現状と未来の話
あまりにも単刀直入な悪い言い方に思わず引いていると、俺の反応を予見していたようにセイドウは頷いて言葉を続ける。
「ハッキリ言って悪徳だというのは理解している。が……それはそれとして、全員で生き残ることが可能だと思うか?」
「……まぁ、俺はなんとしてでもイコを生かす必要があるから、お前にもあまりどうこう言うつもりはないが……理想としては全員で帰ることだろ」
言いたいことは分かる。俺もいざとなった時はイコを連れてそうするだろうが、それはあくまでも本当にいざというときの話だ。
理想が叶わなかったときに仕方なくそうするのは分かるが、初手で知り合いをみんな切り捨てるというのはとてもではないがマトモな考えであるとは思えない。
俺がそう表情で伝えると、セイドウは俺の反応を予測していたように頷く。
「……既にかなり追い詰められた状況だとおもうぞ」
「それはそうだけどな……人間関係的なものの問題がないなら、人数が多い方が分業出来ていいだろ」
「本当にそう思っているのか?」
一瞬、セイドウの目が俺の中の本心を暴くように鋭いものになる。
……まぁ、本音ではない。ハッキリ言ってほとんどが役立たずだろうと、俺の足を引っ張るだろうと思っている。
「……まぁいい。あまり時間もないだろうしな。俺は人数が多いことによるメリットよりも、デメリットの方が大きいと考えている。理由はスキルという不確定要素を除けば、間違いなく俺とアカガネの足を引っ張るからだ」
「随分と高く買ってくれているな」
「アイツ……マナのやつもこんな状況でも冷静で頭が回るアカガネと一緒にいる子は学年も違うから分からないが、少なくとも錯乱したり足を大きく引っ張ることはしていないようだ。この場にいる四人なら、大抵のことは不確定要素のスキルがなかったとしても解決出来る」
言っていることの意味は分かる。
パニックになったり、混乱して動かなかったりするやつが出れば非常に困る。
「それに……スキルが強力だったら、それはそれで困るだろ」
「……内輪揉めか?」
「むしろ逆だな。スキルを元にした変な序列やグループが出来ることを危惧している。どうしても……食料を簡単に得られるスキルや単純に強いスキルが有用だろ。この場でそれは権力に直結しかねない」
そう言ってから「お前も分かってる癖に説明させるなよ」というような視線を俺に向ける。
「内部分裂、内輪揉め、歪な権力構造。いくらでもあるだろ。カマトトぶるなよ」
「……まぁ、そりゃ食糧を集められるようなスキルが偉くなるだろうな」
「ああ、高校生なんて子供が独裁しはじめたら面倒なんてもんじゃないぞ」
「……そうは言っても、やはり人手はいる。元の世界に戻るためには手がかりを探す必要があるだろ。一度は朽ちた不朽の城に行かないとダメだし、そうすると再開することになるだろう」
「楽観的じゃないか?」
「正解は分からない。が、間違いだったらイコを担いで逃げるよ」
俺がそう言うと、セイドウは「仕方ないな」と息を吐いて、それからポケットから手帳のような大きさの本を取り出す。
「……なんだそれは」
「マナと相談して隠していたが……俺が剣をもらったように、マナもこれをもらっていたんだ。なんと言えばいいか……魔導書とでも言うか。魔法の使い方が書いてある本だ」
「……魔法って」
異世界に、スキルに、魔法……今更驚くような内容でもないが、それにしても分かりやすくファンタジーな代物だ。
セイドウが片手をあげて何かをぶつぶつと口にしたかと思うと、その手のひらに小さな火が灯る。
「……火か」
「スキルを使うエネルギーと同じ力を消費するから見せるのはこれぐらいだが、他にもいくつか有用そうなものや攻撃に使えるようなものがいくつもある」
「そんな簡単に使えるようになるのか?」
「理解力によるが、俺なら一通り読んでも二、三時間だ。まぁ普通のやつでも一日あれば余裕だろう」
