第34話 ザッケリーニの憂鬱
「どこを見てらっしゃるのかしら?」
胸を見ていたのを気付かれたようです。
なぜか無い胸を抑えてるのに自慢げです。
「良くお考えになって。側室か即死かです。私が逃がせば生き延びられますがこのままならあなたは処刑されます。皇帝の一族はみな公開処刑の予定です。帝都の宮殿前の公園に皇族の首が並ぶことでしょう」
僕には関係ないですけどね。
例え関係があったとしても僕は死なないと思いますが。
「流石次期皇太子と目されている第一皇子殿下。余裕の表情を崩しませんね」
はい、全く関係のない話をされても心は動じませんから。
「よく検討されてください。自ずと道は見えるはずですよ」
おーっほっほと笑いながら秘書は去って行きました。
金髪碧眼の綺麗な方でした。
胸はなかったですが‥‥
しかし、戦争ですか。
帝国が負けるとは思えません。
どうしてあの強大な帝国に喧嘩を売ろうと思ったのでしょう。
まさか僕を人質に有利に戦争を進めようと?
『誰だ、それ? 皇子は女といちゃついとる。勝手に殺せ』
『だそうだ』
『ギャ~~ッ!!』
と殺される未来が見えてしまいます。
未来視のスキルは持ってませんが。
ところでこのままここに居ても良いのでしょうか?
例え彼らに僕を殺すことは出来ないと思ってはいても戦争で折角貰った家が壊されるのは納得がいきません。
結論 : 戦争は阻止
阻止することに決めました。
『タネ』を使って人を操ります。
まぁ、先ずこのスキルを使えない状況を何とかしないといけないのですが。
一つは解決方法があるのです。
ですが危険で怪しくあまり使いたくありません。
そうです、貧乳を側室に加えることです。
しかし、そんなに沢山の側室、貧乏な花屋には養えません。
既に一人の側室(希望者)がいるのですから、奴隷ですけど‥‥
戦争ならもう一つのグレードSのスキル『キュウコン』が使えそうです。
上手くいけば簡単に戦争を止めることが出来るでしょう。
先ずは脱出を図ります。
・・・・
諦めました。
どうにも頑丈で脱出できそうにありません。
手錠も外せませんし。
お昼寝します。
物音を感じ目が覚めました。
秘書の女性、名前はシャーダ・クルチさんが簡易ベッドの横に座ってました。
「あれ? 出してくれるの?」
「それはあなた次第。何の報酬もなしにリスクは犯せないわ。リスクに値する報酬が必要ですわ」
「でも鍵開いてるでしょ? あなたを人質にするのでもいい」
「無理よ、手錠があるから」
「この手錠は何? それだけ教えてもらえませんか?」
「これは王様がお造りになった、すべてのスキルを抑えるもの、たとえあなたがどんなスキルを持っていても外すのは無理よ。どう側室にする?」
「地位が目当てなんでしょ?」
「当然だわ。それが無い男に興味ないもの」
花屋の側室のどこがいいんだか。
花屋って人気があるのかな。
まぁ、勘違いしてるんだろうけど。
「それじゃ、手錠外してくれ。そしたら考える」
「どうやってその言葉を信じろと? 信用も証拠も無いわ」
「逆にどうしたら信用してくれる?」
「そうねぇ、ここで抱いてくれる?」
「‥‥無理! 胸の無い方はちょっと‥‥」
「はぁ? 失礼ね! あるわよ」
「二つだろ?」
「‥‥よ、良く分かったわね」
国は違っても考えることは同じようです。
「まぁ、いいわ手錠を外してあげる」
愚かにもシャーダは口約束だけで手錠を外したのです
こうなったらしめたもの。
「シャーダ、残念だったね。僕は出ていくよ。口約束で手錠を外した自分の愚かさを呪うんだね」
僕は皮肉たっぷりに文句を言って牢を出ます。
あれ?
出れませんでした。
「流石噂通りのアホっぷりね。口約束で牢を出すわけないじゃない。手錠を外しただけよ。やっぱり側室にする気はないのね。まるで男の屑、屑は約束しても証拠が無いからと約束を無かったものとして扱うのよ」
「くっ!」
だ、騙されました。
騙したつもりが騙されました。
「本当に側室にするから逃がして」
「今度は何を信じろと?」
「誠意を?」
「それがどこにあるのかしら? じゃあ、側室にするって一筆
僕の表情を見て真剣だと分かったのか、シャーダは紙とペンを差し出しました。
「最後に質問するが、君が僕を逃がすと何を根拠に信じられる?」
「だったら死ぬ?」
いえ、それは根拠ではないのですが‥‥
他に選択肢はないということですね。
今日の日付、側室にする文言、僕のサインを書いて渡しました。
勿論左手で‥‥
「あんた、わざと左手で書いたでしょ?」
バレてます。
筆跡鑑定で直筆だと判明しないように書いたのに。
言い訳をしないと。言い訳ぇ‥‥あっ!
「どうして、そんなことをする必要があるんだ?」
「そんな汚い字の人見たことない」
ガーン!
右手で書いても変わらないので気が付きませんでした。
◇◇◇◇
「あの先生たった一日だったわ」
ここは国の名を冠したザッケリーニ学園の問題児クラス。
その教室で金髪碧眼のローナ・クルチはご満悦だった。
一昨日の作戦で担任は捕らえられた。
また担任を辞めさせることが出来た。
これでこのクラスのリーダーシップは握れる。
誰も逆らえないと独り言ちる。
「ほんと、ローナの計画は上手くいったよね、でも良く公爵の息子なんて知ってたよね?」
ローナの腰巾着、もとい、友人、赤毛のカルメン・バッサーニはローナの悪友、ここ最近二人で悪戯ばかりしていた。
「ああ、あいつ私にメロメロだから昔から利用してるのよ。下手に出てれば思うように動いてくれるから。今回も先生に色目使われたって言ったら喜んで計画に加わってくれたわ、ちょろいわね」
貴族とは言え下級貴族のクルチ子爵家に生まれたローナはその美貌で上級貴族の子息達を顎で使っていた。皆、ローナと親密になりたくて贈り物を贈り命令されれば喜んで実行していたのだ。カルメンとはこの学校で知り合ってそれ程経っていない。その為カルメンはローナの昔の交友関係についてはあまり知らなかったのだ。
「ローナ、新しい先公来たらまた追い出すんだろ?」
ガキ大将の様な性格のブルーノ・インセーニョは伯爵家の子息というだけあり、人の者は俺の物という我儘な性格で他人に命令してばかりの男だ。しかし、惚れた弱みでローナには逆らえないどころか彼女の命令を受けるのは無上の喜びだった。
「当然じゃない。今度はブルーノも計画に加えてあげるわ」
「本当か? 今度は一緒にやろうな」
前回の計画にはブルーノはその前の計画の時のしくじりが響き加えてもらえなかったのだ。だからこそ次は加えてもらえると心から喜んだ。人生訓は『人の者は俺の物、俺の者はローナ様の者』のブルーノだった。
「はい、皆さん静かにしてください」
朝の始業時間が始まり担任のファレノプシスが不在の現在、ブルネットの肉感的な女性、アンが彼の代わりにホームルームという授業前の事項等の伝達の為の時間に来ていた。
静かにという言葉など聞きもせず教室の喧騒が鎮まることはない。
ファレノプシス先生が来たときは静かになった、あんなことは初めてだ。
物静かで優しそうな彼が暴力を振るう訳がない。
またこのクラスのローナの陰謀だろう。このままではファレノプシス先生は懲役刑だ。また新たな先生を雇うことになるのだが、それでもローナは辞めさせるのだろう。
何が不満なのだか。
アンは誰も話を聞かない教室に伝達事項を伝えながらそんなことを考えていた。
◇◇◇◇
ザッケリーニ王国、王城の謁見の間。
贅を凝らすこともなく質素で質実剛健な造りだった。
物は言いようで質実剛健も要は貧乏なだけだったのだ。
人も疎らで税も疎ら、王は愚王で何らの対策も打たなかった。
更に貧乏は加速しもはや滅亡の一歩手前まで来ていたのだ。
しかし王が代替わりし新たな王が即位した。
彼の名前はヴェンチェズラオ・ザッケリーニ。
職業は『マジックアイテムメーカー』魔道具師であった。
彼の作り出す魔道具は画期的なものが多かった。
その魔道具を売ることで利益を得、国民は無税として疎らな国民を王都の一か所に集め経済と文化を発展させようと努力してきた。
国民は増え、国力も増加した。
そして彼も既に50歳を超え最早後進に道を譲り余生を楽しむ年齢に到達しようとしていた。
国に対する最後の奉公として作成した魔道具の数々、経済力を持って不足し始めた国土を得る為に隣国であるドコゾーノ帝国に宣戦を布告することを検討する。しかしドコゾーノ帝国はあまりにも強大であったのだ。
ヴェンチェズラオは悩まされていた。
月日と共に年老いていく体に反比例するように更に強大になっていく帝国。
今、ここで戦いを挑まなければ帝国は更に強大になっていくだろう。
戦わなければいずれ国の資源は尽きる。
増加する人口に対して土地が少なすぎる。
周りにある国は帝国だけだった。
最早帝国から勝ち取るしか土地は残されていなかったのだ。
ずっとヴェンチェズラオ・ザッケリーニ国王の憂鬱は続いていた。
しかし、幸運は齎された。
なんと帝国の皇太子の一番の候補の第一皇子が呪術集団カースの暗殺を避ける為に身を隠しているという。
直ぐに第一皇子の捜索を命じた。
数年の月日は過ぎ漸くその所在を突き止めることが出来た。
更に、その場所には見張りも護衛もなく貧乏に暮らしているという。
直ぐにヴェンチェズラオ国王は命令を下した。
生きたまま捕らえ連れてこいと。
そして酔って寝ている集団の中にいる目的の人物を探して連れてきたのだ。
しかし、王都の手前で逃亡を許してしまった。
直ぐに捜索させるとザッケリーニ学園で教師をしているという。
奸計を弄し連行するとの報告を受けていた。
そして吉報がまた齎されたのだ。
「王様、また捕らえました」
「捕まえたのか? これで宣戦布告できる」
「しかし、人ひとりを交渉の材料に使えるものでしょうか? 国土の為には切り捨てるのではありませんか?」
「帝国はアウグストゥス帝のワンマン個人会社だ。社長の一言で全てにけりがつく。株式会社なら社長がしたくても役員会や株主総会での言い訳が必要だ。しかし、あそこはあのワンマン皇帝の一言で全てけりがつく。個人会社と同じだから第一皇子を人質にすれば属国一つの割譲など容易いだろう」
「い、意味は良く分かりませんが上手くいくということですね」
そう、ヴェンチェズラオ国王は転生者であった。
故に普通の職業でもそのスキルは破格であったのだ。
「そうだ、上手くいく」
「ですが、下の者どもはザッケリーニ王国が帝国を打倒、帝国を我が物とし、帝都の宮殿前の公園に皇帝一族の首を晒すと息巻いておりますが」
「誰が言ったのだろうな。困ったものだ。まぁモチベーションが高いのは良いことだ」
その情報を流したのがヴェンチェズラオ国王だったのは言うまでもない。
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