神フリマアプリ
セイドウ達と合流し、現状について簡単な話し合いを行う。
教師ふたりを支援している神は、時間と金銭の神らしく西先生は「未来の力を借りる(リボ払い)」というものだそうだ。
一時的に力を借りることで強くなれるがその代わりに発動後は、利子と手数料を足した分だけ返さなければならないらしい。
南先生は「未来に物を送る」スキルをもらったらしく、支払った魔力に応じて現在ある物を未来に送ることが出来るとか……。
どうにも二人ともかなり癖の強そうなスキルである。
「西先生が木を背負ってた方法は分かったんですけど、後で返さなければならないなら必要なときにだけ使えばいいんじゃないですか?」
「いや、一日単位でしか借りられないみたいだ。今回は1.5倍になるように借りたんだけど、返すのは一律で0.1ずつしか返せないから……今日の夕方から、おおよそ一週間は0.9倍の力で過ごすことになるな」
「……不便そうですね。いや、それなら0.1借りればいいのか?」
「寿命で返せないぐらい借りたらスキルは使用不可になって、そこからはずっと返済のみが降りかかるらしい。それに、支払いが伸びれば伸びるほど利子と手数料がかかるから、そういう使い方をしたらあっという間に弱体化して終わりみたいだ」
「……ややこしいスキルですね」
強力そうではあるが、温存した方がいいのだろうか。
南先生のスキルはもっと使い道が難しい。手が触れている物を未来の同じ場所に送る。
冷蔵庫がないため食材の保存などには使えそうではあるし、他にも使い道はありそうだが……と思っていると、南先生は手に持っているペットボトルを見せてくる。
「ほら、これすごくないですか? ボトルキャップ作り放題です!」
飲み終わった後のペットボトルの中にペットボトルの飲み口からは到底入らなさそうな大きさの石が入っている。どうやら未来に送ったものは突然出現するという性質を利用して、出現位置にペットボトルを置くことで中に入れたらしい。
割とどうでもいいな、と思いながらセイドウを見ると恨めしそうに俺を見て軽く頭を抑える。
「こうなったら、合流を目指すしかないか」
「私のスキルで斥候を出しますか?」
「……いや、生きるのに有用だから、生活基盤を整えるのに使うべきだな」
まぁ、実際のところ南先生の謎のサバイバルスキルとかなりデカい拠点である神殿のおかげでかなり余裕があるが、だからこそ他の人との合流は遅らせられるならば遅らせたい。
ある意味「見捨てる」ということではあるが……イコを守るためであれば、それぐらいの悪徳はいくらでも許容しよう。
そんな思惑を持ってイコの意見を却下し、話したそうにしている一路に目を向ける。
「あっ、さっき、神殿の中にこんな紙があってね」
そう言って一路が出したのは見慣れない文字が書かれた紙だった。何語だこれ……と思いながら翻訳を使ってそれを見る。
『シスイくんとイコちゃんへ。ふたりの担当神のアイネットです。個人的にふたりのことを助けたいと思っているのですが、お恥ずかしい話、お給料が足りず満足な支援は難しいと思います。そこでお願い(難しいようなら大丈夫です)なのですが、神殿の一室を使ってもののやりとりをし、そちらの世界で集めた物を神のフリマアプリで金銭に変えてその金銭で物を買えたらいいかなって思いました。割に合わないかもしれないとも思いますが、そちらでは手に入りにくいものも買えたりするので……という提案です。この紙と一緒にペンも送っておくので、どこかの部屋に返答を書いて置いていただき、その部屋を物のやりとりをする部屋に出来たらなって思います。無理を言うようで申し訳ありませんが、ご一考ください。アイネットより』
読み終えた俺は一路の方に目を向ける。
「俺とイコの神が「支援したいけどお金足りないから、金目の物をくれたらこっちで買って送るよ」だって」
「えっ、なにそれ、優しい」
