愛の記憶 #2
一か月ほど前、母が薔薇の花束を手に、ご機嫌な様子で帰ってきた。
毎朝「転職しようかな」と言っていたにも関わらず、その日以来、母は笑顔で職場に行くようになった。
「それ、絶対に好きな人出来たやつだろ」
友人の言葉に、食べかけのメロンパンを落としそうになった。
「やっぱり?」
「ああ。間違いないね」
周りにいた同級生たちも、うんうんと首を縦に振った。
「うわぁぁぁぁ。なんか嫌だぁぁぁ」
メロンパンを片手に机に突っ伏す俺を見て、同級生たちが口々に「ドンマイ」と言った。
「俺、もう家に帰れないじゃん」
「は?なんで?」
「だって、もし上手くいったら結婚するかもしれないじゃん?そしたら、俺の居場所なくなるじゃんかー」
「まあ、結婚する可能性は大いにあるな。お前の母さん、若くて美人だし」
再び「あぁぁぁぁ」と情けない声をあげながら机に突っ伏した。
「そう落ち込むなって。そんなに気になるなら、確かめればいいじゃん」
「確かめるって、どうやって?」
「忘れ物を届けに来たとか言って、仕事場に行くとかさ。色々方法はあるだろ」
「なるほど。その手があったか」
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、皆が一斉に各々の机に戻った。午後の授業中、俺はひたすら作戦を練っていた。
◆◇◆◇◆◇◆
翌日、放課後のチャイムが鳴ると同時に母親の職場へ向かった。
外から店内を見ようと背伸びした瞬間、近くにいた人にぶつかった。
「すみません」
「いえ、俺の方こそ。・・・・・・あれ?」
見覚えのある顔だと思ったら、隣のクラスの
中学二年の夏に転校してきた彼は、中性的な顔立ちかつ切れ長の目が印象的で、転校してきた当時はイケメンが転校してきたと話題になった。
「お前、こんなところで何やってるの?」
彼は眉間に皺を寄せたかと思うと、「誰?」と言った。
「隣のクラスの内海だよ!昨年、同じクラスだっただろ」
「ごめん。人の顔を覚えるのは苦手なんだ」
「ああ、そう」
愛想笑いを浮べながら、心の中で「単に俺に興味ないだけだろ」と毒気づいた。
「花を買いに来たのなら、さっさと店に入れよ」
「・・・・・・君には関係ない」
そっぽを向く彼にカチンときた。
「ああ、分かったよ。一緒に入ろうぜ」
「え、ちょっと、待って」
抵抗しようとする彼の腕を強引に掴み、店に入った。
「あら、瞬。どうしたの?」
「こいつが花屋に用があるって言うから付いてきた」
「あら、また来てくれたのね。嬉しいわ」
早川は顔を紅潮させながら、消え入りそうな声で「こんにちは」と言った。
両者の反応を見て、俺は思わず「マジか」と叫んでしまった。
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