第42話 ヴェンチェズラオ様特製ですから


「王様、今宜しいでしょうか?」


外務大臣であり、ザッケリーニ学園の理事長でもあるフィオリーノ・ロッロブリジダ公爵の秘書ダフネ・クランソは王の居る宮殿へとやって来た。

王を探すと直ぐに見つかったので早速声を掛けた。


「ダフネか、王様は辞めろ、今は只の相談役だ」


今は王を辞任させられた身であり王と呼ばれるには現王に引け目がある。


「数年の辛抱ですね。現王ファレノプシス殿下が皇帝になられればまた王に返り咲けるでしょうし。でも信じて宜しいのでしょうか、今の皇帝の噂が‥‥」

「大丈夫だ。ファレノプシス殿下は信用できる。俺と同郷だからな」

「同郷?」


意味が分からないシルバーナであった。

ヴェンチェズラオ前王もファレノプシスも共に転生者であり元は日本人だった。ある意味同郷だと言えたのだ。


「明日より帝国訪問に向かいますが公爵がヴェンチェズラオ様のお車を貸してほしいとのことです」

「ああいいぞ。ファレノプシス殿下なら運転できるだろう」

「え? 見たことも無いのにですか?」

「同郷だからな」


更に意味が分からないシルバーナであった。

しかし、王はファレノプシスの王位継承にどこか納得できないものがあった。だからこそ彼を王とは呼ばず帝国の敬称である殿下と呼んでいたのだ。彼の本質的な地位は属国の王ではなく帝国の次期皇太子と目される皇子だからだと認識しているからでもあった。

そしてこの国は自分が作り上げた国でありこの国の王は自分しかいないとヴェンチェズラオは思っていたのだった。だから心の底ではこの国の王を無関係な人間が名乗ることなど許せることではなかったのだ。

彼の心の奥底には反抗の火は消えずくすぶり続けていたのだった。



◇◇◇◇



「私だけでも連れて行って?」


優愛が可憐な笑顔を向けながら我儘を言い始めました。

傾げた首が可愛いです。

確かに里帰りもしたいのでしょうけど、公務に便乗するのですから余計な人を連れて行く訳にもいきません。まして馬車に乗れるかも分かりません。


「えっ? 優愛を連れてくなら私もでしょ? メイドなんだから」

「いやいや、そんなに沢山馬車に乗れないでしょ? みんなで荷馬車で行く? 嫌だろ?」

「何人乗れるの? 私位増えても大丈夫でしょ? 5年よ、5年も会えなかったのよ。その上未だ会えない時間を作るの?」

「会えない時間が愛育てるってゴーさんも言ってただろ?」

「目を瞑っても康介はいないわよ! ただの暗闇よ!」


食い下がります。

そんなに人は乗せられないのに。

と言っても何人乗りの馬車かは知りませんけど。



「じゃあ、王宮まで付いて来る? 馬車に乗れなかった帰れよ」

「乗れなかったら馬車増やせばいいじゃない?」


あっそれもそうかと納得してしまいました。


「私もっ! 私は優愛付メイドだから一緒に行かないと」

「だったら二人とも家にいてよ。連れてってもらうんだよ。迷惑かけられないでしょ?」


結局二人はじゃんけんして優愛だけ付いてくることになりました。



▼△▼△▼



まずは学園です。

朝のホームルームにだけ出て暫く留守にすること、そして、ブルネットの肉感的アン先生に代わりをお願いすることを生徒に告げます。


優愛は近くのレストランで待たせてアン先生と二人で教室に来ました。


「あ、アン先生、騙されないで!」


ローナさん、煩いです。

相変わらず嫌われているようです。

そもそも騙しませんから。


「ま、まさか、そいつと結婚するとか言わないでしょうね! 先生騙されてるわよ! 目的はお金と体よ!」


ローナさんは僕をどう見ているのでしょうか。


「ローナさん、結婚はしませんし、騙してません」

「だったらどうして一緒に来るのよ!」


なぜか怒りのローナさんです。


「僕はこれから暫く里帰りします。帰りは半月後でしょうか。その間の代わりをアン先生にお願いしてます」

「里帰りなんて嘘よ! 女をこまして金を騙し取る旅に出るんでしょ! 


