第25話 兎に角褒める不動産業者
不動産業者に幽霊屋敷を押し付けられそうになった翌日、僕達三人は凝りもせずに不動産業者を回ることにしました。
アッサム以外は小屋でも構わないと言っているのですが、夜、沢山の虫が出る状況に彼女だけが『もう勘弁して』と弱音を吐き現在に至っているのです。
「アカネ、ファレは信用できないから私達がしっかりしましょうよ」
「うん、アッサム。一緒に頑張ろうね。旦那を陰で支える内助の功だね」
「うん。意味は分からないのだけど、頑張ろう」
アッサムは茜と二人で結託してますが気にしません。
僕は賢いので一人でも大丈夫ですから。
僕大なり茜プラスアッサムです。
『僕>茜+アッサム』ということです。
なんたって僕は女神も認めた行間の読める男ですから。
「空気も行間も読めないけどね」
茜が何か呟いてますが聞こえません!
「いらっしゃいませ」
今日は丁寧な不動産業者です。
「予算は10万以内だから、物件の内見はそれ以下で。昨日酷い目に遭ったんだ」
「はい、承知いたしました。でも、通常予算以上の物件の内見はしませんけどね」
やはり昨日の不動産屋はとんでもない不動産屋だったらしい。
「高い方から行きますか、それとも安い方からが良いですか?」
それを訊かれるということは一定の物件を勧める目的が無いということでしょう。
安心の業者です。
「近い方からで良いですよ」
「なるほど合理的ですね。ご主人は賢いですね」
褒められました。そうです僕は不動産業者も褒めるほど賢いのです。
なんたって女神も認めた行間の読める男ですから、へへへ。
まず一件目です。
賢いと褒められた僕はさらに僕の賢さを知らしめるために発言しようと思います。
「ほう、この物件は南向きですか?」
「さっ、さすがはご主人です。良く気が付きました」
何か隣でアッサムが『誰でも気が付くわ』とか呟いてますが聞こえません!
「キッチンが広いですね」
「さっ、さすがはご主人、普通気が付きませんよ。ここが広ければ家族のだんらんの時間も増えます」
また褒められちった、へへへ。
何か持ち上げてくれて気持ちをよくしてくれる不動産屋です。こんな人に悪人はいません。
「フン、狭いよ」
アッサムが小声で呟きます、煩いです。
この不動産屋は良い人、だって茜が悪いことを考えてるとか言いませんから。
「嘘を本気で事実だと思って言うタイプだね」
茜が何か呟いてますが聞こえません!
「寝室は5部屋ですか、いいですね」
「流石はご主人、良くお分かりです。これから2号さん、3号さんと増えて行きます。そうすれば4部屋は必要になります。転ばぬ先の杖ですよ」
「もう、この家に決めようかなぁ」
余りに僕を心地良くしてくれるのでもう決めようと思います。
「ありがとうございます。でも駄目ですよ。まずは他の物件も見て選択肢を増やしたうえで選びましょう」
「そ、そうですね、次もみましょうか」
なんて良い人でしょう。
詐欺師なら迷わずここで『ではここにサインを』とか言ってきたことでしょう。
彼の誠実さは千金に値します。
いえ、ここは異世界、千ミスリルに値するとでもいえば良いのでしょうか。
次に来ました。
今度は少々小汚い狭い物件です。
かなりお安いことでしょう。
「ここは、100万ゴルドです」
「えっ高いですよ」
「流石御主人、その通りです」
そう、僕は流石なのです。家賃の相場も読み違えません。
「誰だってわかるって」
茜さん、煩い!
「でもここは家賃ではなく購入代金が50万ゴルドです」
「え、買い取れるのですか?」
「はい、それもこの価格で。今なら水道光熱費も1か月無料です」
「なるほどぉ」
何かドコモのキャンペーンみたいなことを言い始めましたが信頼できる人なので安心してます。絶対に騙すようなことはしませんから。
そしてお金は何とか足ります。
「ファレ、ここは帝都だしこの物件でもこの金額は安すぎるんじゃないの?」
「ははは、馬鹿だな君は。今なら1か月の間水道光熱費も無料なんだぜ」
「それは金額が安い理由にはならないでしょ?」
「大丈夫、茜も黙ってるし」
「そうね。買えばいいのよ。買って痛い目に合えば自分が阿保だって気付くでしょ」
後半部分は聞こえませんでした、ええ、聞こえませんでした。
「アカネ、何かあるの?」
茜とアッサムが小声で相談し始めましたが気にしません。
「ここね、もうすぐ道路になるって」
「だったら買い取ってもらえるんじゃないの?」
「税金未納で差し押さえ済みだって」
「じゃあ、詐欺じゃん」
「あの不動産屋、分かってて売りつけてんのよ。完璧に詐欺よ」
「私見逃せないわ」
「アッサムは優しいね」
「ちょっと不動産屋さん、ここ差し押さえ物件で販売できないって本当?」
「げっ! ど、どこからその情報を? あれ、ここじゃなかったかな、あっ、間違えました。おすすめの物件は別ですね。ここは差し押さえっと。ではわたしはこれで」
そう言うと不動産業者はそそくさと去って行きました。
秋風吹きすさぶ中三人は差し押さえ物件の前に取り残されたのでした。
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