第31話 夢のまた夢
「あぁ、よく寝たぁ?」
周りが煩い中僕は目を覚ました。
しかし、目の前にはグロがいやグロリオーサがいた。
グロなんて呼ぶと怒られてしまう。
目が合うとグロリオーサは突然泣き出し抱き着いてきた。
夢なのに激しいなと抱き着き返す。
夢だと判ってはいるが久しぶりに会えて嬉しい。
でも少し瘦せたかなと思う。夢の中でも食べ物が少なかったのだろう。
姉の隣には優愛が。
前世の面影もない今は帝国貴族の侯爵令嬢、雲の上の存在だ。けど、彼女も泣いていた。
アッサムもいた。彼女も泣いていた。
茜も泣いていた。
せめて夢の中なのだから笑顔でいてくれたらと思わずにはいられない。
勿論、夢の中でさえニルギリはいない。
夢の中でも引き籠ってるのか、せめて夢の中くらい外出しろよと言いたい。
「お姉ちゃん痩せた? ってかなんで泣いてんの? 久しぶりに見た夢の中でくらい笑顔でいろよ」
そう言って僕も泣けてきた、夢なのに。
まぁ、夢の中でも悲しくなることはよくあることさ。
「夢じゃないよ、私は生きてるから」
「はいはい、そのパターンね。それって目が覚めた時には異常に悲しくて寂しいんだよ? 分かってる? 僕を一人にして悲しませてるのに更に悲しませるってどんな姉だよ。鬼だね。おねえさんじゃなくって鬼いさんだね。鬼いさん」
「ファレ、良く喋るようになったね、記憶を取り戻した?」
「はい? なに訳の分からないこと言ってるの?」
「前世の記憶取り戻した?」
「え? 知ってるの? まぁ、僕の夢だから当然知ってるよね。やはり夢だね、夢夢だね」
「だったら、私とこの国へ逃げてきた理由も思い出した?」
「何言ってるのさ、夢過ぎて意味わかんないんだけど? 昔からこの国住んでたよね?」
「未だ思い出してないのか。まぁ、それはおいおい思い出すよね」
「いやいや、今思い出させてよ。そんな記憶があるのなら。まぁ、夢だからどうせないんだろうけど。意味深なこと言って目が覚めて何だったんだろうってなるパターンね。もういいって、そろそろ夢から覚めるんじゃね?」
「本当に良く喋るようになったね、お姉ちゃん嬉しいよ」
「でもなんでお姉ちゃんが、記憶を操作できるの?」
「私も転生者だからよ」
「はぁ? ああ、だから、グロって呼ばれるのを嫌がってたのか。グロいって言われてるみたいだからね。確実に夢だね。あのグロが転生者な訳ないって。転生者なら僕にこんなに苦労させてるはずないし、凄いスキルで金儲けして贅沢な暮らしをさせてるはずさ。もう確実に夢だね。夢、夢。もう目覚めてくれないかなぁ」
バコッ!
「あっ痛てっ! 何だこの夢痛いぞ?」
「夢じゃないから。私生きてんの! 死んでないの! コーチャにも田中にもあなたにも私が死んだ記憶を植え付けたの、分かる? 夢じゃないのよぉ、起きろぉ!」
頭をパコパコ叩かれて流石に夢じゃないのかなと気付き始めた。
「じゃ、グロは生きてるのか? 死んでないのか?」
「誰がグロいのよ! 私はグロくない!」
はぁ~、なんだかなぁ、やっぱ夢かな。
夢じゃなかったら絶対にグロは前世でグロいって言われてたんだよ。
だからグロって呼ばれたくないんだな。
「お姉さん、ファレがとっても失礼なこと考えてますよ」
「茜黙れ、心を読むな、どうして夢の中でまで心を読むかなぁ、まぁ夢だからだな」
「だから夢じゃないって、お姉さんは生きてるよ」
「それより、どうしてファレは生きてるの? 私の記憶じゃあなたは屑な職業とスキルしかなくって私無しじゃとっくに殺されてたのに」
とても不思議そうに姉が僕を見る。
いつもこうだと決めつけて自信たっぷりに見るのに。
やはり夢だな。
「俺は女神リインカーネーションに『イモータリゼーション(仮)』ってスキル貰ったんだよ。かっこ仮だけど、一応不死のスキルだから心臓刺されたくらいじゃ死なないでしょ? 流石に首ちょんぱされたら分かんないけど‥‥死ぬかな?」
「それじゃ、もう宮殿に戻っても大丈夫ね?」
「何九電って、九州電力? 僕新しい家を貰ったんだ。元パーティーハウスだけど。そこでよろしくやってるから。じゃあ、さっさと成仏してください、お姉さま、僕もう起きるよ」
「誰が幽霊よ! あんたもう起きてるよ!」
パコっ!
「痛てっ! また叩いた! もう痛いから止めて」
「フン、夢なら痛くないでしょ?」
って完全に目が覚めた。
起き上がった。
周囲を見回せばここは昨日来た公爵邸。
近くには一目見て捕らえられていたと判る人たち。
兵士達、勇者達、アッサム、茜、優愛に葵、それから死んだはずの姉がいた。
みんな僕を囲んで僕を見ていた。
「なんでいるんだよ? 成仏で来てなかったのか?」
僕は当然の疑問をぶつける。
「失礼ね! だから死んでないって言ってるでしょ」
「だって、グロは死体で、僕はずっと一晩中一緒に居たのに?」
「あれは植え付けた記憶。何度も説明したでしょ?」
「いや、本当に夢かと思ってた」
夢で何を言われても信じられないのだ。
正夢なんか見たことないんだから。
「なんで公爵邸に捕らえられてたのさ?」
「カースのボスがここに居たから捕まったふりして調べてたのよ」
ふーん、そうなんだ。
ってカースって何?
