第23話 康介、茜を怒らせる

茜が前世の記憶を取り戻したのは田中に両親を殺された後に売られた頃だった


茜は奴隷に落とされた理由を話し始めた。

まるで何日も貯まった〇んこを放り出すように‥‥

もとい、まるで引き籠りのニルギリが寝起きに家を出るように、不本意なことを強要されたかように話し始めた。


茜は普通の平民の家で生まれた。貧乏でも金持ちでもなく、でも幸せだった。あの日までは。

茜も12歳の時に選別の儀で職業を得た。

普通の職業だった。

『村人』という実に数多くの人が持つ平凡で何の力もなく周囲に流されつつも平穏に暮らせる職業だった。

あの日、突然村が襲われた。盗賊だと皆が騒いだ。しかし盗賊だと思われたのは只一人の暴漢だった。



「おい、金を出せ、女もな」


そう言いつつ剣を突き付けるのは元勇者田中だった。

拒むと不埒に無遠慮に傍若無人に村人を殺し回った。

残ったのは若い女性だけ。

女性たちはロープで縛られた。


「睨んでも無駄だ、誰も助けには来ない。来ても俺が殺すがな。安心しろお前たちは殺しはしない。奴隷として売り捌く。ん? なかなかスタイル良いのがいるな。俺が味見してやる。あぁ、お前は胸が無いからいらん」


そう言うと、服を引き裂き皆の前で犯し始めたのだ。


「見られながらっていうのも乙だな。俺のプレイに興奮したか? どうだ? 濡れたなら入れてやるぞ! あーお前は胸が無いから起たんな」

「酷い! でも良かった、胸が無くて」


そう言ったのは茜だった。


その後も女達は一晩中犯され続けた。

翌日、女達は全員奴隷商に連れて行かれて売られた。


結局村人はほとんど殺された。女性だけが残され奴隷として売られた。

数人の女性が惨たらしく強姦された。その後殺された女性もいた。自殺した女性もいた。難を逃れた女性は売られた。茜もまだ幼くみえたせいか難を逃れ売られた。


その頃だった。


茜は自分の前世を思い出す。

それと同時に茜は『隠蔽』というスキルを持っていることも思い出す。そして連鎖的にそのスキルによって数種のスキルを隠していたことを思い出したのだ。

その一つに『テレバス』という能力があった。

この世界には茜と同じように校舎の崩落で死んだ同級生が来ているはずだ。もしかしたら来ていないのかもしれないが、絶対に一人以上いるはずだ。だって茜がその一人なのだから。他の同級生が来ている可能性はゼロではない。

この『テレパス』を使い探し出すと決めた。

しかし奴隷に落とされた今、思考を読めるのはお客だけ。

いつかは来るだろうと待ち続けて1年近くが経過した。

そして、遂に現れたのだった。

それがファレノプシス、茜の嘗ての同級生で仲が良かった友人だった。



◇◇◇◇



茜の独白は終わった。

茜は可哀そうだった。

特に胸が‥‥

いや、そのお陰で災いを免れたのだ無い胸に感謝しないとな。

いや、無いのだから感謝しようがないのか?


「いや、あるって、ふたつも」


茜は話題をすり替えるのが得意なようだ。


「家はブラジルサントスだよね? えっ、そこ田中が来たことがあるの? 私行きたくない。また田中に襲われるかもしれないから、まさかのトラウマ」

「大丈夫だって、襲わないよ」

「だって、私あの頃よりも大人になってるから」


いや、その頃と同じで胸はないだろうと突っ込みたいが言えない。


「聞こえてるよ!」


やっぱり。


「ならこの帝都で暮らすか? それともアッサムの実家のあるサーガ王国へ行くか?」

「分からない」

「だったら暫く帝都で暮らそう。アッサムはそれでいい?」

「ファレが薬とポーション作れば生活できるでしょ。私はそれでも構わないわよ。まぁ、残されたニルギリは大変だろうけど。脱引き籠りの荒療治にはなるかもね」

「よし、帝都の外に出て薬草栽培して薬とポーションを作って売ろう。金が貯まったら家を借りよう」

「決まりね。ファレ、家を借りる時騙されないでね」

「フラグ建てるなよ。って僕は賢いから騙されるわけないだろ」

「自分で建ててるじゃない?」



未だ午前中で日はまだ登り切っていなかった。

直ぐに帝都を出て森の中の少し開けた場所を探した。

思ったよりも開けた場所は多かった。

木が建築材料に良く伐られている為だったようだ。


近くに小屋を建てた。

なんと茜の『村人』という職業には固有スキル『小屋建築』というのがあったのだ。

木を伐り材料を用意する必要はあったが、その木があっと言う間に小屋に変わったのだ。流石魔法だと思った。


「あれ、帝都じゃなくてここに住んでもいいんじゃね?」


流石に貴族のお嬢様アッサムは反対したのだが、


「少しの間だけよ」


と渋々承諾してくれた。

流石奴隷の茜は


「住めば都よ」


と達観していた。

小屋の中は3畳ほどで狭かった。

だから明日また木を伐り新たに小屋を二つほど作ろうと茜にお願いした。


「伐採のスキル持ってないの?」

「『村人』にある訳ないでしょ。『きこり』の職業の人は持ってたけど」


異世界とは言えそんなに上手くはいかない世界のようです。


結局午前中に薬草を収穫し更に栽培。昼から夕方まで樹木を伐採し夜はポーションと薬を作ることになりました。

ポーションと薬を作る道具は帝都で購入したのですが高額でした。

ですが茜が思いの他安かったのでまだ50万ゴルド近く現金が残ってますので暫くは安泰です。

そう言えば家に残してきた現金は大丈夫でしょうか。

ニルギリに見つかりませんように‥‥

見つかれば引き籠りが加速してしまうでしょうから。



朝が来ました。

新しい朝です。


先ずは昨日少し栽培した薬草を収穫します。

そして、スキル『栽培』で栽培面積を少し広げ1アールほどに拡張しました。

凡そ10メートル×10メートルの広さです。

そして、薬草の種は植える必要が無くスキルで生えてくるのです、便利です。

しかし、便利はそこまで、昼からは自力で木を伐ります。

木を一本伐れば新たに『伐採』のスキルが生じることなど無いこの世界です。木を伐り続けても生じるのは筋肉だけです。

夕方には僕の筋肉はパンプアップしてました。


「どう? 僕の筋肉?」


アッサムに自慢してみます。


「はいはい」


アッサムが冷たいです。

流石ドSのアッサムです。

本領発揮してます。


「ねぇ、アッサム、康介とアッサムはどういう関係?」

「私は彼のフィアンセよ」

「フェイクフィアンセだよ、アッサムが言ってるだけ」


設定の話をするアッサムに少々閉口します。


「でも、康介嫌がってないよね?」

「貴族になれるかもしれないからな」

「じゃあ、私はおめかけさんでいいよ」

「ごめんなさい」

「しっ、失礼ね。そこはありがとうって言うんでしょ?」

「あのぉ、胸の無い方はお断‥‥」

「毎日カルビだと飽きるわよ、偶には脂肪分の無いひれステーキでもいいんじゃない?」


いや、君は固そうだからひれと言うよりすね肉だな。ひれは柔らかいんだぜ。


「私も柔らかいわよ! ふん」


怒らせてしまいました。


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