「まぁいい人ではあると思う。いや、まぁ誘拐加害者な訳だけども。それにしても売れるものか……。売れるようなもの、ここにあるか? あ、ペンも一緒に送られてるらしいけどあるか?」
「神様の世界で売れるものなんて分からないね。あ、そういえばあったよ」
一路からペンを受け取り、それから少しだけ考える。……仮に、神の世界の物価が日本に近いと考えると……食糧品を買うのはあまり良くないだろう。
こちらでは取れやすい木材などをあちらに送って、作りにくい布などを送ってもらうのがいいだろうか。
あとは作るのがほぼ無理な金属製の道具とか……。ペットボトルとかのゴミがほぼ無料ならそれを送ってもらうのも助かるかもしれない。
木材を搬入する必要があるかもしれないなら、入り口近くの大きめ部屋がいいか。問題が出ても多分女神に言えば変えてくれるだろうと思い、紙に返事とこちらで取れるもので高くなりそうな物を教えてもらうように書く。
「それにしても、突然異世界ってのは驚いたな」
西先生は少し眠たそうにしながらも元気に振る舞う。
「まぁ、まさかこんなことになるとは思っていませんよね」
「ああ、でも先生がついているから平気だぞ。きっと、全員揃って家に帰してやるからな」
ニンマリと自信満々に言う西先生を見て、思わず頷いて頼ってしまいそうになり……首を横に振る。
「頼りになりますけど……。真面目に考えて、生徒は三十人いるんですから、先生ひとりでその食糧とかを集めるのは無理でしょうし、あんまり背追い込まない方がいいですよ」
「……アカガネ、反応がクールだな。筋金入りのヘソフェチなのに」
「ヘソフェチは関係ないだろ。……とにかく、先生方は多分昨日から寝てないでしょう。ベッドなんてマトモなものはないですけど、段ボールがあるので直接地面に寝転ぶのよりかはマシなんでそれを使って寝てください」
「いや、でも今寝たら夕飯が……」
「スキルとかもあるからなんとかするんで、とりあえず休んでてください」
西先生は俺が折れるつもりがないと察してか「頼んだ」とだけ言って二階に上がっていく。南先生も……と思ったが、南先生は平気そうに首を横に振る。
「あ、私は寝たんで大丈夫ですよ。交代で寝る約束してたんですけど、西先生はなんか寝れなかったみたいで」
「……普通は突然異世界の森に放り出されても寝れないと思いますよ」
西先生をヤバい人だと思っていたが、普通そうに見えてこちらの先生の方がヤバいかもしれない。
なんで普通に魚を取って火を起こして食って野営してるんだよ……。
「じゃあ、また魚獲ってきましょうか?」
「ああ……いや、ここの外に野菜っぽいのが生えているので食用に適しているか確認してもらえませんか?」
「野菜? 山菜じゃなくて?」
「ええ、村の跡地っぽくて。あ、取るの自体は後でいいですし、疲れていたら寝ていても大丈夫ですよ」
南先生は「平気平気」といって神殿から出ていく。
「あー、イコ、外に集めてもらっている枝なんだが、思ったより集まりが良さそうだから、犬に別の指示を出せるか?」
「はい。大丈夫ですよ。動物を狩ってきてもらいます?」
「小型犬ぐらいで何か獲ってこれるのか? ……魚ぐらいならいけるかもしれないか。十匹のうち、八匹を魚を取ってくるように、二匹を用水路の復活のために、溝を塞いでいる土を除くって感じは出来るか?」
「ん、お願いだけしてみます。二匹だけでいいんですか?」
「ああ、どれぐらい進むのかを確認したいだけだ」
休みなく動けるようで、小さくとも簡単な単純労働は人間よりもよほど効率がいいかもしれないと、神殿の近くに山ほど積まれた木の枝を思い出して思う。
もし川の水を引っ張っている用水路が復活したら、水を得るための活動が必要なくなり、その時間を他のことに使えることとなり生活が楽になる筈だ。
かなり時間はかかりそうだが……出来そうかどうかを試すのはいいだろう。
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