第13話 偽られた光芒(1)

 ミカに連れられ第二結界付近へと飛翔してから四日。完全に回復した健次は護衛班と共に盤孤青潮支部へと向かっていた。班のメンバーはリーダーの國廣明人を中心として、境井風太、橘雅也、小林綾子、沓見ミカ、健次の六名であった。一行は啓正区中心部とは反対の南へと進んでいく。初めのうちは密集していた建物群も次第にまばらになり、気が付けば一行は緑の茂る森林地帯へと足を踏み入れていた。雄風が森を突き抜け、それに呼応するかのように木々がざわめく。健次は急ぎ足に過ぎゆく雲影を眺めながら、


「支部へ行って何をするんですか」


 と尋ねた。前方を歩いていた雅也は鋭い目つきで振り返った。


「お前の挨拶だよ。俺も詳しくは知らねえが、どうやら支部の連中は疑い深くて、お前の顔を直に見ないと信用しないって言い張ってるらしい。馬鹿げた話だ、ホントに」


「雅也、そんな言い方はないんじゃないか」


 風太が雅也を即座にたしなめた。


「それにしてもよ、どうしてこいつに五人も警護がつかなきゃいけないんだ。俺は忙しいんだぜ」


 愚痴をこぼす雅也に対しリーダーの明人は、呆れた表情を浮かべた。


「さっきも言ったじゃないか。彼は俺たちの最後の希望なんだ。……本当は五人でも少ないくらいだ」


「健次君、気にしないでね。雅也もそんなこと言ってるけど仲間想いなところもあるから」


 ミカが言葉を繋いだ。雅也は不満そうに横を向いてまた何かブツブツと呟き、見かねた綾子が雅也の背中を叩いた。振り返る雅也と、雅也に何かを言う綾子とミカ。明人がそこに割って入り、笑いが起こる。健次はその様子を見ているうちに、自分が彼らとずっと前から知り合っていたかのような錯覚に陥った。学校からの帰り道に友人たちと歓談した時の光景が脳裏に蘇り、今目の前で和気藹々と話すミカたちと折り重なる。ふと聞こえてくる懐かしいあの口調。


 〈お前が残っていればそこからまた始められるだろ?〉


 ──幸太朗?


 健次は背後を振り返る。しかしそこには誰もいない。自分たちが辿ってきた足跡さえもすでに落ち葉の山に溶け込むように消えつつあった。



「そこの分岐を右に曲がると到着です」


 少し前方を歩いていた綾子が報告する。雅也はそれを聞いて大きく息を吐き出した。


「ようやく到着か。長かったぜ。移動魔法使えば一瞬なんだがな」


 風太も小さく頷き、


「こればかりは仕方ない。魔法を使えば監視網にかかってしまうからね。いずれにせよトラブルがなくて良かった」


 と安堵の表情を浮かべた。

 一行が薄暗い分岐を右に曲がると、その先に三階建ての屋敷が見えてきた。古風な屋敷は密生した樹林によって周囲からは隠されており、外壁には縦横無尽に蔦が這い繁っている。よく見ると柱の至る所で腐蝕が進み、今にも倒壊しそうな有様であった。ミカは草木と土の入り交じった清爽な香りを目一杯吸い込んでから、感慨深そうに呟いた。


「この感じ、久し振りだな」

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