第14話 海の上のお宝


 翌朝、波留が学校に行くと、すでに教室では秋菜と亮馬が論争していた。


「ルパ子なら、ぜったいに盗むわ」

「いや、無理だね。今回は警備が厳しい」

「でも、前回だってぜったい無理な状況で、見事にダルーレの指輪を盗んだじゃない。あのときだって明智くんはぜったいに無理だって言ってたよね」

「それは……そうだけど。でも、今回は無理だ。こんどは警察がきちんと警備するはずだし、それに船の上じゃないか。盗んだとしても、逃げようがない」

「なに言ってるのよ。船の上だから逃げやすいんじゃない。周りじゅう海だから、飛びこめばいいのよ」


(なんであたしが、海に飛び込むことになっているのよ……)


 心の中でぼやきつつ、波留は秋菜のとなりに立った。

「なんの話? またルパ子?」

「そうよ」

 秋菜がぱっと顔を輝かせる。きっと味方がきたと思って喜んでいるのだ。

 が、味方がきたと喜んでいるのは秋菜だけではない。明智亮馬もぱっと表情を明るくし、嬉しそうに波留に話しかける。


「今回アルセーヌ・ルパ子は、豪華客船『クイーン・クリスタル』号に展示されている伝説のルビー『スーパー・ノヴァ』を狙っているらしいんだが、さすがにあれは盗めないと思うんだよ。万が一盗めたとしても、現場げんじょうは船の上。逃げ出すのは不可能だ。篠宮は海に飛び込めばいいといっているが、現実問題として警察に協力する海上保安庁の巡視艇に追われたら、泳いで逃げ切るなんてぜったい無理さ」


「まあ、……そうね」

 波留は冷静に考える。

(そう。たしかに海に飛びこんで逃げるのは難しい。不可能に近い。でも待って、その前に……)


「ねえ、ところで、なんでアルセーヌ・ルパ子が伝説のルビー『スーパー・マーケット』を盗むって話になっているの?」

(わたしまだ、予告状も出してないんだけど)


「波留。『スーパー・マーケット』じゃなくて、『スーパー・ノヴァ』ね」

 秋菜に訂正された。

「有瀬さん、超新星って意味の、『スーパー・ノヴァ』だよ」

 亮馬も笑いをこらえている。


「ごめんなさい」

 波留はじぶんの顔がぱっと赤くなるのを感じた。頬が熱い。

 かっこ悪い。こんなことじゃだめだ。もっとクールじゃないと。

 そう、自分に言い聞かせる。


「でも、そういう有瀬さんのおちゃめなところも、素敵だよ」

 ちょっと赤い顔で亮馬がフォローしてくれる。彼って、たまに優しいよね。


 波留はコホンとせき払いすると、話をもどした。

「で、なんでルパ子がその『スーパー・ノヴァ』を狙うっていう話になっているのよ?」

「もう、やだなぁ」

 秋菜が笑いながら波留の肩をどんと叩く。

「先週からその話題で盛り上がってるじゃない」

「え? 誰が?」

 たしか、『スーパー・ノヴァ』の話を金田一から聞いたのは、きのうの夜のことだけど……。


「決まってるじゃん。ネットでよ」

 秋菜が笑い、亮馬もうなずく。

「ルパ子の情報サイトでも話題になっていたし、ネットニュースでも流れていたよ。有瀬さんはそういうの興味ないだろうから、知らなかったかもしれないけれど」


(うげー、エゴサーチとか痛いからやらなかったけど、情報収集のためにはやっぱ必要かなー)


 でも、待って。

 このこと、金田一は知っていて、あえてわたしに『スーパー・ノヴァ』を盗ませようとしたのかな?

 まあ、みんなの期待に答えるのも、怪盗の仕事かも知れないけれど、噂に踊らされて動くのはどうなんだろう。

 怪盗として、それでいいのかな? これはほんとうに、「華麗である」のだろうか?


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