クラスメイトとの再会

 再会できたことを喜ぶフリをしながら、二人と共に地面に座る。


「アカガネ、すごい勢いで逃げてたけど無理だったんだ」


 そう言うのは「おもしれえ女」と言われた側である女子生徒の|一路(イチロ) |真実(マナミ)だ。

 少し地味な顔立ちと平均ぐらいの背丈、比較的着崩していない制服と真面目そうに見えるが、別に真面目というほどでもない。


 俺はイコが嫌がるから二年になってからは女子とはあまり話さないが、お互い教室の隅にいることが多いため少し会話をしたことがあった。


「ああ、廊下の方まで黒い沼みたいなのに埋まっていてな。というか、神的な奴と会ったろ? 作為的なものだから逃がしてはもらえなさそうだ」

「ん、それはそうだね。なんかこのアホが近くにいたからか一緒に転移させられた。まぁ、多少頼りにはなるけど」


 一路が指差したのは「おもしれえ女」と言った側の男子生徒の|正堂(セイドウ) |正(タダシ)だ。

 背が高く少し筋肉質な身体、中学生の時はバスケ部のエースだったとかで非常に女子からモテているが「バスケと女もつまんねえ」とか言ってひとりで過ごしている姿をよく見かけていた。


 一路の方は疲れきった様子を見せているのに対して正堂は眠たそうにしている程度であまり疲れた様子は見せていない。


「誰がアホだ。……俺は水を探しにいくから、マナ、お前はここで寝とけ」

「気安く名前で呼ばないでよ。というか、それよりもここの調査が先でしょ。明らかに真新しい神殿とか不自然だし」


 二人がツンケンとしたやりとりをしているのを見て、少しボリボリと頰をかいてから口を開く。


「あー、この神殿は俺とイコを送った神がくれたものだ。だから、危険とかはない。あ、あと食料も少しはあるから……」


 一瞬イコに目を向けると迷った様子もなくコクリと頷く。


「あんまり食われるとまずいけど、ほどほどに食ったらいい。あと、段ボールがあるから布団がわりにしたらいい。そのまま石の床の上に寝るのよりかはマシだろう」

「神殿とかもらえるの? すごく優遇されてない?」

「神の性格の違いだろ。そっちは何かもらってないのか?」

「んー、なんかコイツは剣もらってたけど、私は何にも。あっ、スキルってのはもらったよ」


 一路はそう言って小指を立てると立てた指先からシュルシュルと細い絹糸のようなものが出てくる。


「こう見えてかなり硬いから物を縛ったりするのには使えるかも」


 俺とイコは信じられないものを見るようにして目を開くと、続けて正堂も虚空を握りしめるような動作をしたかと思うと、何もない空中から剣を引き抜く。


「俺は剣を持つと身体能力が強くなるらしい。が、魔力ってエネルギーを使うらしいから普段からずっとってわけにはいかないな」

「その剣を空中から出したのは?」

「剣の方の能力だ」


 おお、すごい。と感心していると、イコが「ほえー」とアホそうな顔をしてふたりを見てから俺の手を引っ張る。


「ど、どうしますか先輩。二人とも凄そうなスキルを持ってますよ? 先輩の木のフリがめちゃ上手いって能力がめちゃくちゃショボく感じますね」

「いや、木のフリが上手いのはスキルではなくただの「技能」なんだよ」

「なっ……あれだけの力がスキルじゃないなんて……!」

「いや、全く上手くなかったからね。よくその自信持てたね?」


 まぁ冗談はさておいて、と息を吐く。


「俺のは「翻訳」だ。知らない文字を読んだり出来るのは確認した。こっちの言葉が通じるのかとか、文字じゃなくて会話ならどうなるのかとかは未確認だ」

「へー、そう言えばさ、神様が「スキルは神の力を元にして本人の望みや人格によって変化する」って言ってたんだけど」


 一路の言葉を聞いたイコは、パチリと瞬きをしてから可哀想な物を見るような目を俺に向ける。


「先輩……スキルになっちゃうぐらい、英語が苦手なことを気にしてたんですね……」

