第4話 異界の勇者

気が付くと高杉隆文達仲良し4人組は見知らぬ場所にいた。

意識は朦朧とし記憶は曖昧。

薬をかがされ誘拐されたのだと理解した。

だが、普通の誘拐だとは思えない点が一つあった。

沢山の人が不安そうな表情で様子を窺っていたのだ。

更にその人達は皆まるで仮想大会の様な、中世ヨーロッパの貴族の様な出で立ちをしていた。

どっきり?

それにしては薬を嗅がせるなど手が込んでいる。

有り得ない。

もしかすると異世界?

いやいや、有り得ない。

様々な思考が浮かんでは消えていった。

しばらく様子を見ていた周囲の人達だったが、まるで王の様な一番豪華な服装をした人物が口を開いた。


「異界の勇者たちよ。良くぞ参った。私はこの国の王アレクサンドルだ。私は既に呪術に侵され既に我が寿命は尽きようとしている。ここに立っているのも苦しいのだ。失礼とは思うが私はこれで失礼して詳細は我が娘、第一王女エカテリーナより説明する」


王は既に立つことさえ儘ならず演説を終えると膝を付き側近に付き添われ出て行った。

そして、王女が歩を進め高杉達の前に立つ。

その王女は腰より長く伸びた金髪を揺らしながら一歩前に足を運ぶ。

深紅のドレスを優雅に着込んだ姿はまさに王女だと知らしめているようであった。

王女は少し高い透き通るような声で話し始める。


「私がこの国の第一王女エカテリーナです。今だ皆様方の戸惑いは留まることを知らず不安が心に去来していることだと思います。しかし、今この国は危機に瀕しもう皆様方に頼るほかないのです。まずはその現状を理解していただけませんか。その上でこの召喚を許せるかを判断していただき許せるなら我が国に協力していただきたいのです」