随分と便利そうだな。……こういう便利なものがあるから四人でも生活出来るという意味だろうか……いや、セイドウの表情を見ればそうではないことがすぐに分かる。
「仲間になるなら読ませてやる。そうでないなら見せることは出来ない」
セイドウの目と俺の目が合う。お互いに逸らすことなく見つめ合い、それから俺が口を開く。
「それは魅力的だが、他のクラスメイトが似たようなものをもらっている可能性は十分にある。それにこだわるような理由はないな」
俺がセイドウの交換条件を一蹴すると、セイドウはため息を吐き出してテラスの壁にもたれる。
「仕方ないな……」
それからセイドウは俺に魔導書を手渡す。
「……いいのか? 仲間にならないと読ませられないんだろ」
「まぁ、交渉には使えそうだから使ったけど、あれは嘘だ。別に仲間にならなくても読ませてやるよ。別に死んでほしいってわけでもないしな。どちらにせよ二人には読ませるつもりだった」
パラパラと魔導書をめくって見ると、丁寧に日本語で書かれており、表現も高校生に合わせた程度のもので分かりやすいものとなっている。
魔導書というよりかは参考書とでも呼びたくなるようなものだ。こんなもので魔法が使えるなんて信じ難いが……まぁ、スキルもあるので、別の世界の理屈ではそうなのだろうと納得する他ない。
「……結構時間かかりそうだな」
「全部読むにはな。俺も全部は読めてないしな」
だが、たかだか数時間の勉強で魔法が使えるようになるというのは非常に魅力的だ。一番困っていた火の問題も解決出来そうだ。
「……一応聞くけど、これ、セイドウとマナが読み終わったあともらってクラスのやつに読ませるのはダメだよな」
「流石にな……手離す気にはなれない」
「じゃあ、ここに連れてくるのは?」
「なんで合流しないんだって話になるだろ」
まぁ無理か……仲間として活動することを断ったのに読ませてもらえるだけでありがたいと思う他ないな。
実際のところ、俺とイコに読ませてもセイドウに得は一切ないわけだし、交渉材料も減らすことになってしまっているのだから……。
俺はボリボリと頭を掻く。仕方ない、俺も折れるか。
「じゃあこうしよう。俺とイコ……もしくは一路がついてきたいと言い出せば一路も含めてクラスメイトとの合流を目指す。魔導書のこともあるから明日以降に」
「ああ、それで」
「合流してそこで生活するようになったら、定期的に連絡を取り合おう。クラスでの生活が上手くいけばセイドウも合流して、そうでなければ俺達がセイドウの方に行く」
セイドウは意外そうな表情を浮かべて俺を見る。
「なんか風見鶏なやり方だな」
「そんなおかしくないだろ」
「いや……確か、お前の親父さんはすげえ真面目な……」
セイドウがそう言おうとした瞬間、イコがパタパタとやってきて俺の腰にタックルをする。
「もー、変なところにいないでくださいよ。探しましたよ」
「あー、悪い」
「何のお話していたんですか? 「クラスで誰が可愛いと思う?」みたいなやつですか?」
「修学旅行か?」
「それとも「これからどこ行く?」みたいなやつですか?」
「修学旅行か?」
「「女子も誘わねえ?」みたいな」
「修学旅行か? ……大した話じゃねえよ。……あー、いや、セイドウが魔法の使い方を書いてる本を読ませてくれるってよ。イコ、そういうの好きだろ」
「えっ!? ま、魔法ですか!?」
イコはパタパタと動いて俺の前にくる。
「読みたいです! 読みたい読みたい!」
「まぁ……普通に勉強するのと同じ感じみたいだから、俺が読んだ後な。早く身につけた方がいいから、読むのが早い俺からの方がいい」
「む、むう……先輩が早く魔法を使いたいからではなくてですか?」
「身の安全を守るためだ。まあ、必要そうなのを率先して覚えたあとはイコが先に読んでいい」
俺がそう言うとイコは嬉しそうに俺を見る。……余裕あるな。
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