第47話 白い砂浜、青い海に青い空

「兎に角デバフをかけ続けて」

「分かった、やってみる」


綾香はウイザードの直樹とウイッチの麻美にも伝えた。

二人とも意識ははっきりしていたが動けなかっただけだ。ブレイブマンの隆文だけが未だに意識を取り戻せていなかった。恐らく、『サンダーボルト』を一人で受けた隆文と『サンダーボルト』を四等分で受けた他の者達との違いだろうと思われた。


『スロー』


キンッ!

キンッ!


綾香に言われたように田宮麻美はデバフの魔法を掛け続ける。だが予想通り弾かれる。


『エンフィーブル』


キンッ!

キンッ!


弱体化魔法を掛けるも弾かれる。


『パラライズ』


キンッ!

キンッ!


麻痺も駄目!


『ポイズン』


キンッ!

キンッ!


毒も効果なし。


『サイレント』


キンッ!

キンッ!


沈黙も防がれた。


『グラビティー』


キンッ!

キンッ!


圧し潰せもしない。


『ハイポスティーニア』


キンッ!

キンッ!


ステータス弱体化のエンフィーブルとは違い体を弱らせる衰弱魔法だがこれも失敗。


「お前らどれだけデバフ掛けてんだ? 無駄だって気づけよ。キンキン煩いよ!」

「もう殺していいか?」

「直ぐ殺せ、そうすりゃ、キンキン音も止む」

「俺達のコンビを殺せるわけがない。もう帝国の皇子も殺したからな。後は勇者だ。そうすれば帝国はタボラッツィー皇国のものだ」


帝国の皇子を殺した? ファレノプシスは確信した。既に皇子は死んでいたのだと。これは困ったことになった、何と言って側室契約のシャーダに伝えようかと悩むのであった。

それがファレノプシスがスパイに仕立てたスパイAによって齎された誤情報だったとは思いもせずに。


これが最後だとウイザードの直樹は最後の攻撃魔法に賭けることにした。


「これが最後だ『フリーズ』凍れ!!」


キンッ!

ポスっ!


直樹は叫んだが弾かれてしまった。


「またか、もう死ね。『プチメテ‥‥」


カースの首魁の発動句は途切れた。

止めたのではない、止めさせられたのだ。


「やっと間に合った、二人一度にだったけどスキルを防止しているアイテムは一つだったから助かったよ」


ファレノプシスは立ち上がりながら隣の綾香に手を貸して立ち上がらせる。直樹は自力で立ち上がり隣の麻美に手を貸す。

隆文だけは未だに気絶したままだった。


「ファレ君、あなたがやったの?」


ザッケリーニ王国での戦いを知らない勇者達は気が付かなかったのだ。

ファレノプシスが何をやっていたかを。


「良かったよ、あなた達がデバフをかけ続けてくれたお陰で僕のスキルを隠し通せた。邪魔されずに済んだよ。気付かれていたら僕は殺されていたかもね。でもカースの首魁は君達の良く知るデバフだと安心してたんだ。まさか僕のへんてこなスキルだとは思わなかったみたいだ」


