第44話 ゴキブリング!

なぜかこのフェンリル、僕に懐いているようなので連れて行くことにしました。まずは名前を付け‥‥いえ、汚いので洗ってあげることにします。

近くの川に来ました。キャンプから数十メートルの距離でした。護衛の方が2名付き添います。熊とか魔物とかが出たら怖いです。

魔物は僕達とは別の異界からの来訪者や来訪動物、どんなのがいるのか分かりませんから。


「何か来ます!」


護衛に緊張が走ります。


「ゴ、ゴブリンキングです!! 我々では手に負えないかもしれません!」

「えっ! ゴキブリング!!」


怖いです。その黒く艶光りのする物体は翅を使い飛んで人に近づくのでしょうか?


「いえ、ゴブリンキングです。翅もないですし飛びもしません」


冷静に訂正されました。

僕は赤面しつつもスキ‥‥

え~~っ!

フェンリルがゴブリンキングに飛び掛かって首に嚙みついてます。

あっと言う間の出来事でした。

ゴブリンキングは力尽きその生涯を終えたのでした。

フェンリルは僕の前に戻ってくるとワンと一吠え。まるでどうだと言わんばかりの自慢気などや顔を披露してくるのでした。

取り合えず、この犬怖いので森にお帰り願いましょう。

犬じゃないから野良犬にはならないよね。


‥‥‥‥


なぜか離れて行きません。

完全に懐かれました。

仕方無いので、返り血で真っ赤に染まったフェンリルを洗います。

石鹸ないかな? 無いよな、血は落ちるのかな、小説では良く石鹼も使わずに血を洗い落としてるけど無理だよな。欲しいな石鹸。


「ありますよ。はい、ボディーソープ」


石鹸以上の代物がありました。これもヴェンチェズラオさんがお造りになられたとか。まるでドラ〇もんです。もう彼が王様で良いのではないでしょうか。


ついでに僕もすっぽんぽんになってフェンリルごと洗いました。

スッキリしてキャンプに戻りました。


「え~~、ずる~い!!」


優愛に拗ねられました。



▼△▼△▼



「この子の職業『神の使い』だって。リインカーネーションとは別の神みたい」

「神の使い? 何だ、ただの使いっ走りじゃないか」

使いじゃなくて使いよ」

「そ、そうか? 花屋の俺とは凄い違いだな。スキルは?」

「スキルは『獣撃(グレードS)』『魔撃(グレードS)』の二つね』


優愛のスキルを使い鑑定してもらいました。

流石神の御使い、グレードSのスキルを二つも!


「康介も持ってんでしょ! もう唯の自慢だから」



盗賊はアジト近くの街の衛兵に引き取ってもらい旅をつづけました。



車で移動すること既に3日目。

漸く帝都にたどり着きました。

帝都に行くのでさえ車で移動し続け3日掛かるので隣の大陸に行くにはもっと掛かるのでしょう。


「えっ、そんなにかかりませんよ。船の速度が段違いなので同じくらいで到着します」


えっそんなに? 時速100キロで進む磁力クルーザーらしいです。

クルーザーに乗りてぇー、隣の大陸に行きてぇー、南国でバカンスしたい気分です。

コナコーヒーが飲みたいな。


帝都の城壁を潜ると兵士たちが道の両側に並びザッケリーニ王国の使節団を歓迎しています。


「このままホテルに向かうのですか?」

「いえ、このまま宮殿に向かいます。皇帝陛下に挨拶し夕食会、その後解散となります」

「えっ? 僕は無関係だからそのままホテル行っていいよね?」


お姉ちゃんに訊きました。


「あなたが主賓なのだから行かなくちゃだめよ」

「はぁ、そりゃお姉ちゃんは皇帝陛下の娘らしいからいいけど、僕他人だよ? 平民だよ? 花屋だよ? 今は教師だけど。殺されちゃうよ?」

「誰も殺さないから、安心なさい。覚悟を決めて私に付いて来ればいいから」



▼△▼△▼



覚悟を決めて(何の覚悟だか‥‥)やって来ました皇帝陛下の住まう宮殿です。

ザッケリーニ王国でこの帝国の皇帝の恐ろしさは嫌と言うほど耳にしました。誤れば即、死です。誤即是死です。帰ってもいいですか? 駄目ですか、そうですか、トイレの場所はどこ、いえ逃げませんから、あー‥‥連れてかないでぇ‥‥


