第26話 デンファレ王国へ

その日もアダルジーザとメイドマリーはファレノプシスの帰りを待つために彼の家を訪れた。城壁の門で待つことも考えたが例えそこでも行違う可能性がある。別の門を使う場合もあるからだ。このファレノプシスの家で待つことこそが確実だったのだ。


コンコン


ノックするも音沙汰無し。


今日は曇り空、秋も深まり既に寒くこのまま屋外にいるのは少々堪える。早く開けて欲しかったのだがノックに反応はなかった。


「留守?」

「フン、居留守よ。あの引き籠り娘が外出する訳ないでしょ」

「食料買いに出かけたのかもよ」


いると確信しているメイドのマリーは代わりにドアをノックする。

どれくらい叩き続けただろう。


「葵、そんなにドアをノックし続けるとNHKと勘違いされるよ」

「無いよ、この国には」


するとドアに近づく足音が聞こえた。


「もう、煩いなぁ」


煩わしそうな声とともにドアが開いた。


「居たんだ、すぐ開けてくれればいいのに」

「鍵渡そうか? どうせファレの家だし」

「いやいやいや、知らない他人に鍵渡したらだめでしょ?」


とんでもない娘である。


「取り敢えずお邪魔するわよ」

「はぁ、勝手にして。あっ、ところで昨日ファレの部屋に入ってたでしょ? 鍵開けたの? どうやって? もう一度開けてくれない?」

「それは無理よ。あなたの目的は分かってるから。彼の金でしょ? 引き籠ってるから金が無くなるのよ、稼いだら?」

「何も知らないくせに?」

「だったら教えてよ。教えてもくれないならみんな稼げって言うしかないでしょ?」

「‥‥考えとく」


ニルギリはいつもの様に部屋に籠ってしまった。


「何かあの子には優愛の人誑しのスキルが通用しないね」

「そんなスキルないよ。さぁ、さっそくコーヒー淹れようか」

「コーヒーと言えばミスドのドーナッツとコーヒー! また行きたい、何か最近そう思わせる出来事多すぎるよ。何もかも皆懐かしい」

「艦長か! 葵が言うには若すぎるね、まだ14歳でしょ」

「そんなことない、彼は14万8千光年の旅を経て戻れたわけでしょ? でも私達と地球との距離はそれ以上。たとえ宇宙船があっても二度とも出れない。艦長よりより懐かしいって言いたいよね」

「懐かしいと言えば茜ちゃん、元気かな? 彼女もどこかの世界に転生してるよね。康介も転生してるよね。最近殿下殿下で康介のことを思い出すこともなかったけど彼も幸せだよね?」

「大丈夫でしょ、あの女神が転生者には現地人よりも良い職業とスキルが与えられるって言ってたし」

「でも康介何か変な職業押し付けられてたよね」

「ああ、吉岡ね。あいつ屑だよね。でも何の職業だっけ?」

「さぁ、憶えてない。あの時はそれどころじゃなかった。自分のことで精一杯で」


懐かしさにかまけて時間が過ぎてゆくことさえ忘れていた二人、気が付いた時には夕方になっていた。


今日もファレノプシスは帰って来なかった。

明日は帰ってくることを期待してまた来ようと決めたアダルジーザであった。



◇◇◇◇



「もうここでいいわよ。我慢するわ」


貴族のアッサムが到頭折れた。

暫くはこの森の中の小屋で暮らすことになった。


「じゃあもっと金貯めていい家買おう」

「買わなくてもいいから、できるだけ早くデンファレ王国帰りましょう、ニルギリも待ってるわ」


折れてなかった。

ただ、家を買えば帰れないから家は我慢しただけだった。


「茜もそれでいいか?」

「田中の件は我慢する。私の我儘で家を買わせられないし、森の中で不憫な暮らしをさせられない」

「じゃあ、明日薬とポーション卸して明後日は帝都からロリ愛馬車で帰ろうか?」

「どんな馬車よ! 康介、あんたロリコンだったの? ロリ愛って、ロリを愛してるってことでしょ?」

「単なる打ち間違い、もとい、言い間違いだよ」


翌日、薬草の栽培はせず昨日作った薬とポーションをギルドに卸して現金化。

早々に小屋に帰ってお風呂です。

だって、明日から暫くお風呂無しですから。

お風呂と言っても川で水風呂です。


問題発生!


茜に覗かれました。


「だって仕方ないでしょ」


ずっと裸は見られないようにしてたのですから。

姉から口を酸っぱくして言われてたからです。


『あんたの肩の痣って奴隷紋だから絶対人に見せたら駄目、奴隷にされて売られちゃうから』


小さい頃は怖かったけど、それが成長するにつれて只の脅し文句だと思ってたのです。

しかし、奴隷を見る機会がありそれが本当なのではないかと知りました。


「あんたのその肩の痣って、紋章?」

「そうみたいだね。絶対人に言わないで。奴隷にされちゃう」

「それ違うんじゃ? でも絶対言わない、お妾さんの地位に賭けて約束する」

「安い賭けだな。でもありがと、さすが茜だよ」

「でも日本人の時と違ってデカいね」

「はぁ、見たのかよ? って、日本の時も見たの? どこで?」

「内緒」


胸が無いのにスケベな女です。


「胸が無いは余計よ!」


そろそろ心を読むのは止めてほしいものです。


日が完全に暮れると森の中は暗黒に包まれます。

灯りの下でご飯を食べているとアッサムのクレームタイムが始まります。


「どうして灯りをつけてると虫が寄ってくるのよ、もう」

「灯りを目指して来るのよ」

「茜、それ間違い。夜は灯りを月と誤解してそれを目印に一定の角度で飛ぶんだって。灯りだと一定の角度で飛べば円を描くことになるから、結果的にどんどん灯りに近づいてきてしまうって話だよ」

「へぇ、無駄な知識!」

「それ感心してないよね? 馬鹿にしてるよね?」

「ううん、旦那様は尊敬しないと」

「誰がだよ!」


翌日未明から帝都の馬車乗り場へ向かいます。

小屋はそのままです、また使うかもしれませんから。

帝都からデンファレ王国方面への馬車は一つだけ。デンファレ王国王都経由でブラジル領へ向かいます。


「アッサム、ちょっと時間かかるけどいい?」

「仕方ないわ、後少しの辛抱ね」

「茜は平気だな」

「はぁ? 私だって女性よ、貴族様じゃなくて奴隷だけど。少しは気を使ってよ、まぁ、平気だけど‥‥所詮奴隷だし‥‥」


そんな悲しい顔しなくても

僕が奴隷から解放してあげるから。

いつか‥‥


「だったら今開放してよ!」

「‥‥って心読まない!」


そもそも開放する方法って分からないんだから。

奴隷ギルドとかあるのかな?

それとも国が奴隷管理していて国に奴隷解放の申請するとかかな?

まぁ、焦らなくてもいつか分かるでしょ。


「焦るわよ!!」

「そんなに耳元で怒鳴らなくてもぉ」


どうして僕の周りは怖い女性だけなのでしょう。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る