第39話 あの、妹の方も‥‥
彼女でもない女性の御両親に会うのはあまり緊張しませんが、今日会うのは子爵様です。
先日まで只の花屋に過ぎなかった僕が会うのは気が引けます。ですが、皇帝に王をやれと強制されて王にされてしまったのですが偽物とは言え一応王様やってますので少しは気が楽です。
「こんにちはー」
玄関先で挨拶するとメイドさんが僕を招き入れてくれました。
直ぐに皆さんの居るリビングに案内されます。
「いらっしゃい」
条件成就によって契約が成立し側室(仮)となったシャーダが招き入れてくれます。
金髪碧眼で凄く綺麗な方です。
お義父さんと目が合いました。どこかで見たことがあるのですが憶えてません。僕を見た瞬間、お義父さんの表情が引きつりました。
あっ、先日王城の執務室に挨拶に来られた方です。
シャーダの隣には同じ金髪の女性がいらっしゃいます。妹さんでしょうか。
「げっ!」
顔を見た瞬間驚かれたのか変な声を出されました。
良く見るとまさかの受け持ちクラスの金髪娘ローナさんです。
どうやらシャーダさんの妹さんだったようです。
「姉貴、こいつ、うちのクラスの担任! 先日公爵の息子殴って捕まったやつだよ!」
「あんた煩い!」
結婚に反対なのか妹のローナさんがエキサイトしてます。
そこに僕の素性を知る姉のシャーダさんが不味いという表情で妹の暴言を止めようとしてます。
「す、すいません。お、お許しください」
更に素性を知る父のクルチ子爵が平身低頭です。
「なんでこんな奴に頭下げるのよ、馬鹿おやじ!」
その姿を見たバカ娘ローナがクルチ子爵に向かって暴言を吐きます。
そのカオスな状態を遠くで見つめる母親とメイド達。
どこか他人事です。
僕はソファーに座ってそのカオスを眺めてます。
「あ、あんた、な、なに勝手に座ってんのよ? 私達は貴族よ! 平民の分際で何偉そうにしてるの! パパ、こんな奴無礼打ちにして」
パシッ!
無礼打ちです!
物凄い音がして吹っ飛びました。
ローナが。
平手打ちをしたのはクルチ子爵でした。
「な、何で私? 無礼なのはこいつでしょ!」
怒り心頭です。
「無礼なのはお前だ!」
「婚約者でも平民でしょ! 無礼よ無礼!」
「婚約者だからじゃない!」
子爵は娘が僕の学校の生徒だと知ったために僕の素性は娘には言えません。
僕の素性を知る上級貴族にはその点を戒めてます。
まぁ、僕の本当の素性は只の花屋ですけど。
いつか本物の皇子が現れたら交代します。
結局ローナは自室に籠ってしまいました。
「えっ、この方が新しい王様?」
「そうだ、帝国の次期皇帝だ。ローナには絶対に言うなよ」
「こっ、こここ、皇帝? ふーっ」
お義母さんは今にも倒れそうです。
子爵が僕の素性を明かしました。何とか持ち直し目を皿の様にして驚いてます。く、口が開きっぱなしですよ?
子爵以下には帝国についての情報はタブーだったのですが過去の話です。戦争終結後すべての国民に帝国のことは知らされました。
鎖国とは言え、隣の大陸のことは知られているのに隣国である帝国は知られていないというとんでもない政策でした。恐らく転生者のヴェンチェズラオ前王が江戸時代をヒントにしたのでしょう。
日本の鎖国は正解だったということでしょうか?
歴史に詳しくなかった僕にはわかりません。
ところで織田信長は勝海舟と対決したのでしょうか?