連行されました、謁見の間です。

白いです。大理石の床、大理石の壁、大理石の天井です。

全て白い大理石。リインカーネーションの居た空間が霞んで見えるほど贅を凝らした白の空間です。まるで僕達の芝居を観覧する客の様に周囲を囲んでいます。


徐に皇帝が立ち上がりました。

先日拝見したので覚えてます。


「ザッケリーニ王国使節団の方々よ、良くぞ参られた。歓迎する。王国と話し合うこともあるがそれは我が国の大臣や事務官と話し合ってくれ。さぞ長旅疲れたであろう。途中で盗賊も退治されたとか。食事を用意したので腹一杯食べて直ぐにホテルで休んでくれ。それから、ファレノプシス」

「はひぃい?」


突然名前を呼ばれて変な声が出ました。

僕は関係ないのに。もう泣きそうです。いえ、泣いているのかもしれません。


「ザッケリーニ王国での戦勝、すべて貴様がいたからだ。それで勝てた。貴様一人の手柄と言っても過言ではない。褒美として貴様を皇太子にする。分かったか」


いえ、分かりません。褒美なら現金がいいです。婚約者を自称している人達とかが僕に寄生してますので。現金が足りないのです。皇太子は嫌です。現金を!


「なんだ、不服そうな顔だな?」

「そ、その生活が苦しいので現金が欲しいかなと‥‥」

「はぁ? 使う金はあるだろうが。自分で何とかしろ」


ど、どこにあるのでしょう?

もう、王様辞めて教師に専念するしかないようです。

婚約者? 解雇です。

メイド? 解雇です。

側室? 解雇です。

蛾? 蚕です。

姉? 姉は王族らしいので金を貰ってきてください。


「それから一つ情報が入った。隣の大陸にあるタボラッツィー皇国が動いた。呪術集団カースは煽動の為に皇国が帝国に送り込んでいたようだ」


なんだか僕には関係のない話です。


「ファレノプシス、カースはずっとお前の命を狙っていたのだ。だから姉と共にお前を隠した」


げっ! まさかのゲロゲロです。

皇子に間違われて僕は命を狙われえていたようです。飛んだとばっちりです。うんこのとばっちりも殺人のとばっちりもどうにかしてもらいたいものです。

早く本物の皇子にお出まし願わないと僕が暗殺されてしまいます。ただの花屋の教師なのに‥‥


「タボラッツィー皇国は皇太子であるファレノプシスを狙い帝国に戦争を仕掛けてくる。恐らく数年内に。最悪早まるかもしれん。ファレノプシス、くれぐれも用心しろよ。まぁ、大丈夫だろうがな」


大丈夫だろう?

どういうことでしょう?

あっ!!

あれだ!


「陛下、つまり僕は囮だということですね。だから大丈夫だという事なのですね。本当の皇太子を隠し命を狙わせないために死んでも良い他人の僕を皇太子に仕立て上げたのですね?」

「いや、そんなことは露ほども思っておらぬのだが。グロリオーサ、何とかしろ」

「大丈夫かなぁ? まぁ、任せてよ」


くそっ、皇帝は姉を利用して僕を丸め込むつもりのようです。その後の皇帝の話は全く記憶してません。右から左に受け流してしまいました。


謁見時間も終了し意気消沈して謁見の間を出る時声を掛けられました。


「兄上、お久しぶりでございます」


誰ですか、僕に妹はいませんが?

見るとグロにそっくりな顔してます。

グロの妹でしょう。

でも僕とグロに血のつながりは無いようなので妹ではありません。

まぁ、本物の皇子と勘違いしているのでしょうけど。


「はいはい。おひさしぶり、おひさしぶり」

「兄上が冷たいですぅ」


何か涙目です。

そう言われても会うのはこれが初めてなのだから仕方がありません。


「はいはい。冷たい冷たい」


痛て、グロに殴られてました。グーはよしてください。


「妹には優しくなさい」


はい、怒られましたっ。

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