今だ精神に靄が掛かりまるで寝起きのような状態の5人ではあったが、その中の一人、中尾綾香が立ち上がった。


「分かりました。説明していただけますか?」


その返答に気を良くしたのか王女には笑顔が浮かび朗々と語り始めた。

呪術集団カースよりの侵攻を受けていること。

このままでは国が滅ぼされること。

カースが支配すればこの国は地獄と化してしまうこと。

姫は国の現状を詳細に伝えた。


「既に万策尽きました。カースは異界より来ました。故に私達は他の異界に救いを求めたのです」


異界より去来した者たちには力がある。

曰く、異界の勇者には神の加護ある職業とスキルが与えられる。

曰く、その職業はこの世界の人々の職業を凌駕する。

そして、カースの者達も例外ではない。


「思い出してください。異界渡りの最中、神より賜ったはずです。職業を、スキルを、その使い方を。5人で話し合ってください」

「ご、5人?」


高杉隆文が辺りを見回すと見知らぬ男性がいた。

二十歳くらいだが業の深そうな顔をしていた。


「彼とはお初です。面識がありません」

「でも同じく異界渡りで来られた勇者です。仲良くしてくださいね」

「わ、わかりました」


少々戸惑い気味に答えたのは身長の高いスリムな中尾綾香だった。

彼女は高校2年生で部活で剣道をやっていた。

その所為か与えられた職業は『ソードマン』だった。


「私は『ソードマン』だったよ、って、私は男か! くそっ。麻美は?」

「そうだよね、綾香はずっと剣道やってたし。私は『ウィッチ』変な職業よねサンドウイッチってこと? サンドイッチマンとか言って漫才でもやれってことかしら」

「違うよ、魔女よ魔女」

「あぁ、そうかぁ。やぁねぇ私ったら。私って美しいから美魔女ってことね」


ってそれは違うだろ! と綾香は突っ込みたかったが無視した。

何時ものことだから。

この頭の悪そうなのも16歳の高校生、田宮麻美。

常にハイテンションで物事を都合よく解釈する癖がある。

性格は悪くないのだが‥‥

生来の運動が苦手な彼女には『ウイッチ』という職業があっていたのだろう。


「それで、隆文は何だった? 良くなかった?」


なんだか難しい顔でタブレットを見る高杉隆文に尋ねた。

高杉隆文、高校2年生、身長は平均的な175センチ、長髪でアイドルの様な奇麗な顔をしたイケメン。

切れ長の目に色気があると校内外で人気があった。

クラブ活動はサッカー部。グラウンドには彼目当ての女生徒が詰めかけていた。

明るく素直で性格は極上。周囲に慕われていたが少々無知なところがあった。


「いや、職業が『ブレイブマン』とか出てるんだけど。なにこれ? 何かのヒーロー?」

「それ勇者って意味かも」

「えっ、俺、勇者かよ? ガチ? やったっ! サッカー頑張った甲斐があったよ」

「サッカーとは関係ないと思うよ」



今度は突っ込まずにはいられなかった綾香であった。


「直樹は何だったの?」


橋本直樹、彼も高校2年生部活は柔道部。

身長高めの185センチ、趣味は筋トレ、ぴくぴく動く大胸筋とくっきり3つのパートに分かれた上腕三頭筋が彼の自慢だった。


「俺か? 俺は『ウイザード』だった。がっかりだよ」

「だから残念そうな顔してるのね。筋肉が無駄になったね」


日頃から会えば筋肉自慢ばかりしている直樹が哀れに映ったのだろう。

一緒になって悲しむ綾香。

共感性の強い性格だ。

だからだろう、彼女のスキルには『エンパサイザー』というスキルがあった。


「あなた誰?」


5人の中で唯一綾香が知らない男性に声を掛けた。同じ高校でも見かけたことがない。年齢も自分たちよりは上のようだ。


「俺は田中仁という。お前ら高校生か? 今日からお前らは俺の部下だ。俺のために働け」


突然の高飛車野郎。

綾香たちは全員顔を顰め非難する目で田中を見ていた。


「あなた大丈夫? あなた借金があったのね。親の会社を継いで潰す寸前。それはあなたがへぼだから」


綾香はスキル『エンパサイザー』つまり共感者のスキルで彼の人となりと背景が分かったのだ



「ふざけるな! 誰がへぼだ! 言う事を聞かないと殺すぞ」

「誰がへぼに殺されるのよ。それにへぼだから会社を潰しかけたんでしょ?」

「くっ、ど、どうして?」

「どうして分かったのかって? 私のスキルよ。それであなたの職業は?」

「ふん。誰が教えるか。おい、王女よ、俺は出ていく。金をくれ」


社長の息子で我儘放題に育てられこういう性格になってしまった田中だった。王女エカテリーナも扱いづらいと彼を放逐することを決めた。


「セバステン、1万ゴルド渡してお引き取り願いなさい。それで暫くは暮らせるでしょう」

「おっ、1万ゴルドか、日本円で150万くらいか?」


ウキウキ顔で受け取る田中であったが日本円に直すと1万円ほどである。

ぬか喜びの田中であった。

酷い王女様もいたものである。

そうとは知らずウキウキ顔で城を出ていく田中であった。


「勇者は4人になりましたが彼を含めた5人よりましでしょう。部屋を用意してあります、まずは旅の疲れを癒してください」


そう言うと王女エカテリーナは執事達と共に引き上げていった。

残された4人の勇者たちはそれぞれに個室に案内され今後の試練に挑むために英気を養うのであった。


「俺ウイザードっていやだよ」

「あんた未だ言ってんの? もう、戦うウイザードでいいんじゃない?」

「おっ、そ、そうだな。戦うウイザードか。何か良いな、それ」


単純な橋本直樹であった。



◇◇◇◇


「もう1年か。早いな。俺なんか城暮らしが良すぎてもう他では暮らせないぜ」

「もう、隆文は調子に乗り過ぎ。あんた第二王女狙ってるんでしょ? だから出ていきたくないのよ」

「あ、綾香、まさかスキル使ったのか?」

「あんたの考えなんてスキル使わなくても分かるわよ」

「でも、明日から田中の捜索だよな? 俺お城離れたくないよ」

「我慢しなさい。ブラジル公爵領は車で3時間の距離よ」

「3時間か‥‥って車無いじゃん! 馬車だったら2日の距離だろ?」

「約300キロって感じかしら。姫に会いたくなったら帰ってこれるから」

「じゃあ、ちゃっちゃと田中捕縛して帰って来ようぜ」

「そう簡単に行くかな? 私たち彼のスキルも職業さえ判ってないのよ?」

「それだけでも聞けばよかったな。綾香は『エンパサイザー』のスキルで判らなかったのか?」

「無理よ。そんなの鑑定とかってスキルがあれば判るんじゃないの?」

「俺もそのスキル欲しいよ。そしたら綾香に胸が無いことが分かるのに」

「いやいや、ありますぅ。ありますからぁ」

「隆文ぃ、そんなの、鑑定スキルが無くても綾香に胸が無いことは分かってるよ。鑑定しても胸:AAカップとか表示されるんじゃね?」

「直樹酷すぎ! 俺も思ったけど言わなかったんだからな」

「直樹も酷いけど、隆文も酷いよ、セクハラよ、セクハラぁ!」

「あははは。綾香ちゃん、そんなんだから神様も男と間違えてソードウーマンじゃなくって『ソードマン』って間違えちゃったのね?」


いやいや、麻美が一番酷いだろと突っ込みたい隆文と直樹であった。


「でもあの性格じゃ、もうくたばってるかもよ」

「綾香、酷いこと言うなよ。彼も召喚仲間だろ」

「なによそれ? 隆文ぃ、あんた優しすぎ」

「だって俺には『偽善』ってスキルあるんだぜ」

「そ、それはお気の毒に‥‥」


『偽善』それは、七面倒臭いスキル。

兎に角、善を成そうとする。

兎に角、悪を正そうとする。

兎に角、弱者を見捨てられない。

時には弱点になり得る亀毛兎角のスキルであった。






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