第6話 百年ぶりの帰還(1)
二人は人目を避けながら更に移動し、ある木造の小屋の前で足を止めた。狭い路地の奥に粗雑に建てられた、三人分の肩幅ほどしかない掘っ立て小屋。辺りには微かな黴の匂いが立ちこめている。ミカは小さく息を吸うと、小屋に向かって何かを呟いた。扉の奥からカコン、と乾いた音がし、扉は勢いよく手前に開いた。
「ここが私たちのアジト本部よ」
健次がミカの後ろから恐る恐るアジトの中へ入ると、そこには外観からは想像もつかないような広々とした玄関が広がっており、高級そうな紅の絨毯がまっすぐ奥まで続いていた。内装の煌びやかさに呆気にとられる健次を見て、ミカは自慢げに頷いた。
「驚いた?魔法で空間を拡張してるの。結構手間がかかったんだよ。ちなみにこの絨毯は私の発案。空き部屋は沢山あるから、後でそこに案内するね。それと──」
ミカは不意に口を閉じ、前方を見つめた。廊下の奥から数人がこちらへ向かってくる。その真ん中にいた恰幅のよい男が歩きながら口を開いた。
「おうミカ!任務お疲れ様。無事に帰ってきてくれてよかった」
「剛田隊長!お久しぶりです!」
ミカは笑顔になり、剛田と呼ばれた男の方へ駆け寄るとすぐに先程の出来事を説明した。剛田はミカの話を聞きながら健次に意味ありげな視線を送っていたが、不意に低い声で健次に話しかけた。
「健次よ。君は本当にあの神龍町から来たのか?」
「はい」
「……そうか」
剛田の目に一瞬光が走る。「どうだった?あの場所は」
健次はその問いにすぐには答えることが出来なかった。何を言おうか逡巡していると、剛田は制止するかのように手を前にかざした。
「ああ、すまない。立ち入ったことを聞くつもりはなかったんだ。とりあえず、歓迎するよ」
「僕を疑ったりはしないんですか」
剛田は自信のこもった瞳で健次を見つめた。
「ミカが認めるのであれば、疑う理由などない。ミカは、人の悪意を敏感に感じ取れるからな」
健次はその後長い廊下の突き当たりにある広いロビーへと通された。ロビーは多くの人で賑わっており、笑いながら立ち話をする者や、一人で静かに本を読んでいる者など様々であった。健次は勧められるがまま中央の上等なソファに腰掛けた。向かい側のソファには剛田と背の低い小柄な男が座った。
「皆、集まってきてくれ」
剛田の図太い号令を合図に、健次たちを取り囲むように人が集まってきた。皆物珍しそうに健次の方に視線を向けている。健次は緊張で顔を強張らせた。ミカは健次の緊張を感じ取り、真後ろからそっと、
「大丈夫。皆優しい人たちだから」
と声をかけた。ミカの甘い香りが後ろから漂ってくる。
「うん。ありがとう」
剛田は力強い視線を二人に向け、少し微笑んだ。
「健次、改めて自己紹介しておこう。俺は”
「隊長、雑な冗談は止めて下さい。彼がそのまま信じたらどうするんですか」
大和は、眉を
「がはははは。いやいや、強ち間違いでもないと思うがな」
剛田は一人でひとしきり笑い、満足したように何度か頷いた後、急に真剣な顔つきとなった。
「さて、と。先程ミカから少し話を聞いたが、我々は健次のことをよく知らないんだ。君も色々聞きたいことはあるかもしれないが、まず我々の質問答えてくれ。君は一体、何者なんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます