第18話 突然の嵐

     突然の嵐


「よおし、今度はちょいと荒っぽいぜ。しっかりつかまっていろよ小僧ども」

 ハンドルと握ったヤマト親分が、ぬたりと不気味に笑った。

「お、親分、もう堪忍してくだせえよ」荷台にしがみついた猫が、情けない声をあげた。

「なんだと?俺の運転が気に入らねえのか、てめえら」

「と、ととととんでもねえ」

「だったら黙ってろ」

「お、おおおおしっこがもれそうですよ、おやぶん」

「我慢しろ、馬鹿野郎」

 ベリー号は右旋回すると、一直線の垂直降下に入った。ひぇえぇえー。猫の子分達の悲鳴が入道雲に木霊した。垂直降下から急上昇、ベリー号は入道雲めがけて空をかけあがる。うようょうようょうよよよー。子分たちの悲鳴がまた木霊した。

 カッチン、ヤッチン、ヨッチン、ピピチャピは体をよじって大笑い。楽しくて楽しくてたまらない。超大型のジェットコースターだ!ヤマト親分も歯をむいて、げへげへげへへと大笑いだ。

 おや? サトちゃん、真剣な顔で辺りを見まわしてるぞ。どうしたんだろう?

「サトちゃん。大丈夫?」

 カッチンが大声で聞いても、サトちゃんは返事しなかった。さっきまで笑ってたのに。

 ラジオから、ハルおばあさんの声が流れてきた。バックグラウンドミュージックつきだ。

「私の声、聞こえる?」

「大丈夫よ、おばあちゃん。でも……なんだか、変な感じがするの」

「そう。私もよ。嫌な、あの臭いがするわ……サトちゃん、すぐに降りてきなさい」

「わかった。すぐに降ります」

 サトちゃんはもう一度、辺りを、遠くの空を見渡した。

「どうしたの?何があったんだ?」

 カッチンはあわてて聞いた。

「来やがったな」ヤマト親分がニモを見ていった。ニモは無言でうなずく。

「誰が?」ヤッチンが聞くと、

「詳しくは後で話すわ。急いで」ハルおばあさんの声がそれに答えた。

「つかまってろ小僧ども」ヤマト親分がずしりと言った。

 ベリー号がぐんっと動き出し、真っすぐに地上へ向かって降り始めた。

 まるで、獲物に向かって空を滑空する鷲のように。

 同時に、目の前の景色が、ぐにゃり、と歪んだようにカッチンたちには見えた。それは一瞬だったが、カッチン達はぞーっと体が凍ったように感じた。そして、空の上からなにか言いようのないいやな気配がベリー号を押しつぶそうとしている。

 カッチンは後ろを振り仰いだ。あれはなんだ?空が黄色く濁っていく。あのいやな臭いと一緒に……。

「バグジーよ!」

 ラジオからハルおばあさんの叫び声が聞こえた。

 空の上から、濁った黄色い光の幕が下りてきた。網だ。獲物を捕らえるための丈夫な網。カッチンにはそう見えた。

「バグジーって何?」ヤッチンが叫んでいる。

「急いで、サトちゃん。シールドを張るわよ」

 ハルおばあさんの声が緊張している。

 サトちゃんはウムッと口を引き結んだまま応えない。

 上から降りてくる黄色く濁った光の幕。

 古屋敷の庭から、青い光の幕が広がり始めている。青い透明な幕は、古屋敷を周りから包み、ドーム状になって、閉じていく。

「あの穴が閉じる前に戻らなきゃ」

 サトちゃんが叫んだ。

 ベリー号は、今まっ逆さまに青い光の中心に向かって飛んでいく。

「シールドが完全に閉じる前に戻らないと、大変なことになるわ。急いで親分」

 サトちゃんが鋭く言った。

「まかせとけ」

 シールドはひろがり、そしてどんどん閉じていく。急げ、ベリー号。ギュンとベリー号が速度をあげた。

「飛びこむぜいっ」

 ヤマト親分がが咆えるのと、ぎりぎり閉じかかったシールドの隙間をベリー号がすり抜けるのが同時だった。その瞬間、カッチンの横を光りの粒子が飛び散った。ベリー号がわずかにシールドに触れたのだ。いや、でも?それだけじゃなかったような……。カッチンは辺りを見まわしたが、もう光の粒子は見えなかった。

 ベリー号は急ブレーキをかけ、土ぼこりをあげて滑り、苺畑の手前一メートルでやっと停まった。乗っていた全員がベリー号の外に飛び出し、空を見あげた。青い光のシールドの外側に、黄色い光の幕が降りてきて、古屋敷を包んでいく。山羊のおじさん、おばさん。鶏のおばさんたち。牛のゴリさんにクロベエとその仲間たち。猫の子分たち。みんな押し黙ったまま、暗い眼をしてじっと空をみあげている。

 キッと顔をあげて空を睨んでいたサトちゃんは、ハルおばあさんのところへ駈け寄った。カッチンたちも駈け寄った。ヤマト親分とニモも急ぎ足で近づいてくる。

 ギイン、ギイン、ギインと、不気味な、大地を大きな鋸で切り裂く音が響いている。土ぼこりが夏の陽射しのなかで黄色に滲んでいる。

 サトちゃんとハルおばあさんは、黄色い光の幕の向こうをじっと凝視めている。何が起こっているのだろう?

「シールドを張るのがやっとだったわ」

 ハルおばあさんが、誰にともなく言った。

 ハルおばあさんの額には、うっすらと汗が浮いていた。

「捕まっちゃったみたいね?」

 サトちゃんの呟きも同じだ。肩で息をしている。荒い息だ。

 ハルおばあさんは、そっとサトちゃんとピピチャピの肩を抱き寄せた。

「ついに始まったようですね」

 ニモは眼の奥に湧きあがる鋭い光を隠す為に、眼を細めた。

「ああ、来やがったぜ。総攻撃って訳だ」

 ヤマト親分は気遣う眼でハルおばあさんを見ている。

 不気味な音は、キチ、キチ、キチと小さくなり。

 次の瞬間、ぴたりと音がやんだかと思うと、古屋敷はぐらりと揺れた。

「うわあっ」

 みんなはよろめいて、地面に倒れこんだ。

 またぐらあん、ぐらんと揺れる。

 揺れているのは古屋敷だけじゃない!

 地面が揺れているんだ!

「地震だ!」ヤッチンが叫んだ。

「地震じゃない!」サトちゃんが叫び返す。

「じゃ、じゃあこれは何?」ヨッチンが大声で尋ねる。

「苺畑が襲われてる」

「この荒っぽいやり方は、やっぱりバグジーね。大丈夫よ、この程度でシールドは破れない。心配ないわ」

 膝をついて、空を見上げたハルおばあさんが唇をかんだ。

「あなたたちなんかに負けるもんですか!」

 サトちゃんが叫んだ。その眼に、猛々しい光が宿って、ギラギラと輝いている。

「確かに嫌な臭いだ」

 ニモが呟き、顔を歪めた。ヤマト親分も、猫の子分たちも実に嫌そうな顔をしている。猫たちは人間以上に鼻が利くから、ずっとはっきりと臭いがわかるのだろう。カッチンたち三人には、嫌な臭いはあまり感じられなかった。

「取り籠められたらしい」

 ヤマト親分は空を見上げ、ふんっ、と鼻で笑った。

「いったい、何が起こったんだ、サトちゃん」

 カッチンがようやく立ち上がり聞いた。

「バグジー。魔法の村から、星の光の原石を奪って逃げた魔法使いたちの親玉よ。私たちから苺を奪う為に襲ってきたのよ」

 サトちゃんは憎々しげに言葉を吐き出した。

「シールドが破られないうちに、手を打ちましょう」

 ハルおばあさんが静かに言った。

「シールドの外側には、バグジーたちは囚われの網を張って、私たちが逃げ出せないようにしてるのよ。どうすればいいの、おばあちゃん」

 サトちゃんが黄色い濁った光を指さした。

 サトちゃんが言う通り、濁った黄色い光は、網目になって古屋敷の外二百メートルくらい外側をおおっている。

「どうするの、ハルおばあさん?」

 ヤッチンが聞いた。

「相手が何をやるつもりか、それを確かめてから、こちらは動きましょう」

「決まってる。苺を駄目にして、魔法の村を崩壊させるつもりなのよ」

 サトちゃんが言った。

「そうとも限らないわよ。バグジーたちが一番欲しいものは何?」

 ハルおばあさんの言葉に、サトちゃんはハッとして考え込んだ。考えてゆっくりと返事した。

「太陽と月の、光の原石。そして魔法の村」

「そう。まず私たちを人質にする。そして、苺を手に入れ、魔法の村の崩壊と光の原石を交換条件にするつもりじゃないかしら」

「きっとそうよ。でもそれだけじゃない!引き換えに村を乗っ取って、村のみんなを支配するつもりよ、おばあちゃん!」

「ええ、私もそう思うわ。これは負ける訳にはいかないようね」

 ハルおばあさんは、もう落ち着いていた。静かな、冷たく冴えた眼で、空を見ている。

「だが、力は向こうの方が上のようだな。わしらをどうする心算か知らんが、このまま、奴らの力で潰されるままになるしかないのかね、ハルさん?」

 ヤマト親分は、どっこいしょっと、庭の椅子に腰を降ろした。

「ま、あわてても始まらん。こちらもちょいと作戦を練るとするか。どうだね?」

「そうですね。このシールドは、一日くらいは囚われの網にも、魔法の攻撃にも耐えられるでしょう。向こうもすぐには手が出せません」

 ハルおばあさんはにっこりとして、椅子に座った。

「うん。あわてない、あわてない」

 ヨッチンは、ベリー号に寄りかかった。

 カッチンとヤッチンもそれに習った。

「さて。外の連中のことを、もう少し話してもらおうか?」

 ヤマト親分が言った。

 ハルおばあさんが話し出した。用心深く、言葉を選んで。

「外の魔法使いの首領は、バグジー。バグジーについて行った魔法使いは、私が知っている限りでは、二〇三人になるわ」

「二〇三人?」カッチンは思わず叫んだ。

「想像していたより多いでしょ?最初は、八人だった。バグジーが、星の光の原石を盗んで、魔法の村を逃げ出した時はね。でも、今は、私が知っている限りで、二〇三人。もっと増えているかも知れない。でなければ、こんな強力な囚われの網を作れる筈はないもの」

「そうか。確かに厄介だな。そのバグジーの大将、こっちのシールドを破って、わしらに喧嘩を売るつもりだからな」

 ヤマト親分が、にやりとした。

「ええ。最終的には、この中へ侵入して、私達を捕まえるでしょう。このままだったら、やがてそうなるしかないわ」

 ハルおばあさんも、にっこりとした。

「さては、ハルさん、なんかやったな?」

 ヤマト親分は、さらに口を歪め、ニヤリとする。

 ううむ、大人の会話って、どうもよく判らない時がある。何か言いたいことがあれば、さっさと言っちゃえばいいのに、何だか、言わないことを楽しんでいるようにも見える。カッチンは首をかしげて、そう思った。

 この時、庭の隅から、霧が湧き始めているいることに、まだ誰も気付いていなかった。

「魔法の村へ、救援のメッセージを飛ばしました。でも、すぐに応援は来ないと思います。それまで、どうやってここを守るかが、一番の問題ね」

 ハルおばあさんは、みんなを見まわして言った。

 その場にいたみんなが、力強くうなずいた。

「わしは、構わんよ」ヤマト親分は即座に言った。

「構わんって、何が?」カッチンは聞いた。

「ここを守るってことだろ?」とヤッチン。

「うん。バグジーと戦うんだ」ヨッチンは腕組みして仁王立ちになった。

「そうか。戦うんだ。ここにいるみんなで」

 カッチンもにやりとした。

「では、何が出来るか、考えましょう」

 ニモは静かな眼で、黄色い濁った光の網を見上げた。

 猫の子分達は、どうなることかと、心配そうな顔でヤマト親分とニモを見ている。

「囚われの網を破ることを考えましょう。囚われの網は、時間をかけてゆっくりと縮まっていき、やがてはシールドを破ってしまう。その前にここを脱出して、出来るだけ早く魔法の村へ帰るの。そしてみんなの力をあわせて、バグジー達と戦うのよ」

 サトちゃんが言った。

「そんなことが出来るの、ハルおばあさん?」

 カッチンは聞いた。

「ええそうね。でもその為には、二つのことを同時に進めなくちゃならないわね」

「どんなことですか?」ヤッチンが身を乗り出す。

 みんなも興味深げに身を乗り出してきた。

「まずは、武器を作ること?」ヨッチンが重々しく聞いた。

「武器!戦うんだ!」

 カッチンが叫ぶと、サトちゃんがシッと注意した。

「今は古屋敷とその周辺がまるごと、シールドに包まれているけれど、網を破る為には、シールドの全エネルギーを、囚われの網の一点に集中してぶつけなければならない。その時どうやって苺を守るか。どうやって村へ帰るか、このふたつの方法を考えなきゃならないわね」

 ハルおばあさんはじっと考え込んだ。

「もしくは、あの網がシールドを破ったら……。そうなっても、古屋敷と苺畑は丸裸になっちまう」

 ヤマト親分が低い声で呟いた。

「ベリー号だ!」ヤッチンが大声で叫んだ。

「そう、ベリー号よ」サトちゃんが頷く。

「バリヤーが破られないうちに苺を収穫して、ベリー号に積み込む」とヤッチン。

「僕等がバグジーと戦って引きつけておくから、サトちゃんとハルおばあさんは、網を破って、ベリー号で苺を村へ運ぶんだ」カッチンが叫んだ。

 その時、猫の子分たちが、ヒャウニャア、ペロロングウ、変な声をあげて地面にくたっと伸びてしまった。

「お、親分……」

「どうした?」

 ヤマト親分が子分たちを抱き起こした。

 僕らの足元に、白い霧が漂っている。

「しまった!ハルさんやられたようだぜ」

 ヤマト親分は足元の白い霧を睨み、唇を噛んだ。

「どうやら、敵の狙いはこれだったようね……。苺も私たちも、全部押さえるつもりよ」

 ハルおばあさんが言った。

「バグジーとやら、どこまでも卑怯な奴だ!」

 ヤマト親分の叫びを、カッチンやサトちゃんは、ぼんやりとしてきた意識の中で聞いていた。

 そして、やっと僕達は足元に広がる白い霧に気がついたのだ。

「何だ、これは?催眠ガスだ……卑怯だぞ……いつの間に」

 ニモががっくりと膝をつきながら、ようやく呟いた。

(僕らを眠らせて、シールドを破って……卑怯者……)

 捕まってしまう。苺をバグジーに盗られてしまう。

 カッチンはかすんでいく意識の中で思った。あの時見た光の粒子の中に、バグジーが撃ちこんだ催眠ガスがあったんだ。駄目だ、今ごろ気づいても遅すぎる。カッチンは必死に目を開いて、周りを見回した。もっと早く話せば良かった。油断した僕が悪いんだ。

 ハルおばあさんが何か取りだすのが見えた。丸いガラス玉だ。ハルおばあさんが栓を抜くと、白い催眠ガスがガラス玉の中へ消えていく。それにつれて、薄れていく意識がだんだんはっきりしてきた。ああ、助かった。それでも、その場にいた半分以上が、催眠ガスを吸いこんで眠りこんでしまった。ニモでさえまだ足許がふらふらしている。

「苺を収穫しよう」

 カッチンはまだふらふらする足で、苺畑の方へ歩いていった。頭と心ははっきりしているのに、体が動かない。催眠ガスのせいだ。それでもなんとか動ける。苺を摘んで、サトちゃんとハルおばあさんを、無事魔法の村に帰すんだ。顔をあげると、ヤッチンとヨッチン、ピピチャピとサトちゃんが立っていた。みんな苦しそうだ。でも、みんな笑ってる。

「やろう、みんなで」ヨッチンが言った。

「苺を摘むぞお。動ける人は手伝ってください」ヤッチンが大声で呼びかけた。

 何人かが立ち上がり、苺畑の方へ集まってくる。

「しっかりしなよあんた。ヨッチン頑張ろうって言ってるんだよ。しっかりおし。悪い奴等に苺を盗まれてたまるもんですか」

 山羊のおばさんが、思い切りよく山羊のおじさんのお尻を蹴っ飛ばして立ち上がった。

「お、おう」山羊のおじさんも立ち上がる。

「そうだよ。みんなで育てた苺だよ。自分の手で守らなきゃ誰が守るんだい。子供達に笑われるよ」

 鶏のおばさんが、けたたましくまくしたてた。

「お、おやぶん、俺たちだって負けちゃいませんぜ」猫たちも立ち上がる。

「俺達もだ」クロベエが立ちあがる。

「もちろん、俺もやるぞ」ゴリさんがにっこりと大きな体をゆすりあげた。

 起きている全員が、苺畑に並び、大切に育てた苺を一粒一粒摘んでいく。

 赤く輝く苺。ぷっくらとして黄金色のぷちぷちがある苺。甘くて艶やかな香りを放つ苺。みんなで育て守ってきた苺を摘んでいく。サトちゃんの魔法の村を守るために。しだいに体も元に戻り、皆は時間を忘れて夢中で苺を摘み続けた。

「小僧ども三人、ちょいと来てくれ」

 ヤマト親分が呼んだ。

「どうしたの、親分?」ヤッチンがたちあがる。

「相談がある」

「相談って?」ヨッチンが苺を摘みながら顔だけあげて聞いた。

「苺摘みまだ終わってないんだよ」カッチンがむっとして言った。

「いいから来な」

 言ってヤマト親分はアトリエの方へ歩いていった。仕方ないので、カッチン、ヤッチン、ヨッチンが後に続く。見まわすと、いつの間にか全員が眼を覚まし苺摘みに夢中になっている。苺を摘む者、箱に入れる者、ベリー号に積み込む者と仕事の分担まで自然に出来あがっていた。

