第22話 奴隷購入

ドコゾーノ帝国の帝都ドコゾノブルグは今日も人でごった返しています。

僕は今日も奴隷を買いに昨日とは別の店に向かいます。

やはり老舗武器屋の店主から聞いたようにスキル詐欺が横行しているようです。どこかにスキル『鑑定』持っている日本人が転移してきてないでしょうか。これだけ人が多いのです日本人顔は直ぐに分かるのですが全く見当たりません。まぁいたとしても鑑定スキルを持っているかは別です。

あの女神リインカーネーション、鑑定のスキル位おまけで付けてくれててもいいのに!

あぁ、分かりました。

女神が僕に鑑定を付けなかった理由が。

余りに僕が賢いからそんなものつける必要が無いと判断していたんですね。

納得です。

まぁ、賢い僕は女神の言葉の行間を読んで差し上げるとしましょう。


早速やって来ました奴隷商です。

もうスキルは諦めました。

外観一択です。

とはいえ、数名見繕い一番賢いのを選びます。

現金は聖剣モドキを売った残りが50万ゴルド、自前の金も50万ゴルドくらいです。あまりに現金を家に残しているとニルギリが盗みそうだから沢山持ってきてます

そうです、あの働かない女に信用などありません。

結局100万ゴルドです。もう帰るだけですからほとんど使っても構いません。

ただアッサムが言うのです。


『もう騙されないでね』


ふざけた女です。

僕が騙される訳ないじゃないですか。

だって賢いんだもの。

みつをも書いてくれることでしょう。


「ほら、ぼさっとしてない! 入るわよ」


パン!


尻叩かれました。

アッサムは今日も付いてきました。

私が認めないと買ったらダメとかもう妻気取りです。

そもそもフィアンセというのはフェイクです、偽物です、冗談です。

なのに妻気取り、最悪です。


「いらっしゃいませ、どういった奴隷をご要望でしょうか?」

「はい、胸が大きくて美人。条件は以上」


今回は簡潔です。

条件もたったの二つ。


今回条件に合う奴隷はたった一人でした。


確かに美人、胸は大きいです。

しかし、美人というより武人といった印象です。

背も高く筋肉隆々。スキルは『武闘家』かなって感じです。

抱き着くというより抱き着かれるといった印象です。

食指が動きませんでした。


「何目的よ?」


アッサムが核心を突いてきます。


「‥‥」


何も返せませんでした。



気を取り直して次のお店です。

また同じ要望だと少ないかもしれません。

だから今度の希望は美人だけにします。


見事に胸の無い人も並んでいます。

無くて困るというものでもないのですが大事なものが欠如しているような気がします。

順番に端から見て行きます。

あり、あり、なし、なしっと!

無しはあまり見る気がしないので飛ばします。

ん?

なぜか無しの子が驚いて僕を見ているのですが‥‥

分かりました、賢い僕には理解できるのです。

彼女は僕の余りの美少年振りに驚きを隠せなかったようです。

でも彼女は論外です。

胸を持ち合わせていませんから僕も興味を持ち合わせていません。

次の女性に目を移そうとした時でした。

彼女は言ったのです。


「私を選んで」


声は聞こえませんでしたがそう口を動かしたのです。

日本語で。

もしかして僕の様な転生者かもしれません。それも記憶を取り戻した転生者です。

他の巨乳に目もくれず彼女の値段を尋ねました。


「あぁ、彼女はスキルが無いからね50万ゴルドでいいよ」

「ちなみに隣の巨乳は?」

「100万ゴルドだね」

「なんと胸が無いだけで半額だよ。良かったな、アッサム。胸があって」

「私は奴隷じゃない! まさか売るつもり? 父に殺されるぞ?」


アッサムを褒めたのに脅されました。

酷い女性です、さすがドSです。


待合室で濃いコーヒーを飲みながら暫く待つと小奇麗なワンピースを着た胸の無い先程の女性が連れられて来ました。

契約書を交わし奴隷紋を僕を主人に書き換えます。

彼女の名前はロザリア、年齢は僕と同じ14歳。スキルはありません。

えっ?

おかしいです。

日本からの転生者なら現地人では持ちえない職業とスキルを持っているはずです。

外れの人?

日本語を話したように見えたのは気のせい?


