第16話 アッサムの里帰り4 お買い物

突然齎された元子爵アッポンディオ・タリーニの情報にサーガ王国のアッポンディオ捜索本部は俄かに騒がしくなった。


「その情報は本当か?」


本部長のオルランド・カルリは肩を掴み目を剝いて問い詰める。


「はい。情報源はアンチェロッティー閣下です。閣下の娘のフィアンセがアンポンタン、もとい、アッポンディオに襲われたとのことです。こちらがその場所の地図です。そこから帝国外へ向かうとのことです」

「よし、閣下には感謝しないとな。この場所から行先を推測しそこへ迎え。すべてはアダルジーザ様の為に!」


オルランドはすっかりアダルジーザ信者であった。



「良い情報が入りました。もうすぐ捕縛できるやもしれません」


サーガ王国国王テレンツィオ・サーガは喜色満面でアダルジーザに告げた。


「えっ? いや、どうでも良いのですが。別に捕まえても捕まえなくても皇帝には話しませんし。まぁ、お任せいたしますが」


アダルジーザはアッポンディオのことなどすっかり忘れていた。


「それより、人探しの方はどうなりました?」

「はい。伺った特徴に照らし合わせかなりの兵士を投入し捜索に当たらせています。もうすぐ見つかると思いますよ」


嘘である。

殆どの兵士はアッポンディオ捜索に充てていたのであった。

アダルジーザの探す人が殿下だとは伝えることはできない。

帝国の弱みになるからだ。

それを皇帝アウグストゥスが許すはずもない。

その為、名前が知られている殿下の名前を出すことなどできなかった。

だから特徴だけを告げ適合する者がいれば政府の執務室に強制的に連行しアダルジーザが面通しし確認する手はずになっていた。

連行する際にはある程度の強制力を働かせる手はずを認めている。

これだけ出てこないのは出てきたくないのかそれとも記憶を無くしている可能性も考慮し、ある程度強制的に連行する必要性があると判断したためだった。


「よろしくお願いします。アッポンディオ元子爵は放置し私が探している人物の捜索を優先してください」

「承知しております」


王に承知する気などなかった。

いくらアダルジーザの頼みとは言え、それよりも帝国への面目を保つためにはアッポンディオ確保が優先されるのであった。

もし、アダルジーザが探しているのが皇子であることを知っていたのならアッポンディオなど放置し皇子の捜索に全精力を傾けたのだろうが。



◇◇◇◇



サーガ王国王都ザナル3日目。

今日は帰りの護身の為に武器屋に来ました。

もう騙されません。

聖剣など普通の武器屋で販売されている訳がないのです。

それも格安で。

しかも値段を下げることなどありえないのです。

本当に僕はバカでした。

阿呆でした。

無知でした。

もう学習しました。

もう二度とヘマはしません。


1件目の武器屋は品ぞろえの少ない武器屋でこれと言った武器がありませんでした。

そうです。もう剣でなくても構いません。ヌンチャクでも槍でもメイスでもハルバートでも。どうせ使えないのですから。


そして2件目に来ました。

それはまるで僕を待っていたかのように店の中央の壁に飾られていたのです。

『聖剣グラム』

グロムでもグリムでもありません。

間違いなくグラムです。

金額はなんと100万ゴルド!

まるで僕の所持金を知っているかのような金額です。


「偽物よ! あいつらだって100万ゴルドで本物は安いって言ってたでしょ?」

「あー---」


僕は両手を両耳に当てパタパタ仰ぎ声を出します。

アッサムの言葉など全く聞こえません。

そもそもあいつらってあの強盗のことでしょう。そんな奴らの言う事を真に受けるとは、ふん、衰えたなアッサム!


僕は勿論店主に確認します。


「これ本物ですよね」

「当然じゃないですか。この輝き! 色! 艶! 装飾の豪華さ! どれをとっても本物です。新品ですよ」

「ですよねぇ」


やはり本物です。


「ねぇ、彼外見のことしか言ってないわよ? それに金額が安すぎるわ」


今回はアッサムの意見も聞きます。


「店主、どうなんです?」

「はい、もちろん性能は折り紙付き。良く切れると評判です」

「あれ新品では?」

「アッサム、失礼だな、これと同じ聖剣で試したんだろ」

「えっ、聖剣って同じものが何本もあるの? 大量生産?」

「うっ、煩い!!」


アッサムが煩いです。

もうアッサムの言うことなど聞こえません。


「まだ迷ってます? お値段高いですよね? 今なら半額に出来ますよ」

「ほ、本当ですか? 偽物だからじゃないですよね?」


勿論僕は馬鹿じゃありませんからちゃんと確認します。


「あ、あたりまえじゃないですか。この聖剣は‥‥え~と、い、意思を持つのです。持ち主だけがその声を聞くことが出来ます。彼女がそう言ってます」

「え、彼女?」

「そうです、彼女です。この聖剣は女性なんです。その彼女があなたなら50万ゴルドでも買ってもらいたいと仰ってるのです」

「ガチですか?」

「ガチです」

「買います。はい50万ゴルド」


僕は金貨5枚を渡し『聖剣グラム』を受け取りました。


「お客様はいつまでこの王都ザナルにご滞在ですか?」

「明日には帰ります」

「そうですか、残念です。ザナルでは聞けませんね。三日なのです。三日で剣の意思を聞けるようになるのです。ご自宅にお帰りになってからのお楽しみですね」


そうか、三日もかかるのか。ちょっと残念だけど楽しみです。


「嘘よ、騙されてるわよ」


相変わらず失礼なアッサムです。

彼女は知らないのです。意思を持つ剣が存在することを。前世の小説にはたくさん出てきたのですから。


「金額だって安かったでしょ?」


あほです。そんなことも分からないようです。剣が僕を選んだんです。彼女が半額で良いと言ってくれたのです。

まぁ、阿保でも馬鹿でもそのうち分かるでしょう。




そして、今日も侯爵邸で豪華な夕食です。


「君の情報で捜索本部が大喜びで捜索隊を派遣した。感謝する」

「いえいえ、どういたしまして」

「そういえば武器を買いに行くそうだな」

「今日行きましたよ」

「まぁ、気を付けろ、最近聖剣詐欺が横行してるからな」

「ははは、僕は大丈夫ですよ。賢いし見る目もありますからね。だから今日ちゃんとした武器を選びましたよ」

「そうか。それなら安心だな。さぁ、飯にするか」


聖剣詐欺が横行しているようですが僕の様な疑り深い人は詐欺には絶対に会いません。会っても即詐欺と見抜けますから騙されません。安心です。


翌朝、もう帰国です。

元貴族の所為で、いえ、お陰でしょうか、どうやらフィアンセと認められたようです。これで良かったのでしょうか。

アッサムも親孝行ができたようです。

帰りも乗合馬車です。

アッサムの父が馬車を用意すると言ってくれたのですが余計なことにアッサムが断ったのです。くそっ。貴族の馬車でのんびり帰りたかったのですが。

帰りの挨拶もそこそこに馬車乗り場へと向かうと何とか馬車に間に合いました。


聖剣グラムを買って今日が二日目です。

明日が三日目。

つまり明後日には剣と意思が通じるのです。

楽しみでなりません。

ふふふふ。

笑いがこみ上げてきます。


「不気味よ」


失礼なアッサムです。







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