「まあ座れ」アトリエに入ると、ヤマト親分が言った。

「何の相談ですか?」ヤッチンが聞いた。

「それがな、どうも俺たちじゃうまくいかねえんだ」ヤマト親分は苦笑いした。

「うまくいかないって、なにが?」とカッチン。

「ニモやハルさんと相談していたんだが、少し計画を変えることにした」

「計画を変えるって、どうするの?苺をベリー号ではこぶんでしょ」

 ヨッチンが用心深く聞く。

「そのことに変更はない。だが、君たちとピピチャピにも、ベリー号で魔法の村へ行って貰う。君たちは私たちの代表として、最後まで見届けて貰うことになった。敵を引きつけておくのは、私達がやる」

 カッチンが立ちあがろうとするのへ、ニモは更に言葉をかぶせた。

「これは最終決断だ。君たちにはそうしてもらう。始まりは君たちだった。そして、最後も君たちが終わらせるのだ」

「でも、僕らも戦います。逃げる訳にはいきません」ヤッチンが強く言った。

「駄目だな。ハルさん達は逃げる訳じゃあねえ。魔法の村を救うために出発するんだ。それをお前達が手伝わないでどうする?」

 ヤマト親分が有無を言わせぬ語気で言った。三人は黙りこんだ。納得がいかないけれど、ヤマト親分やニモが言う通りにするのが正しい気もする。

「私からもお願いします。カッチン、ヤッチン、ヨッチン、ピピチャピがいてくれたら、私もサトコも心強いわ」

 ハルおばあさんが静かに頭を下げた。

「もうひとつの相談は、おめえたちに武器を考えてほしいのだ。魔法で戦うのじゃ、苺を駄目にしちまう。この古屋敷にあるもので、何か武器を考えなくちゃならねえ。苺の時と同じで、何かで武器を作るのには魔法を使っても構わねえ。だが、俺達の頭じゃどうも固すぎてな、何も思い浮かばねえ。おめえたちは悪戯の名人だ。色々と思いつくと思ってな」

 ヤマト親分は、どうだと言わんばかりの顔で、三人をのぞきこんだ。

「じゃあ、武器を考えたら、僕らも戦わせてくれる?」カッチンがニタリを返した。

「馬鹿、それとこれとは話が別だ。だが、ベリー号を守るのは、お前たちの役目だ」

「分かった。考えるよ、親分」

「そうこなくちゃいけねえ。だが時間はあまりねえぞ小僧ども」

 アトリエを出た三人は、草の上に座りこみ、腕組みして頭をつけ合せて考えこんだ。ううん、古屋敷にあるもので武器を作る。へええ?むううん、そうだ!いや違うな。ヴヴヴヴヴ、う、う、浮かびそうで浮かんでこない。三人は、顔を見合わせ唸った。考えるとなると、そう簡単には思いつかない。ヤッチンは難しい顔しているし、ヨッチンは草をむしっている。カッチンは体じゅうがむずむずして落ち着かない。カッチンはじっとして長いこと考えことができないのだ。その時、カッチンの頭が閃いた。

「なんだ、簡単だよ。ハルおばあさんとサトちゃんの魔法が使えるんだぞ。何を武器にするかじゃないんだよ。ほら僕ら遊んでる時に、これが武器だったら良いのにっていつも思ってるじゃないか。それでいいんだよ」

 カッチンが飛びあがった。最初はぽかんとしていたヤッチンとヨッチンが、ああっと叫んで飛びあがった。

「そうだ、それでいいんだ。だったら幾らでもあるぞ」とヤッチン。

「これで戦える」ヨッチンもうなずいた。

「まず最初に僕が欲しいのは、レンコンバルカン。蓮根で作ったバルカン砲だ。一分間に二万発の機関銃だぞ」カッチンがうひひと笑う。

「僕は鳳仙花ボンブ。敵に当たる爆発するホウセンカ爆弾だ」とヤッチンがにやり。

「僕はモウソウバズーガ」ヨッチンの鼻がぴくぴく動く。

「モウソウバズーガ?」ヤッチンが聞いた。

「もう、ほらあの孟宗竹で作るんだよ。だからモウソウバズーガ」

「あっ、そうか。すごい、強力そうだな」とカッチンが体でうなずく。

「そして、最強最終兵器は……」言って三人はアトリエの横に眼をやる。

「最強のサボテンミサイル!」

 


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