僕達はロザリアを連れて宿に戻りました。


「ファレ、良くこの胸もスキルもない子を選んだわね?」


アッサムがとっても失礼なことを宣います。


「失礼ね。胸あるよ。それにスキルもあるよ!」


怒ってます。奴隷なのになぜか強気です。


「悪かったわね奴隷だけど強気で!」


どうして分かった?

顔に出てた?


「顔には出てないよ。でも、久しぶり。14年ぶりかな、康介」

「はふぃ?」


余りの驚きに変な声が出てしまいました。康介というのは僕の前世の名前です。

どうして分かったのでしょう。


「そりゃ分かるでしょ」


今すぐに僕の心と会話するのをやめてほしいものです。


「だったら喋りなさいよ。私はねスキル『テレパス』があるの。だからあなたの思考を読んであなたが康介だって分かったのよ」

「で、でも、スキルが無いから安かったのに!」

「隠蔽スキルも持ってるよ。それで隠してたの」

「そ、それで僕のことを知ってる君は誰?」

「同じクラスだった庄司茜よ。仲良かったでしょ? 私と優愛と葵と康介で」

「あ~、そうだった、懐かしいなぁ~、あんなに好きだったのにすっかり忘れてたよ。なぜだろ、不思議なこともあるもんだな。でも、この世界には来てるのかな」

「さぁ、それは分からないね。あの崩落事故でみんな死んでいくつかの世界に飛ばされたみたいだから」

「そうなんだ。俺、変な職業押し付けられて、どうするか迷ってて女神の話し全く聞いてなかったから」

「ああ、押し付けられてたね。何とかしてあげたかったけど、あの時はみんな自分のことで精一杯だったから」


どことなく茜の表情にはあの時何も出来なかった罪悪感が見て取れた。だけど、結局僕は奴隷になっていない。それに比べて茜は奴隷に落とされていた。罪悪感を抱くべきなのは僕の方かもしれなかった。


「罪悪感なんて持たなくてもいいよ。結局こうしてあなたに会えたんだから。康介なら私を奴隷から解放してくれるでしょ」


結局この状況は彼女の望んだものだったのかもしれない。だって茜の顔には安堵が浮かんでいたのだから。


「安堵と言えばアンドーナッツ食べたいな」

「また心読んだな、もう止めろ。いやらしいこと考えられないだろ」

「男は考えるのが普通よ。もう慣れたよ」


しかし、慣れるものなのだろうか。男達の様々な醜い性的欲求を目の当たりにして。

あ! そうか分かった。やはり僕は賢いな。行間を読める男、それが僕だ!女神も賢いと認めたからこそスキル『鑑定』を与えなかった男だ。

僕にはわかる。

彼女は胸が無いから誰も性的な妄想を抱かなかったのだ!

納得だ!


「し、失礼ね! あるわよ。二つあるわよ」


『も』ってね、質を数に転換してるよ、この娘は。

でもなぜ奴隷になったのだろう。

彼女は前世でも賢かった。

更に『テレバス』のスキルも持っている。

あ!

分かった、賢い僕だけが理解したはずだ、正解にたどり着けたのだ、僕だけが。

彼女はドーナッツが食べたくて自分を売ったのだ!


「阿保か! 違うよ」


くっ、どうやら違ったらしい。

去る者も木から落ち、工房も筆を作るというやつだ。


「私が奴隷になった原因はあなた達も知っている男よ」

「えっ、コーチャの女だったのか?」

「違うよ! 誰よそれ! 元勇者の田中だよ。一年前あいつが私の父と母を殺した。そして私を売って奴隷にしたんだ」


俺も田中に姉を殺された。だから彼女の無念が、田中に対する怨念が分かる。

彼女も僕と同じ復讐者だったのだった。

茜が奴隷に落とされたなら、その時田中に体も蹂躙されたのだろう、可愛そうに。

いや、その考えは早計に失する。

彼女は胸が無いから田中も『胸の無い女は興味が無い』と蹂躙されなかったのだ!

いやいや、その考えも早計だ。

恐らく今回だけは僕の考えは間違ってるだろう。

虫食う女も好き好きという格言もあるからな。あれ蓼食う虫だっけ? いや、蓼って意味が分からないから虫食うが正解だろう。


「間違ってないよ。『胸無し女は嫌いさ』とか言ってさっさと奴隷商に売られたわよ」


やはり僕は賢かった、さすが行間を読む男だ。

彼女は田中の毒棒の犠牲にはならなかったようだ。


「えっち!」

「‥‥」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る