第43話 お手‥‥って普通の犬でもできるでしょ?
帝国の属国であるマンデリン王国に入ってから暫く進んだ時のことでした。
運転手が焦った様子で叫びます。
流石に木が置かれていてはMRAPマックスプロでも通れません。
すかさずハンビーから護衛が5名降りて車を囲みます。
周りから盗賊と思われる荒んだ服装の男達が出てきました。
「なんだこれは? 馬車か、走ってたぞ。これからは俺のだ」
ふざけたことを宣っているあの男がこの群れのボスでしょう。
もう僕の車です。辞めるまでですが。僕専用の車はヴェンチェズラオさんに新たに作っていただきましょう。形はフェラーリで。いえ、この道の発達してない世界では乗れる場所がありません。帝都とかの都市なら可能でしょうか?
思考が横にそれました。
気が付けば周りは盗賊に囲まれてます。数十人はいるでしょうか。
僕は車の屋根にある出口から顔を出します。
なんとそこには銃がありました。
機関銃です。
無性に撃ってみたくなりました。
もう止まりません。引き金を引きます。スキル『タネ』を使用して平和裏に収めようと思ったのですが気が付いた時には機関銃を乱射してました。相手は僕らを殺し女性と財産を奪う盗賊です。殺しても褒められるだけです。
ドッドッドッとまるでハーレーの単気筒の様な重く重厚な音と共に銃口から火が出て盗賊をなぎ倒していきます。血が吹き出し手足が千切れ生きている者はのたうち回り、無事なものは逃げ出しました。
こういう場合は最後に『か・い・か・ん』と言うのが通らしいです。
理由は分かりません。
僕は人を殺しました。ですが、この命の値段の安い世界で生まれて人の死に対しで鈍感になっているようです。
初めてグレードSのスキル『キュウコン』を使う時がやってきたのです。
そのスキルの効果は求婚、ではなく、未だ結婚はしません、吸魂です。魂を吸い取りそのスキルを奪うものです。どうなるのか初めて使うので良く分かりません。
使いました。
結局一人から一つのスキルをランダムにしか選べないようです。しかもスキルを持っていない人からは奪えないのか持っていても奪えない場合もあるのか分かりません。
鑑定スキルが無いので分かりません。
おっと、下に似たようなスキルを持っている優愛がいました。
「ねぇ、死んだ人の持っていたスキルとかわかる?」
「分かんないよ、だってもう魂がないでしょ? スキルって魂に刻まれた技術って話だよ」
だそうです。
結局、手に入れたスキルは『抜刀』『切断』『窃取』『攻撃魔法』の様です。僕にはこれだけしかわからないので優愛に調べてもらうと全部グレードDでした。抜刀は剣術スキルが無いので使えそうにないです。切断は料理の時とかに仕えるかもしれません。窃取は使いません。唯一使えそうなのが攻撃魔法、グレードDですがライターの火くらいは出せるかもしれません。
「王様、ここで暫くお待ちいただけますか?」
「どうしました?」
まだ木も退かされてませんので待たなければいけませんがなぜか慌ててます。
「盗賊のアジトがこの近くにあるそうです。財宝もあるそうなので急襲します」
財宝?
僕も貰えるのでしょうか?
