第9話 届かぬ願望
意識を失った健次が医務室へと運び込まれた後、
「遂にこの時が来た。彼は間違いなく"龍の子" だよ。僕が今までに感じたことがない魔力の質感だった。彼自身の魔力に、全く異質な魔力が混入していた。何処か懐かしさすら感じさせるような魔力が。まだ意識的に力を抑えているようだったけど、それでも彼の魔力量は僕や剛田を遙かに凌駕していると思う」
盤孤最古参の一人である
「スバルさんが言うならそうなのかもしれない。ただ、彼が回し者である可能性もまだ否定できたわけではない」
明人は大和の方を向いた。「大和はどう思う?」
大和は音の広がりを確かめようとするかのように机を二、三回コツコツと人差し指で叩くと、ゆっくりと口を開いた。
「半年前の革命が失敗に終わり、五つあった部隊も今や俺たちの部隊だけになってしまった。監視の目も以前より厳しくなっている。俺たちに残された時間は多くない」
大和はそう言うと周りを見渡した。皆押し黙ったまま大和の次の言葉を待っている。
「……もし彼が政府の差し金であったのなら、ミカが彼を本部に連れてきた時点でもう手遅れだ。俺たちはもう、彼に懸ける以外に道はない」
鋭い緊張が会議室に走る。誰かが唾を飲み込む音。剛田は自身に課せられた重圧を押し返すように重い腰を挙げ、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「そうだな。俺もそう思う。この千載一遇の機会を逃せばもう次はない──今こそあの計画を始動する時だ」
剛田の図太い声が反響する。
「とりあえず健次の護衛班を編成する必要がある。うちの連中の中でも精鋭中の精鋭を選ばなくてはな。明人、リーダーは任せるぞ」
明人は神妙な面持ちで頷いた。
「了解」
大和は漠然とした嫌な予感を感じ取ったが、それを振り払うように明人に声を掛けた。
「明人さん、頼みますよ」
二時間に渡った会議が終了し、一旦自分の部屋に戻ろうとした明人は、背後から同じく会議に出席していた境井風太に呼び止められた。
「私を護衛班に連れて行って下さい」風太は明人の前で深々と頭を下げた。
「どうした風太。何か理由でもあるのか」
「それは」風太は言葉を詰まらせる。「危険な任務になるとは分かっているのですが……私なら明人さんの力になれると思ったので……」
風太は目線を下に逸らす。明人はその様子から何かを感じ取ったのか、表情を緩めて風太の背中を叩いた。
「意地悪な質問だったか。何にせよ風太は連れて行くつもりだったから安心して良い。風太がいれば任務もこなしやすくなる」
「ありがとうございます!」
明人と風太が連れ立って会議室を去っていく。その様子を見ながら、大和は机の上で一人考えていた。
──百年前とは訳が違う。あの時は何も準備ができていなかった。だが今回は、スバルさんや明人さん、慧、乾を初めとした主力級が残っている。そして最後のピースとなる“龍の子”。この戦力が揃えば、今度こそ本当に変えることが出来るはずだ。……だがなんだろう、この身の竦むような悪い予感は。何かが間違っているとでもいうのだろうか。
「大和、聞いてるか」
大和は剛田の声で我に返った。大和の額を冷や汗が伝っていく。
「他の同志との連絡はどうする」
「ああ、そうでしたね。
剛田は軽く頷いた。
「それについては任せる」
「忙しくなりそうだね。これから」窓際に腰掛けていたスバルが外の紅葉に染まる山道を眺めながら独り言のように呟いた。その眺望も魔法で象られた幻影でしかなかったが、スバルは考え事をする際、この場所から
「ああ、これから」
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