかし、Aが付いているということは不幸中の幸いです。


兎に角、今すぐザッケリーニ王国に向かいます。距離にして凡そ200キロ、時速100キロで飛ばせばおよそ2時間で到着することになりますが、高速道路はありません。曲がりくねっていたり凸凹だったりで時間はかかるでしょうが20時間もあれば到着するはずです。


到着しませんでした( ノД`)シクシク…


凡そ二日で到着しました。あと二日で妹(?)を乗せた船は東の大陸に到着します。

ヴェンチェズラオさんの船でも東の大陸三日掛かるとの話です。大陸に到着するのが敵船より一日遅れてしまいます。

しかしこれでは妹は敵の本拠地であるタボラッツィー皇国に連れて行かれてしまいます。

それでは奪還の可能性が低くなってしまうのです。

妹(?)は皇国に入る前に奪還しなければなりません。

その為には敵の船より早く大陸に到着する事が必須なのです。


「王よ、いったいどうした、そんなに慌てて?」

「何か俺の妹だというやつがタボラッツィー皇国に攫われたんです」

「妹がいたのか?」

「ええ、僕も初耳ですよ、困ったものです。それで船を貸してください」


僕は現在の状況を説明しました。


「じゃあ使うといい。もっと早く飛行機造っていれば良かったな」

「完成はまだなんですか?」

「いや、飛行機よりも良いものを考えてるんだ。原子力潜水艦てあるだろ、あれってずっと潜っていても燃料補給しなくていいだろ。同じように原子力飛行船があればずっと飛べると思うんだよ。つまり、天空の城も作れるってことだ。どうして、地球じゃ原子力飛行船作らなかったんだろうな。飛行機だったら整備が必要だけど浮かべる巨大な飛行船なら浮かんでる状態で整備もできるはずだ。まぁ原子力は落ちたら危険だからな」

「それいいですね。天空の要塞ですか? エネルギーは魔素で蓄積は魔石ですか? 住人が魔石に魔素を毎日供給すればずっと浮かんでられますね」

「そうだ、魔素を魔力に変換し魔力を魔道具を介して魔法アンチグラビティーを発動し続ける。つまり飛行船の様に窒素で浮かべる必要も無いんだ」

「夢も膨らみますね」

「何馬鹿なこと話してんの、早く行かないとカッサンドラがどうなるかわかんないわよ」


突然グロがエキサイトしました。


「大丈夫だよ。妹には護衛が付いてるから」

「敵の護衛でしょ」

「味方だよ、僕がスキルで味方にしたから死んでも姉ちゃんの妹を守るよ。でも僕には関係ないのにどうして僕が助けなくちゃいけないんだろうね、フシギダネ?」

「関係ないことないでしょ、あんたの妹でしょ?」


姉ちゃんとは血が繋がってないのだから、姉ちゃんの妹も血が繋がっている訳がありません。

不思議です。


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