欲しいです。
改築費用とか、食費とか。
流石に姉と婚約者とメイドを養うとなると教師の給料では大変です。
「僕も行きます」
「いえ、危険ですので車にいてください」
「スキルがあるから大丈夫ですよ」
何とか納得していただき付いて行けるようになりました。
案内は何とか動ける盗賊です。
到着しました。
それは森の中の開けば場所にありました。少し大きな一軒家と言ったところでしょうか。
中に何人いるのか分かりません。鑑定スキルでもあれば判るのでしょうけど。
危険ですが優愛を連れてくるべきだったかもしれません。ですが何があるか分かりませんので連れて来なくて良かったですね。
「どうするんです?」
護衛のリーダーに訊いてみます。
「火矢も魔法も中の財宝を考えれば使用できません。話によれば女性もいるそうです」
「燻し出しますか?」
「そうですね。火を点けられたと誤解すれば出てくるかもしれませんね」
「いえ、勘違いしなくても一酸化炭素中毒させれば死にはしなくても弱るはずです。死ぬのかな?」
「イッサンカタン、ソチュ?」
「煙の毒ってことですね」
「なるほど、博識ですね」
まぁ、いつも賢いと言われている僕ですが博識と言われたのは初めてです。
白痴と言われたことはありますが、博識も白痴も同じ意味でしょう。
この世界の家は金持ちでもない限りガラス窓は使われてません。この家も例に漏れず窓は木で窓でしっかりと閉じられています。
外を覗き警戒しているのかもしれませんがお構いなしに風上にだけ木を置き燃やしていきます。
計算通り煙は家を包み込みます。
しかし窓という窓が閉じられているので煙はあまり入って行かないようです。こうなったら家自体を燃やすしかないかもしれません。
そう言えば先程得たスキルに『攻撃魔法』がありました。グレードはDと低いようですが、使ってみます。
スキルですので詠唱は必要ありません。発動句だけで良いみたいです。
「フレイムアロー」
すると炎がゆっくりと途中で消えるのでは? と思える速度で進んでいきドアに当たり燃え上がりました。直ぐに火は消えたのですが直径1メートルほどの円形に穴が開いたのです。計算通りです。
そこから煙が中に入って行きます。
数分経つと中から人が出てきました。
こうなればしめたもの僕は『タネ』をとばし彼の体を支配します。
中にまだ居るかと尋ねると捕まえた女性がいるとのことです。
直ぐに窓を破壊し煙を逃がします。
数分待って中に入ると女性が3名ぐったりしています。未だうら若き女性ですが既に慰み者になっていたようです。煙にやられたのか少々ぐったりしていますが、意識は明瞭で大丈夫そうです。
衛兵が外に連れ出しました。
僕はもちろん宝を見つけます。
探します。
絶対に見つけます。
分かりませんでした。
体を奪った盗賊に隠し場所を吐かせます。なんと、トイレの奥に扉がありそこから宝の部屋へと繋がっているようです。
しかし扉の存在に気付いてもこんな汚いところ誰も入ろうとは思いません。
だから外から壁を壊して入りました。
そこにはかなりの金貨がありました。勿論僕のアイテムボックス行きです。
しかし、問題発生です。ここは帝国の領土ですので没収した財宝は帝国への報告が必要らしいです。
他に剣とか槍とかあったのですが興味ないので護衛のアイテムボックスに入れてもらいました。護衛はいざと言う時の為に大きめのアイテムボックスを託されているそうです。
盗賊は全員捕縛です。
ボスの持つスキルが欲しかったのですが、スキル欲しさに無用な殺生はやりたくありません。
さぁ、帰ろうとした時でした。
くぅーん、くぅーん
動物が鳴いているようなのです。探すと棚の裏から聞こえます。棚を退かすとあら吃驚、犬でした。籠の中に薄汚れた白い犬がいました。未だ子犬の様です。
汚いので恩返しはいらないよと言って森に返してあげました。
車に戻るとこれから木を動かすので今日はここでキャンプするそうです。近くに川もあるらしいです。
盗賊は近くの木に縛り付けました。
車の前でキャンプファイヤーです。
前世でのキャンプを思い出します。バーチャルですが‥‥
護衛の方がギターを弾いてます。これもヴェンチェズラオさんが作ったのだとか。
一家に一台ヴェンチェズラオです。
優愛と肩を並べてキャンプファイヤーを眺めてます。
横には白い犬が寝てます。
え?
犬?
あれ? 森に帰ったんじゃ?
「この子犬どうしたの?」
「盗賊に捕まってたんだよ。森に放したのに」
「犬を森に放したらだめでしょ、野良犬になるよ。でも普通の犬わざわざ隠すかな?」
「鑑定してみれば?」
「あれ? これ犬じゃないよ」
「狼?」
「フェンリルだって」
「え、本当にいたんだ。フェンリルって。人語分かるのかな? お手!」
「それ、普通の犬でもできるでしょ?」
「フェンリルって美味しいのかな?」
「‥‥」
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