第15話 犯罪組織『シャドー』
「ああ、そのことか」
学校から帰って、さっそく金田一の部屋にいった波留は、いつもどおりパソコンの前で背中を丸めている金田一に問いかけたら、そういう返答だった。
「たしかに、ネットの噂でルパ子がつぎに狙うのは『スーパー・ノヴァ』と話題になっていて、みんなの期待に応える意味で、あのルビーを狙うことを波留に提案したんだ。でも……、ちょっと変なんだよな」
「変? なにが?」
「なにかがおかしい」
金田一はパソコン画面の前で腕組みした。
「前回は、ぼくらが予告状を送ったことで、宝石店『シャイン・ドリーム』の方でそれを宣伝に使った。今回もこの『スーパー・ノヴァ』の展示を宣伝する目的で、船会社側がわざと噂を流したのかな?と思ったんだけど、どうもちがうらしい。それで、検索エンジンにひっかからない犯罪専門の闇サイトをいくつか覗いてみたんだが、面白い情報を手に入れたんだ」
「ほお、さすが金田一だね。で、その情報とは?」
「うん。世界的犯罪集団『シャドー』ってのがあるんだけど、そいつらがルパ子を狙っているらいしんだ」
「あたしを狙う?」
「ほら、以前ルパ子が現金を盗んで壊滅させた振り込め詐欺のグループがあるだろ。あれがそもそも『シャドー』の下部組織だったんだ。それでさらに、宝石店『シャイン・ドリーム』、あれも『シャドー』の経営する店なのさ。つまり、盗んだ宝石を売りさばくのに使っているダミー店舗だ。『シャイン・ドリーム』という名前も『シャドー』から取っているらしい」
「ふーん。それじゃあ、あたしはずいぶんその『シャドー』って組織から恨みを買っているみたいね」
「そうなるね」
金田一は振り返り、にやりと笑う。
「で、この『クイーン・クリスタル』号さ。この船も、どうやら『シャドー』の息のかかった船みたいでさ。噂では『シャドー』が密輸や麻薬の取引につかっているらしいんだ。つまり、これは罠だね。この『クイーン・クリスタル』号にルパ子をおびき寄せようという『シャドー』の作戦だ。今回の伝説のルビー『スーパー・ノヴァ』は、無視した方が良さそうだよ」
「いいえ、盗むわ」
ルパ子は不敵な笑顔でいいきった。
「今回も盗む。罠だろうがなんだろうが、そんなものを恐れて逃げ出すなんて、怪盗として──」
そこで波留と金田一の声が重なった。
「華麗じゃない!」
二人は目を合わせて笑い転げる。
「そうでしょ、金田一」
「たしかに。波留ならそういうと思ってたよ」
「そうか、そのシャドーって犯罪組織が、あたしのことを狙っているわけか」
「詐欺集団を壊滅させられ、『血と涙』も盗まれた。『シャドー』にしてみれば、ルパ子に恨み骨髄といったところかな。そこで、この豪華客船『クイーン・クリスタル』号というステージに、伝説のルビー『スーパー・ノヴァ』というエサを仕掛けて、アルセーヌ・ルパ子を捕らえようとしているわけだ。ひとつ言っておくけど、万が一『シャドー』に捕まったら、命はないと思った方がいいよ。それでもやるの? 波留にとって、怪盗とは命を懸けてでもやるほどのものなの?」
「ルパ子の怪盗術は、先祖伝来、おじいちゃんとそのご先祖様たちが現代まで伝えて来たもの。もしわたしが、怪盗をやめたら、それは永遠に失われてしまう。わたしはおじいちゃんから伝えられたこの怪盗術を守りたいの。そして、だれかに受け継いでもらいたい。だから、怪盗を続ける。わたし自身の怪盗術を磨くためにもね。犯罪集団が怖くて、怪盗が務まるもんですか。だって、わたしはいつも、たった一人で盗みを働いているんだから。集団で悪さしている小悪党なんかには絶対に負けない」
「ま、ぼくも手伝ってるけどね」
「あんた、学校にも行かずに家で暇してるんだから、それくらい手伝って当然よ」
波留は金田一の頭をぱこっと叩いてこの話を終わりにした。
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