そんな暇はありません‥‥



◇◇◇◇



呆れて予定よりも早く学園を出ると、少々早めに王城に到着しました。馬車は元王の住む宮殿に置いてあるそうなのでそこへ向かいます。徒歩で10分程度です。


あ!


そこにあったのは馬車ではありませんでした。なんと転生して初めて見た車でした。しかもMRAPマックスプロ、つまり耐地雷・伏撃防護車両の形をしてました。まぁ、この世界で地雷はないでしょうけど、この車を作ったヴェンチェズラオさんなら作れるはずです。

自分で作った地雷を自分で防ぐって、どこかマッチポンプ的です。


「おはようございます、ヴェンチェズラオさん」

「おはよう、君なら車運転できるだろ?」

「え? なにを言ってるんですか僕高校生だったんですよ。車のゲームくらいしかやったこと有りませんよ」

「まぁ、ゲームやってたなら大丈夫だ。車の法律もないからな。運転手が疲れたら変わってやってくれないか。二人いるから大丈夫だとは思うが」

「そうですね、ゲームだと思って。ところで、転移できるアイテムって作れないんですか?」

「題してどこで〇ドアか? そうだな考えてみるよ。今考えてるのは飛行機とかだな」

「いいですね。楽しみにしてますよ」


車に乗り込むと中はかなり広く本物よりも広いのではと思える広さです。

15人乗りらしいです。

テレビはもちろんついてません。車内はロフトの様になっていてそこでは寝ることができるようです。

あれってこれって‥‥


「外観よりも広くないですか」


と運転手に尋ねました。


「ヴェンチェズラオ様特製ですから」


それが理由のようです。

彼には何でもありなんでしょうね。

だから中にキッチンがあってテーブルがあって周りにソファーがあってちょっとしたLDKのようです。

無理すれば20人以上乗れそうです。


そこに公爵、彼の秘書、事務官、新人女性、運転手二人それに僕と優愛で8人です。

葵ことメイドのマリーを連れて来ても良かったのかもしれません。


取り合えず二人で運転席背後の普通の車の様な横並びのシートに座りました。

なんとシートの前にはドリンクホルダーと畳めるテーブルが付いてます。飛行機のようです。シートもリクライニング機構がついてました。


「昔を思い出す。何か懐かしいよ」


窓の外を見ながら優愛が哀愁に浸ってます。

短かった前世でも思い出しているのでしょう。


「あの日、マックに行く予定だったんだよ。それがあの事故で行けなくって。食べたかった、くすん」


哀愁ではなく空腹だったようです。

車は街を抜けて行きます。

街の人たちも珍しいのか車は注目を浴びてます。

門の衛兵は敬礼して見送り止められることもありません。

当然馬車の横にはこの国の王族の紋章である二匹の立ち上がるグリフォンが描かれています。


「マックはないけどコーヒーはあるよ」


そこにいたのはグロでした。

グロリオーサは僕の姉です。血は繋がってないようです。なんでも彼女は皇帝の娘らしいのです。

朝は未だ寝ていたのですが、学園に挨拶に行っている間に来たのでしょうか。


「あれ来たの?」

「そりゃ、私も里帰りしたいわよ! あんただけずるいわよ。優愛おはよ」

「おはようございます。予定通りでしたね」

「え? 優愛知ってたのか?」

「そりゃそうでしょ。同じ家に住んでるんだから」


僕は知りませんでした。同じ家に住んでるんですけど‥‥

今気付いたのですが後ろからハンビーが追ってきます。


「公爵、ハンビーが追って来てますよ!」

「あれは護衛ですよ」


それはそうです。


「外務大臣が乗っているから当然ですよね」

「王様が乗っているからですよ」


あ、王様も乗ってました。



車は殆ど振動もなく荒れた道を進んでいきます。

馬車だと少しの荒れも響くんですよね。


ザッケリーニ王国は国としては狭く日本で言えば一つの県くらいしかありません。

流石に王族の紋章のついた馬車は襲わないのか盗賊の影も見えませんでした。

しかし、これから帝国に入って行きます。

この知られていない紋章は通用しないでしょう。

気合が入ります。


っていうか、この乗り心地の良い車を襲うやつなど許せません。即刻死刑でしょう。

いえ、殺しませんが。


「王様、道路に木が置かれています!」


何! 

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