「やめろ。別の理由かもしれないだろ。こう、人と人同士の関係をスムーズにする潤滑油のような人間になりたいみたいな」

「そんな就活生みたいなタイプではないでしょ、先輩は。対話よりも「強さ」を重視する人間でしょう」

「そんなパワータイプは現代社会では生存できねえよ」


 イコはそう言ってから「んー?」と考える仕草を見せる。


「私のは「生物図鑑」だそうです。……んー、なんかよく分からないですけど、白紙の本とペンを取り出せて、生き物について書いたら召喚と使役が出来る……ということです」


 イコの説明を聞いたセイドウは首を傾げる。


「ん? 試してねえの?」

「ああ、俺の翻訳は試すというか、効果があることは確認したが……昨日はスキルとかにはあまり関心が湧いていなかったな。女神からの説明も適当だったし。セイドウは試したのか?」

「ああ、剣を持つだけだしな。もしものことを考えて持続時間は試していないけどな。かなり力が強くなったし速く動けたな」


 はー、便利そうだな。剣を持たないとダメという都合、片手が塞がるため用途は限られそうだが。


「それにしても、硬くて細い糸を出すのと身体能力が上がる……。こう、すごくシンプルで強そうだな……。俺の翻訳とか、イコのよく分からないやつとかに比べて使い勝手が良さそうだ」

「そこら辺は担当の神に左右されるんじゃないか? 俺のところのは力の神とかで分かりやすい感じだった」


 ……俺とイコの神は愛と安寧とインターネットの女神だもんな。そりゃあ力の神の方が強いよな。こっちはインターネットだもんな。


「まぁ、話はこれぐらいにしておいて、先に飯食って寝てこいよ」

「ん、ああ……寝るのはもう少し後にするけど食料はもらうか」


 セイドウと一路をお菓子とダンボールの置いてある部屋に案内すると、セイドウはポテトチップスを一袋一瞬で平らげてから「ふー」っと息を吐いてイコと一路を一瞥する。


「……アカガネ、ちょっといいか?」


 セイドウの言葉を聞いたイコは俺に付いてこようとして、セイドウは一路の方を指差してイコを止める。


「森の中を歩いてきたから、虫刺されやヒルがないかを確認してやってくれ。俺とアカガネはいない方がいいだろ?」


 イコは俺の方に目をやり、俺が小さく頷くととてとてと一路の方に向かい、俺とセイドウのふたりで外に出る。


 俺の前を歩くセイドウの背中に声をかける。


「わざわざ俺ひとりを呼んでどうしたんだ?」

「あー、辺りを見渡せる場所とかないか?」

「ベランダ……いや、テラス? まぁなんか、そういう場所ならあったが」

「そこに行ってからにしよう」


 大袈裟だな、いったい何なんだと思いながら案内すると、セイドウは景色を一望したあとに俺の方を値踏みする様に見つめる。


「あまりのんびりと過ごす時間もないからな。単刀直入に言うが……あまり、誤解をしないでほしい」

「はぁ……なんか大仰な入りだな」


 わざわざ一人呼び出してから「誤解するな」という言葉は何を言い出すにせよ大袈裟なものだろう。

 俺が少し笑って返すと、セイドウは至って真剣な表情を俺へと向けていた。


「……クラスの連中を見捨てろ」

「……は?」


 思いがけない言葉を聞き、思わず目を開いてセイドウを見返す。


「最初に会えたのがお前でよかった。これから考えられるおおよその方向性としてはこの森に留まるか、あるいは出て行って人里を探すことだが……どちらにせよ足手まといがいれば危険性が跳ね上がる」

「いや、それ……誤解するなも何も……まんま見捨てろって言ってないか?」

「誤解するなって言ってるのは別だ。俺も一人で生きていけるとは思っていないが、仲間にするやつが誰でもいいと思っているわけではない」


 いやそれ……言い訳っぽい言い方だけど余計に悪化してないか?

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