「ど、どうしてローナがそんな方に見初められたのでしょうか? 胸なんてぺったんこなのに」
「脅され‥‥」
シャーダに睨まれました。
「僕は戦争の為に人質として捕らえられたのですが彼女が助け出してくれたのですよ。けして側室にしないと助けないと脅されたわけではありません」
また睨まれました。
ちゃんと嘘ついたのに‥‥
「側室ですか?」
お義母さんは少し落胆した様子です。
「はい、正室には小さい頃からの婚約者が充てられるそうです」
「そ、そうですか‥‥あの、妹も、妹の方も貰っていただけませんか?」
「げっ!」
僕はとても不味そうな顔をしていたのでしょう。
「確かに先程は失礼なことを言ってましたが本当は良い子なんです」
お義母さんは弁明します。
でもお義母さん、彼女の所為で牢屋に入れられたんですよ。
絶対に嫌です。
「姉と違い胸が大きいで‥‥」
「承知しました。是非妹さんもお任せください」
僕は被せ気味に意見を翻しました。
まぁ、本物が現れたら僕は只の花屋に戻ります。
その時は僕を助けた側室目当てのシャーダは僕の元を離れてくれるでしょうし、妹のローナさんが残るのも良いかもしれません。
性格はあれですが‥‥
「くれぐれもローナさんには僕の素性は内緒にしてください。僕の生徒ですので」
もう一度戒めクルチ子爵邸を辞去しました。
平民の僕に貴族が頭を下げるのは気分が良いものです。
△▼△▼△▼
「ちょっと聞いてよカルメン。信じられなかったわよ、あの糞教師、こともあろうにお姉さまを騙くらかして」
「ローナ様お言葉が‥‥罰が必要だわ。今度こそぎゃふんと言わせなきゃ」
「いえ、言わせる前に死んでもらいましょう」
ここに帝国皇太子暗殺計画が勃発したのであった。
帝国刑法第101条 皇族を殺害した者は死刑に処さない。健康を継続させ長寿を全うさせる。その長きに渡り責め苦を味わい尽くさせる刑に処する。未遂の者も同罪とする。
そう、只では殺さない帝国の法であった。
帝国刑法第102条 皇族の殺害を計画した者は死刑に処する。ただしその計画を密告した者はその刑を減軽する。
帝国法に照らせばローナとカルメンの死刑が確定しそうである。
「また悪巧みかローナ? 俺も混ぜてくれるよな?」
「もちろんよ、ブルーノには重大な役割を担ってもらいましょう」
「誰を罠に嵌めるんだ?」
「担任の先生よ。今回は殺して差し上げるの」
「いやいや、それはまずいだろう」
流石に愛するローナの頼みであっても理由もなく殺害となればお家断絶につながるかもしれない。貴族の子息としてはそれは避けなければならなかった。
「ブルーノ・インセーニョ、あんた芋引くの?」
「ローナの頼みでも殺人となれば話は別だ。知ったからには俺にはそれを止める義務がある」
ブルーノはローナに惚れている弱みはあるがその実は義に厚い男であった。
「お前ら何やってるんだ? また悪巧みか?」
そこへやって来たのはこの学園の理事長の息子、そう前にファレノプシスを罠に嵌めた公爵の息子であった。
「あー、フィリッポ、ちょうど良いところに来たわ。今度は殺すのよ」
「誰を?」
「担任よ、ファレノプシス先生よ。奴を殺すの!」
フィリッポは絶句した。
当然である。
彼はファレノプシスの正体を知ってしまったのだから。
「止めろ! 計画するな! 死ぬぞ!」
帝国法も知っていたフィリッポであった。
「なんでよ? 誰が死ぬのよ? 死ぬのは担任でしょ?」
「だから止めろ!」
理由を告げることのできないもどかしさに地団太を踏むフィリッポであった。
「いや、俺も止めろって言ってるんですけど、ローナ聞かなくって」
「ブルーノ、お前いい奴だったんだな。一緒にファレノプシス先生に仕えようぜ」
「はい?」
先生に仕えるって何を言ってるんだこいつと思わずにはいられないブルーノであった。
ガラッと音がして教室の扉が開き担任の先生がやってきた。
「あれ? フィリッポさん、このクラスの生徒じゃないでしょ?」
ファレノプシスは困惑する。
「やだなぁ、先生。俺は先生に仕えるって言ったじゃないですか? 当然お近くに鎮座しますよ」
鎮座するってお前は神か? 何か偉そうだと思わずにはいられないファレノプシスであった。
「あなたの教室に戻ってください」
「ご命令ですか?」
今にも泣きだしそうで不服そうにファレノプシスを見つめるフィリッポ。
「はい、戻ってください」
「仕方ありません」
フィリッポはまるで恋人に振られたかのように俯きながらとぼとぼと自分の教室へ帰って行った。
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