第41話 ロッロブリジダは困り果てる

家を借りました。

王城の隣にある宮殿には前王ヴェンチェズラオが住んでるのです。

数年後には王に復帰するのですから宮殿には彼にそのまま住んでもらってます。まぁその頃には本物の皇子が現れて僕は花屋に復帰しているのでしょうけど。

束の間の王様です。

彼とは同郷と言うことで協力関係を築けました。彼もその方が国の問題を解決できると理解したのでしょう。更に数年後には再び王に戻れるということで渡りに船とこの関係を受け入れたようです。これで中世的な帝国が一気に近代化することでしょう。


家は国が無償で提供してくれました。

以前は伯爵が住んでいたようでかなり広いです。


「私、三階の角部屋でいい?」

「じゃ、私は優愛の隣の部屋ね」


優愛ことアダルジーザは戦勝後当然の様にこの家に居座っています。戦争以来国には帰ってません。当然葵ことメイドのマリーもお世話するとか言って居座ってます。


「二人は帝都の自宅に帰らなくてもいいのか?」

「久しぶりに会えた婚約者の家だからさ、帰る訳ないじゃん」

「私はほら付き人だからさ」


まぁ、嬉しいので良しとしましょう。

そしてもう一人、姉が住んでます。


「私二階の角部屋でいいよ」


姉は家族だから彼女が住むのは当然です。

側室契約をしたシェーダ・クルチにはまだ引っ越したことは伝えてません。

伝える気もありません。彼女は正式に誰かと結婚したら側室として迎えましょう。

その時までに本物が現れてくれたら良いのですが。そうなれば彼女は当然契約を破棄してくれるでしょう。上昇志向の強い彼女ですから花屋なんかの、今は教師ですが、側室にはなりたくもないでしょうから。


何とか部屋も決まりました。

僕の部屋?

一階にしました。庭付きです。犬が飼いたいな。

今度ペットショップ探します。

1階の理由は何かあった時にすぐに対処できるようにです。

その代わり執務室は3階にあります。

因みにこの家は3階建てです。



◇◇◇◇



「ローナ、あいつの悪事を突き止めましょう」

「カルメン、それがいいわ。そうすれば言い逃れ出来ないわ」

「どうやって突き止める?」

「放課後先生の跡をつけましょう。運が良ければすぐにあいつの悪事が見つかるわよ」

「放課後が楽しみね」


ファレノプシス先生が授業を続ける中、後方の席で良からぬことを企むローナとカルメンであった。


そして、放課後がやってきたのだ。

ローナとカルメンは職員室の前で出てくるのを待つた。なかなか出てこない担任にもう帰ったのかと焦りを募らせる。

遂に扉が開き教師が出てきた。

違った。

教頭だった。

尋ねてみる。


「あのファレノプシス先生はまだ居ますか?」

「授業の件で聞きたい事でもあるのですか? 私が教えましょうか?」


ねちっこい絡みつくような下心見え見えの邪な表情で申し出る教頭先生。


「いえ、個人的な事なので‥‥」


ローナはひきつった顔で御断りを入れる。


「そ、そうですか。先生なら理事長がいらっしゃって呼び出されました。おそらく理事長室で怒られてますよ」


しまったと直ぐに理事長室に移動する二人。1階にある職員室とは違い理事長室は最上階である3階に存在するのだ。

二人は息もつかずに階段を駆け上った。

漸くたどり着くとファレノプシス先生が出てくるところであった。


「間に合った」


二人は安堵の表情を浮かべながら跡をつける。ファレノプシスは追跡されていることにも気づかずにいるようだ。

暫く追跡は続く。

すると彼は商店街を通り抜けるようだ。途中店に寄りながら買い物しているようだが買わずに出て来ているようであった。いろんな店に入るがただ入るだけ。


「あいつ何してるのかしら、ただ店に入るだけって」

「何も持ってないわよね。もしかしたらアイテムボックス持ってるのかも」


元国王が製造したアイテムボックスの存在はこの国ではよく知られた存在であった。


「ありえない。あれ貴族でも持ってる人は少ないのよ」


疑惑を生みつつ商店街を抜けていくファレノプシス。


「何か探してるのかしら、早くしてよ、女性と密会して騙している現場を突き止めたいのに」


そこで、想定外のことが起こる。

ファレノプシスは商店街を抜け貴族街へと向かい始めたのだ。


「あいつ貴族街へ向かうわよ」

「あいつ平民でしょ? どうして貴族街へ行くの?」

「あ! 分かったわ。これから公爵の娘を口説きに行くのよ」

「な、なるほど! だったら現場を抑えられるわね。勿論カメラは用意してきたわ」


カメラ。これも元国王が製造し貴族には普通に普及していた。未だ一般人で持つ者は商家等の金持ちに限られてはいたのだが。風景を切り取り保存できるという優れものであった。


