教師達との再会
「ほら、担任の教師がいたらみんな気を遣って意見を出し合えないだろ? 気を遣って見守っていたんだ」
「はあ……なるほど。でもそんな隠れるような場所、教室にあったっけなぁ」
「ああ、アカガネ。学校にフェチズムの強い本を持ち込むのは良くないと思うぞ。お前も年頃だし、そういうのに興味があるのは仕方ないが……」
「俺のロッカーかよ! 俺のロッカーに隠れていたのか!? なんで!? こわっ!?」
えっ、こわ。普通、見つからずに見守りたいからと言って生徒のロッカーに潜むか……?
「いやいや、教師ならみんなそんなもんだぞ」
「いや、しないだろそんなの……こわ」
「先輩、先生にタメ口は良くないですよ?」
「いや、コイツにはセーフだろ……教師ではなく、なんか別の生き物だよ。コレは」
キモいとかじゃなくてただただ怖えよ。
「そういえば先生はひとりなんですか? 二人ずつセットでいるっぽいと思ってたんですが」
「ああ、副担任の南先生も近くにいるぞ。一緒にいたからか一緒に送られて」
「なんでロッカーの中に潜むのがブッキングしてるんだよ」
「トラブるってやつですね」
「人のロッカーでトラブるな。……なんで俺のロッカーが人気なんだ、可愛い女の子なら分かる。いい匂いしそうだしな。俺はないだろっ!」
「先輩、性癖もれてますよ」
というか、良く俺のロッカーの中に二人も入れたな。なんで文化祭の出し物決めを見守るためなんて純粋な優しい目的でそんな狂ったことが出来るんだ。
「ふむ……ところで、先輩の持っていたフェチズムの強い本ってどんな内容です?」
「ああ、ヘソが……」
「はい。終わり、この話は終わり! 南先生も近くにいるんだったら、そっちと合流しよう」
俺がそう言って誤魔化そうとするも、イコは自分の腹部を見下ろして小さく口を開く。
「お、おへそ……おへその良し悪しが分からないです」
「いいから。その話はいいから」
「それにしても、生徒のロッカーにふたりも先生が詰め込まれていたとは……異世界ってのは恐ろしいですね」
「その恐怖のサイコ教師達は地球産だから異世界に対する冤罪なんだよな」
なんで生徒達を見守りたいという牧歌的な話からそんな恐怖を錬成することが出来るのか。大人である先生に再会出来たというのに不安と恐怖しかない。
そもそも……再会自体は喜ばしいが、セイドウとの計画に支障が出そうだ。再会してから別れるのは不自然だし、かと言って先生に「アイツら揉めそうなんで距離置こうと思います」と言って素直に納得してくれるか……。
セイドウ達と会わせない、神殿に連れていかない、という選択肢が取れなくもないが……現状、生活基盤が整っていなさすぎてそんな無茶は出来ない。
まさか、こんな早く他の人と再会出来たとは……早速計画が崩れたな。一応、セイドウと会わせた後に相談してみるか。
色々と計画を立て直す策を考えているうちに、副担任の南先生を待たせているところまで着いたらしく西先生は「おーい」と手を挙げる。
「あ、西先生……とアカガネくんと……不言ちゃんじゃないですか!」
サラサラと流れる水の音、パチパチと音を立てる焚き火の熱、何より感じる魚が焼ける香ばしい香り。
一応食べすぎないようにと節制していた腹が鳴り、教師達ふたりが俺を見て笑う。
「お疲れ様です。魚、たくさん取れたのでおふたりもどうぞ」
「……ああ、ありがとうございます。……すごいですね」
「ふふん、これでも生物の教師ですからね。少し植生は違いますけど、収斂進化などから生態を大まかに把握するぐらいなら可能です。毒を持ってなさそうなものを選んだので、どうぞどうぞ」
筋肉をサブスクの使い放題プランで契約してそうな西先生ではなく、南先生が取ったことに驚きつつ、近くの木の根っこに腰を下ろす。
状況がこれと言って良くなったというわけでもないのにどこか安心して肩から力が抜け落ちる。
ゆっくりと顔を上げながらスーツの裾が濡れて、いつも履いているストッキングを脱いでいる南先生を見る。
「……あー、正堂と一路のふたりと合流して女神からもらった拠点で待っていてもらっているんです。多少食料はありますが、タンパク質には欠けているんで……渡してもいいですか? 俺はいらないんで」
「勿論大丈夫ですよ。でも、アカガネくんも食べること。はい」
木の枝に刺された魚は内臓と鱗が既に取り除かれていて食べやすそうだ。
見ていると涎が出そうになるが、それでも食べるか迷っていると、南先生は突然川に飛び込んだかと思うと、川の中でバシャバシャと動いて川辺に魚を放る。
いつも綺麗に整えられていた髪に川を流れていた落ち葉や藻が付き、化粧はとっくに落ちて水が滴っている。けれどもニコリと笑みを浮かべて俺とイコを見る。
「ほら、この通りすぐに取れるので、どうぞ」
何も実践しなくても……と思いながら、イコとふたりで魚に齧り付く。
南先生は身体が冷えないようにスーツを脱いで近くの木に引っ掛けて俺達の近くに来て火に当たる。
慣れて下着が透けてしまっていることに気が付き目を逸らすと、イコが俺をじとーっとした目で見ていることに気がつく。
目を逸らしたのだから許してほしい。浮気じゃないので許してほしい。
南先生は俺たちの様子を見て気がついているのかいないのか、ニコリと笑って食べる様子を見ている。
「……サバイバル慣れしてるんですね」
「えっ、いや、全然だよ。たまたま出た位置が川沿いで、そこら辺に沢山乾いた木が落ちてたから、ふたりで魚を取って食べたってだけで……。川を見つけにきたアカガネくん達の方がすごいよ」
「……そんなことはないと思いますけど……。あー、その女神様にもらった拠点、かなりしっかりしてるので案内しますね。距離もそんなに遠くないですし」
完全にセイドウとの計画は崩れ去ってしまったが、再開出来たこと事態は喜ぶべきだろうか。
イコと二人で魚を食べ終え、それから神殿の方に向かう。
……いい先生ではあるんだけど、この人たち、俺のロッカーに詰まってたんだよなぁ。
そう思っていると、西先生は俺の表情を見て何か察したのか歩きながら口を開く。
「一応言っておくけど、ロッカーに入っていたのは嘘だぞ?」
「嘘かよ。なんでそんな変な嘘をつくんだよ」
「いや、和むかなあって」
「そんな牧歌的な発想からなんで恐怖のサイコキャラを生み出したんだ……。というか、なんで俺のロッカーにある本知ってるんだよ」
「いや、一年のときも荷物検査に引っかかってたし」
あー、なるほど。と思っていると、イコが「このすけべめ」という目で見てくる。
違うを違うんだ。ヘソは……ヘソは、一般的な性癖だから。
心の中で言い訳しているうちに、神殿に戻って来ていた。
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