第17話 ルパ子の予告動画は大好評


 だいたいの準備を終えた波留は自分の部屋にもどり、お風呂に入って寝ることにした。きっと明日は朝から秋菜が大騒ぎだなと考えていたが、すこし甘かった。

 部屋の電気を消して、いままさに寝ようという時、スマホがブーブー振動して、メッセージの着信を告げてきた。


『波留、大変! ルパ子の予告状が公開されてるよ! とにかくこれを見て!』

 文字からも興奮がつたわる文章。その下にネットのアドレスが貼り付けられていた。


「はいはい、わかってますよ。わたしが出したんだから」

 とつぶやいて、波留は目を閉じた。今日はもう遅いから寝るのだ。

 ルパ子の話はまた明日、学校でね、秋菜。



 翌朝、教室に入ると、待ち構えていた秋菜が駆けてきて波留の腕をつかんだ。


「ねえねえ、見た? 動画!」

 秋菜の背後からは、さすがにちょっと驚いたような顔の明智亮馬もついてきている。なぜかいつもの不機嫌な様子ではない。


「うん、見たけど。あれって本物なの?」

「本物だよ。ルパ子の仮面のおでこのところに付けているキラキラ光る石あるでしょ。あれってダイヤモンドで、映像でも光り方がちがうから簡単に検証できるらしいよ。あの大きさだと、あのダイヤ、時価五百万円以上するらしいよ」

「ええっ、時価五百万円!」


 波留の方が驚いた。ルパ子のマスクは、おじいちゃんが作ってくれたものなのだが、宝石は最初からついていた。てっきりただの飾りだと思ってよく見なかったが、どうやら本物だったらしい。……いま初めて知った。


「偽物がわざわざ五百万円のダイヤ買ったりしないっしょ。だから、あれ、本物だって、ファンサイトのみんなも興奮してた。今までルパ子の姿って、逃げるところを撮影された物ばかりだったから、本人からの動画が送られてくるなんて、凄いことなんだよ」


「やることが大胆だよな」

 さすがの明智亮馬も感心している。

「マスクをしているとはいえ、素顔をさらしているのだから」


(素顔じゃやないけどね)

 波留は心の中で苦笑する。

 おじいちゃんの怪盗術には当然、変装術も含まれる。ラバーでつくった偽物の顔をかぶって、別の顔になるのだ。これは作り方のコつさえつかめば、本当に素顔と見分けられないものが作れる。

 動画のルパ子は、この偽物の顔の上にいつものマスクをつけているのだ。


(本物はもっと美少女だから!)

 心の中で宣言して、波留はにやにやと笑う。


「つまり、あれは本物のアルセーヌ・ルパ子で間違いないってことだな」

 亮馬があごに拳をあてる。

「とすると、ここで語られている内容も、真実ということなのか?」

 亮馬は手にしたスマホで動画を再生しはじめた。


 動画の中でルパ子は、まず犯罪組織『シャドー』について語りはじめる。

「悪い人たちがいるみたいですね。世界的犯罪組織『シャドー』!」

 びしりと画面の向こうから指さすルパ子。


 動画の中のルパ子は『シャドー』の悪事について簡単に説明し、奴らが豪華客船『クイーン・クリスタル』号を密輸に使っていることと、ルパ子をつかまえるために偽物の人工ルビー『スーパー・ノヴァ』をわざと展示し、ルパ子がそれを盗みにくるよう罠を仕掛けていることを告げた。


「わたしはそんな偽物の宝石に興味はありませんね」

 画面の中であっかんべーをするルパ子。

「ですが、悪いことをしている大人たちをこらしめる意味で、あえてその偽物のルビーを盗んで差し上げます。そして、『シャドー』の悪事を白日の下にさらして差し上げましょう」

 ルパ子が腰に手を当てて、うんうんとうなずく。

 そして、びしりと指さし、決め台詞のひと言。

「アルセーヌ・ルパ子に盗めないものは、ないっ!」


 その動画を横からのぞいていた秋菜が、半分泣きしながら両手を握りしめる。

「かっこいいー!」


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