すると突然優愛が僕の手を取る。
「殿下お久しぶりです」
えっ? 確かにうちはオール電化でしたが、優愛さん突然何を?
「明日グロリオーサ様と共に宮殿に帰りましょう」
「意味わかんないんだけど? どうして帝国貴族様が姉ちゃんに様付け?」
「グロリオーサ様は皇帝アウグストゥス陛下の第一皇女殿下なのです」
えっ?
僕は知りませんでした。
まさか僕を育ててくれた姉と血が繋がってなかったなんて。
しかも、皇帝陛下のご息女だったなんて。
「へへぇ~~っ」
僕は時代劇宜しく土下座をしてしまいました。
「どうして、グロリオーサ様に土下座されてるのでしょうか?」
「だって、皇族でしょ? そりゃします。優愛は帝国貴族のご息女だから勿論優愛にも土下座しますよ、へへ~~っ!」
「土下座しないで下さい。あなたの方が身分が上なのですから」
「だって姉ちゃんが僕は奴隷だって、肩にあるのは奴隷紋だから誰にも見せるなって」
「あれはあなたが不用意に他人に見せないように脅してただけだから」
「奴隷だからだろ? ばれたら売られちゃうから」
「いやいや、あれは皇太子の証明紋だから」
「えっ、ファレは皇太子なのか? 俺たち友達だよな?」
突然話に加わる勇者高杉隆文。
なぜ隆文さんは突然友達確認するのでしょう?
「私も友達よね?」
田中麻美さんもほとんど話したことはないのに友達確認してきます。
「もちろんだよ」
巨乳な方は大歓迎です。
「俺もだよな?」
勇者の橋本直樹さん、ガタイが良い、頼りがいのある兄貴と言った感じです。
「友達ですよ」と返します。
勇者中尾綾香さんも食い入るように僕を見つめています。
聞きたそうです。
「私は? 私も友達だよね?」
「胸の無い方はちょっと‥‥」
なぜだか落ち込む綾香さん。
冗談だと言ってあげました。
「やったぁ、じゃあ側室に?」
「あっ、遠慮します。僕そもそも花屋ですから側室なんて持てませんし」
「康介、そこまでいくと嫌味だから」
「茜、何言ってんの? 俺が皇太子なわけないでしょ。俺たち担がれてんだよ。姉ちゃん、俺たちの新しい家で一緒に暮らそうぜ。前と違ってリビング以外にも5部屋あるんだからな」
「宮殿へ帰ればその何十倍もあるのに、もう」
「グロリオーサ様、記憶を戻せばよろしいのでは?」
「そんなに簡単にはいかないのよ、アダルジーザ、あなただって以前の記憶戻ってないでしょ?」
「はい、完全には戻ってないと思います」
「戻ってたら気軽に話しているはずよ。だって前世の同級生の時の記憶の方が大きかったから昔は高校生のように話してたんだもの、私が記憶を書き換えるまではずっと」
どうやら僕が皇太子というのは本当かもしれませんが記憶にないのですから信じられません。
まぁ、そのうち思い出すでしょ。
「じゃあ、グロ、新居に帰ろう。あ、でも皇帝の御息女様はうちには泊まれないか、アダルジーザ様と一緒に宿へ行けば?」
「煩いわね、行くわよ」
「あ! 肝心なこと忘れてた。公爵と田中ってどうなった?」
「逃げられました。殿下が刺された後隠し扉から三人は逃げ出したのです。その後の捜索でも見つからず現在に至ります」
優愛さん、なぜか突然敬語で話し始めたけど止めてほしいな、聞かないんだろうけど。
「隆文さん、後は勇者達にお任せして僕達は先に帰ります」
「了解、後で行くよ」
いえ結構ですとも言えず、お待ちしてますと返しました。
公爵邸は新たに集まってきた公爵の兵士達でごった返し始めました。皆公爵に悪だくみに利用されていたようです。
上が悪なら下も悪を実行せざるを得ない封建社会です。下は大変です。
漸く家に帰って来ましたが徹夜の疲れが出てます。
「康介はずっと寝てたんだから徹夜じゃないでしょ!」
突然思考に強制介入する失礼な茜さん、奴隷なんだからコーヒーくらい淹れればいいのに。
「分かったよ、コーヒーくらいね、淹れるよ」
周囲からはまるで茜の独り言のにしか聞こえない会話を不思議に思いつつも皆テーブルの席に着きました。
姉とアッサムと茜は当然ですが、なぜかアダルジーザさんとマリーさんも宿へは戻らずここにきてます。
どうも向こうが敬語で話すのでこちらも敬語になってしまいます。
「あれ? 人増えてない? 良かったわね、ハーレムの出来上がり?」
突然リビングにやってきたのは引き籠りのニルギリです。
「この人は俺の姉だよ、で、こっちの二人は知ってるよな」
「あぁ、あなたの金庫番ね? その内ちんこ番?」
「むっつりだな、お子ちゃまは?」
「誰がお子ちゃまよ!」
「いや、そこはむっつりだと言った方を怒れよ」
「だってむっつりだもの」
「あーそうですか」
むっつりは肯定するのですね。
一通り会話すると部屋へ戻って行きました。
その頃には淹れたてのコーヒーがテーブルを彩って良い香りを放っていたのでした。
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