第24話 待ち人来たらず

初めてアダルジーザがファレノプシスの家を尋ねた翌日のこと。

アダルジーザとマリーは再度ファレノプシスの家を訪れた。

また来たのと嫌悪を隠そうともしないニルギリに辟易しながらもファレノプシスの帰りをリビングで待たせてもらうアダルジーザとマリー。

ニルギリは当然部屋へ戻り引き籠りリビングには二人が残されてしまう。

二人はリビングで持参したコーヒーを淹れるのでした。


「あぁ、この街名前がブラジルサントスなだけあってコーヒーが美味しいわぁ」

「うん、美味しいね。私砂糖が欲しいけど高級品だからなぁ」

「ふっ、葵、おこちゃまね」

「あっ、ばかにしたぁ! 優愛だって、美味しくもないコーヒー毎日見え張って飲んでるでしょ?」

「わ、私は美味しいと思ってるから、大人なのよ」

「って私たちまだ14歳じゃない。子供よ子供、まだ味蕾の沢山残った子供」

「おお、味蕾と未来を掛けたのね、グッジョブよ、葵」


下らない話にも飽きた二人はファレノプシスが本物の皇子かを確認したくなった。そのため彼の部屋を覗いてみたい衝動に駆られたのだった。

ファレノプシスの部屋の前に行き取っ手を回す、だが鍵がかかっていた。

鍵の周りには無理やり開けようとした痕跡がたっぷりと残されている。それでも開けられなかったのだろう。


「恐らくあのニルギリって娘がやったのね。働いてないみたいだからお金が欲しかったのね」


アダルジーザは彼女のスキル『エスティメイト』で施錠のステイタスを解錠に変える。

カチャッという音と共に解錠され二人は部屋の中に入った。

部屋の中は少々のポーションと薬が残されているだけであった。再度『エスティメイト』を使用すると現金が隠されているのが分かった。現金が残っているのはやはりニルギリは鍵を開けられなかったからであろう。

結局、部屋には余りに情報がなく本物の皇子かの判断はつかなかった。

二人は再度スキルで鍵を掛けリビングへ戻った。


「今日も帰って来ないのかな?」


気弱そうな顔で弱気な発言をするアダルジーザ。

不安が止まらない。


「どうだろ。スマホの無い世界って不便」

「誰かに探すよう依頼しようかな」

「誰かって執事?」

「いやいや、執事にはさすがに言えないでしょう。どんな邪魔をされるか」

「だよね、もうあの執事首にしたら?」

「でも今回の件では材料少なすぎ。だって実際にサーガ王国に殿下と思しき人物が居た訳だし。『だからサーガ王国とお伝えしました』とか言われたらぐうの音も出ないし」

「そっかぁ。困ったものだね、執事」

「ねぇ」


結局その日もファレノプシスは帰ってこなかった。



◇◇◇◇



その日、待ち人がいることなど知る由もないファレノプシスは薬とポーションを帝都の薬剤ギルドと探索者ギルドに卸し、貯まったお金をもって不動産屋を訪れていた。

ファレノプシスは機嫌が良かった。なぜなら心が読める茜ことロザリアがいるのだ。

もう騙されることはない、と意気揚々と訪れたのだった。



「いりゃっしゃ~い、何か用?」


何? いりゃっしゃいって? 本当に不動産屋? 本当に客商売? 

たった一言で三人の頭はクエスチョンマークで満たされたのだった。


「家を紹介してもらおうと思って‥‥やっぱり間違えてみたいだから帰ります」

「いえいえ、帰らなくてもいいですよ。家は紹介するよ」


何か胡散臭い不動産屋だった。


「この人、しめしめって考えてるよ」


茜の助言に確信を持った。

こいつは詐欺師だ。

詐欺師と分かれば問題ない、対処できる。

賢い僕には詐欺師を屈服させて割安で高級な家を契約させることが出来る。

それができるのは賢い僕だけだ!

良し来い、不動産屋!


「いいよ、この店で話を聞こう。で、どんな家があるんです? 出来れば庭付きで、家賃は月に5万ゴルドから10万ゴルドの間で」

「ありますとも、え~」

「ちょっとこの人、家賃をぼったくってやれって考えてるよ」

「お、お客さん、失礼だな、君は! 営業妨害か? それとも隣のガーナ不動産の回し者か?」

「ちょっと落ち着いて」


僕は怒りの店主を宥める。


「失礼いたしました。では要望も聞いたから内見に行こうか?」


まず一件目に来ました。

高級そうです。


「ここ家賃は?」

「50万ゴルドです」


予算オーバーだと思ってのですが興味があるので中を見てみます。

豪華でした。

アッサムの実家とは比ぶくらぶべくもありませんがそこそこ豪華でした。

しかし家賃が高すぎます。


次へ向かいました。

家賃40万円でした。

まだ高すぎます。

次に向かいました。

家賃30万円でした。

もう疲れました。

なぜ予算より高い物件の内見に行くのか分かりません。

もう帰ろうかなと思いましたが次が最後だと4件目に向かいます。

4件目は普通の2DKの少々古めの家でした。

これで月10万円とのこと。

これってここを勧める為に最初に高すぎる家に行ったのだろう。

ただ家の古さと狭さにしては高額ですが流石にあれだけ高い物件だけ見続けたら安く感じるものです。

しかし、願いは通じるものです。


「ここで10万ゴルドは高くないですか?」


僕はもう帰りたくてそう言って断りを入れるつもりだったのです。

しかし奇跡は置きました。


「ですが今なら、5万ゴルドで結構ですよ!」

「決めたぁ!」


僕は叫びました!

なんと半額の5万ゴルド!

しかも今ならという条件付き。

時期的に丁度良かったのです。

もう契約せずにはいられません。


ですが次の瞬間僕の頭は大きく前方へと移動してました。


何が起こったのか分かりません。

振り返ると茜が蹴りを入れてました。

まさか、ドSがもう一人増えたんでしょうか。

暴力奴隷でしょうか、暴力妾でしょうか。

もう売り払うしかありません。


「阿保か! また騙されてるよ! ここ幽霊が出るってこの人考えてる。しめしめ漸く借り手が着いたってほくそ笑んでるよ」

「「えっ」」


不動産屋と僕の驚きが重なりました。


「そ、そんな、ゆ、幽霊なんて出ませんよ。気のせいですよ、あはははは」


しかし、茜の追及はこんなことではやみませんでした。


「だったら今晩一緒にここで夜明かししましょうよ」


すると


「あれ、あ、ここ、間違えました。別の方が契約されてるんでした」


そう言って逃げるように去って行きました。

あっけにとられる僕達三人は少々冷たくなった北風が吹く中幽霊屋敷の前に取り残されたのでした。






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