「ローナ、グッジョブよ。これで公爵もあいつを解雇するに違いないわ」


期待通りファレノプシスは貴族街を進み王城近くの上位貴族の住む高級貴族街に突入する。


「やはり‥‥」


ローナは呟く。


そしてファレノプシスは一軒の家に入っていく。

門には衛兵などおらず勝手に中へ入るファレノプシス。


「あれ、ここは公爵の家じゃないわよね。門に衛兵もいないし。あいつの家?」

「ま、まさか、違うでしょ。恐らく新たな獲物の家よ」


狼狽えながら答えるローナだったがその目は獲物を見つけた肉食動物の様にファレノプシスを見つめていた。



ファレノプシスが家の中に入るのを塀に隠れ見ていると扉が開いて女性が出てきた。

女性は嬉しそうにファレノプシスを出迎えると彼に抱き着いたのだ。

そして家の中に招き入れた。


「やはり! 思った通りだわ。女性を騙しに来たのよ」

「そうみたいね」

「私達も中に入るわよ」

「いいの?」

「家の中を覗いてカメラで撮るだけよ」

「証拠は必要よね、今のも撮った?」

「もちろんよ」


意気込んではいるが忍者の如く気付かれないように庭に侵入し家屋に近づく。

窓に張り付き家の中を確認する。

リビングだろうか。

家の中を見た二人は驚愕する。

女性三人に囲まれたファレノプシス。


「なぜ? 三人も?」


ローナの頭を疑問が駆け抜ける、が、答えは出ない。


「恐らく、騙していた女性がかち合ったのよ、トリプルブッキングね!」


カルメンが邪推する。


「でもみんな笑顔よ」

「え? だとすれば三人纏めて騙されてるのよ!」

「そうね、そうに違いないわ。この写真を公爵に見せれば彼の娘が騙されていると気付くはずなのは間違いないわ」




後日、二人は女性三人と談笑するファレノプシスを撮影した写真を持って理事長室を訪れた。


「これが証拠です。公爵閣下の娘さんは騙されています! あいつを首にしてください!」

「私に娘はおらん」

「「はい?」」


困惑顔の二人であった。



▼△▼△▼



理事長室を後にしたフィオリーノ・ロッロブリジダは王城にある自分の執務室へと向かう。現王よりも王城にいる時間は長い。現王は一切政治には口を出さないので彼らは助かっている。ただ前王がいまだに王の如く王の代理として全職員の行動を監査監督しているので手を抜くことは出来ない状況であった。それもこれも数年後には前王が王に復帰するので前王も手は抜けないからである。


「(まったくあの二人にも困ったものだ。)」


公爵はあの写真の三人の女性には会ったことがあった。

全て現王の関係者。姉と婚約者とそのメイド。何ら変なところなどありはしない。

しかし、王だと知らない者にとっては、ましてや彼が平民だと思っている者にとっては貴族屋敷で女性三人と会っているのは不思議でしょうがないのだろう。詐欺師だと疑うのも仕方が無い事かもしれない。王も素性を公表すればよいのにとは思わずにはいられなかった。その場合教師は辞めることになるのだが彼が教師に固執する理由も見当たらなかった。


「おはようございます閣下」


彼の執務室でいつもの様に彼の秘書ダフネ・クランソが挨拶してくる。


「本日の御予定はドコゾーノ帝国の外務大臣との会談に備え担当事務官のベンヴェヌート・タスカとの会談内容の摺合せ。そして明日ドコゾーノ帝国の帝都ドコゾノブルグへ向かいます。現地では帝国の外務大臣と面会し今後の帝国における魔道具の販売いについての会談が予定されています」

「そうか、長旅だな」


彼は39歳であり、未だ老人とは程遠い年齢ではあったが馬車による長旅経堪えるものだった。


「前王専用の車を貸してもらえないか前王に訊いてくれないか」

「承知いたしました」


前王専用の車、それは魔道具で動くサスペンションのついた乗り心地の良い車であった。エネルギーは魔力。魔力の豊富な人であれば一日中動かせるものであった。

前王は魔力の豊富な運転手を用意し運用していた。


「それで、同行者はタスカだけか?」

「それと、私ダフネ・クランソとタスカの秘書のシルバーナ・ビッキも同行します。加えて新王も里帰りなさりたいと仰られてるそうです」

「そうか、王が同行するなら前王も車を貸してくれるだろう。楽しみだな、美人の奥方も同行するのだろ?」

「いえ、帰りに側室の方を連れていらっしゃるとかでお一人だけです」

「そうか、帰りに期待しようか。しかしあの男は女好きなのか? 生徒に詐欺師と疑われていたが王じゃなければ立派な結婚詐欺師だな」

「いえ、王は女好きではなく勝手に女性が寄って来るようです。私もその気持ちは良く分かりますわ」

「君もか? くれぐれも道中君まで騙されるなよ」

「ふふ、騙されてみたいものですわ」

「勝手にしろ」


舌なめずりしながら明日からの旅行に期待を寄せる秘書のダフネ・クランソであった。


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