第14話 偽られた光芒(2)
「ちょっと待て。様子がおかしい」
明人は立ち止まり、前方の朽ちた廃墟を凝視した。
「あるはずの防壁がない」
明人の緊迫した声で、健次たちも足を止めた。健次はその場で耳を澄ませ、周囲を警戒した。先程まで吹き荒れていた風もいつの間にか収まり、張り詰めた静寂に覆われている。陽光が雲に遮られ、辺りは急に薄暗くなった。明人はしゃがみ込み、地面の様子を入念に観察した。灰茶の土壌のあちこちから背の低い雑草が顔を覗かせているが、足跡のような痕跡は見当たらない。
「ミカ」
「はい」
明人の指示によりミカは”探索”を展開した。目を閉じ、周囲に意識を馴染ませてゆく。脳裏にモノクロの地形が細かい起伏に至るまで精密に投影され、研ぎ澄まされたミカの意識は魔力の痕跡を隅々まで探し回った。
「辺りに人影はないようです。……ですが支部からも、人の気配を感じません」
「分かった」
明人は頷くと、立ち上がり健次たちの方を向いた。
「支部に何らかの問題が発生したと考えるのが普通だろう。まだ何の報告も来ていないということはここ二、三日の間の出来事に違いない。慎重に様子を確かめよう。俺と雅也は外で見張りをする。残り四人で中の様子を確かめてきてほしい」
「明人さん、引き返した方がいいのでは?先に本部に報告した方がいいと思います」
綾子が不安そうに訴えると、ミカも頷いた。
「危険すぎます。私たちの最優先事項は健次君の護衛なんですよ?」
「お前らなぁ、ビビってんのか。笑えるぜ」
雅也は綾子の方に一瞬目を向け、冷ややかに笑った。綾子は雅也の危機感の欠如に怒りを露わにし、
「雅也は護衛班としての自覚がなさすぎ!そんなんじゃすぐに死ぬよ!」
と気色ばんだ。雅也は綾子の突然の怒りに一瞬気圧されたが、すぐに持ち直して、
「なんだと」
と凄み、綾子を睨み返した。二人は睨み合ったまま微動だにしない。見兼ねた風太は
「まあまあ、落ち着いて」
と二人の間に割って入りつつ、明人の方に向き直った。
「ですが、明人さん。本当に行くんですか?」
「ああ。支部にトラブルが起こった以上、早急に原因を究明しないといけない。ここで引き返すと、本部も危険に晒してしまうかもしれない。何よりここでは俺がリーダーだ。従ってほしい」
明人の瞳には爛々と燃え盛る決意の炎が宿り、有無を言わせぬ意志の強さに健次たちははっと息を呑んだ。
「……分かりました」
綾子は渋々了承し、雅也から視線を逸らした。
「何か異変があれば伝えます」
「もし危険を感じたら健次を連れて安全な場所に避難しろ」
「了解です」
風太はそう返事をすると、先頭に立ち扉の前で合言葉を唱えた。空き缶の底の抜ける音が虚しく響き、扉はギイギイと不快な悲鳴を上げながら奥へと開いた。
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