田中と首魁は既に意識を失っていた。


直樹がパシパシと気絶したままの隆文の頬を叩く。漸く目を覚ました隆文は周囲を見回し確認する。


「お、終わったのか? くそっ、俺が気絶している間に。まぁいい、僕は帰って結婚するぞ!」


雄たけびを上げる隆文。


「隆文、それフラグ?」


「ああ、フラグだな、貴様ら動くな、動いたらこの巨乳ちゃんの命はないぞ!」


台村王だった。

麻美を後ろから羽交い絞めにし剣を首の前に回していた。

既に剣で少し切れているようで血が滲んでいた。


「あ、あんた、グルだったのか?」

「まぁ、グルだな、最初からお前たちを殺す気でいた。その為に兵士に包囲させてたんだ」


まさか田中包囲網だと思っていた兵士達が自分達を包囲するための者達だったとは。


「お前ら、田中達に何をした、今すぐ元に戻せ、でなければこの巨乳を殺すぞ」

「くっ、殺せ! 代わりに俺を殺せ!」

「隆文‥‥」


麻美は隆文の兎に角善を成そうとする『偽善』スキルの存在を忘れ自分のことがそれほど好きだったのかと誤解して涙を流していた。

恋は盲目、都合が良い方に物事を考えるものだ。


「ほら、早くしろ、そいつらを元に戻せ。誰がやったんだ、戻せるだろ?」

「それよりもっと良い方法がありますよ」


ファレノプシスだった。

その瞬間、台村王は周りの兵士共々動けなくなっていた。


「これで終わりですね」


ファレノプシスは誰ともなしに呟き目を閉じた。

目を開けるとそこは良く知る白く何もない空間だった。


「良く田中を確保してくれました。殺さないのですか?」

「少し伺いますが、殺されるようなことを田中はしたんでしょうか。僕は姉が殺されたと思って復讐心を募らせていましたが、実際は殺されてませんでしたし」

「はい、その通りです。田中は小悪党です。ですが勇者が悪党なのは許されません。女性を騙し強姦し売り飛ばす程度です。この世界では普通のことです。田中はスキル剥奪の上開放します。ですが、カースの首魁は人を殺し過ぎました、許すことは出来ません。殺してください。スキルを奪っても良いですよ」

「そうですね。皇子も殺したという話ですし」

「そうなんですか?」


生きているのにとリインカーネーションは思った。


「らしいです」

「報酬はスキル『イモータリゼーション(仮)』の(仮)を取り不老不死のスキル『イモータリティー』にしてあげましょう」


何か嬉しくない、まるで永遠に女神に扱き使われるように感じたファレノプシスであった。




「おい! 大丈夫か!」


ファレノプシスは揺り起こされた。


「あれ?」

「びっくりしたわよ、突然意識を無くすし」

「女神に呼び出されてました」

「あのビッチ何って言ってた?」

「田中はスキルを奪って解放するって。首魁は殺害しろって話です。僕に任せてください」


ファレノプシスはスキルで支配した首魁の体の呼吸を止めた。

数分後、心停止、脳も活動を停止した。


「死んだね、『キュウコン』これで、上級魔法が使えるようになれば良いけど」


ファレノプシスは『キュウコン』を発動する。得たスキルは『魔法グレードS』だった。


「あれ?」

「どうした、ファレ?」


もうすぐ結婚でウキウキの高杉隆文、笑顔がうざい。


「いや、スキルのグレードが分かると思ったら、職業が『勇者』になってるんですが‥‥」

「えっ、嘘?」

「ほんと?」

「ファレ、重大な事実が分かったんだけど。俺たちの中に職業が『勇者』なのは一人もいないんだ。みんな違う職業なんだ。つまりは、お前が、お前だけが本当の勇者だという事なんじゃないのか?」

「まぁ難しいことは気にしないことにします。僕は教師と王様の『二足のスニーカー』で手一杯ですので」


問題はこの国であった、王がいなくなったというより帝国の勇者と帝国の皇太子を手に掛けようとしたのだ、宣戦布告と言っても過言ではない。その上で王は倒された。敗戦だろう、この国の命運は帝国に握られてしまったのだった。

ファレノプシスは一人の兵士に命じて帝都までこの国をどうするかを尋ねに行かせた。


それから数日が経過した。

勇者達もファレノプシスも王宮に滞在し皇帝よりの返事を待っていたが漸く返事が来たのだ。


「まさか兵も一緒に来るなんて」


モウブル王国の首都メセディーズは帝国兵士の侵入を許し王城は兵士に囲まれた。


「殿下、皇帝陛下より私財務大臣のクレメンテ・ビアンキが王位を継承せよと仰せ仕っております」

「えっ、いいなぁ?」


思わず本音が漏れてしまったファレノプシスであった。

大陸の内陸部のブラジル領で育ったファレノプシスには海岸の港町は魅力的に映ったのだった。


「この城から見える海はハワイの海の色だね」


まるでファレノプシスの考えを見透かしたように高杉隆文が話しかけてきた。


「え~、ハワイ行ったこと有るんですか?」

「えっ、ハワイ行ったことない日本人なんていないでしょ? ハワイより佐賀県に行ったことのない日本人の方が多いくらいじゃないの?」

「そうかも、でも僕は両方行ったことが無かったな‥‥」


くだらない話に花を咲かせるほどここの海は美しかった。

白い砂浜、青い海に青い空、少し離れた小さな島には泳いでいけるくらいの距離。ここでバカンスしたいと思わせる風景だった。


「夏なら泳げたのに」

「勇者仲間でまた来よう」

「いいなぁ、僕も来たいですよ」

「何言ってる、君ももう勇者だろ?」

「えっ、仲間に入れてもらえるんですか? 憂いしいなぁ」


こうして兵士の喧騒に包まれた王都の午後は暮れていったのだった。









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