第13話 その男、コンドル


 国際刑事警察機構インターポールは、世界犯罪を防止する目的で各国の警察が協力して作った組織である。

 おもな仕事は、各国の警察の情報交換であるが、そのインターポールの内部には、じつは、秘密裏に超法規的措置で国際犯罪組織の壊滅をめざす特殊部隊が存在する。

 コードネーム『ウィングス』。それがインターポールの秘密組織の名前である。


 六月六日。『ウィングス』の秘密捜査官、暗号名コンドルは、羽田空港に到着した。キャリーケースをごろごろ転がして、なんだか混んでいる空港ロビーを歩き、エスカレーターを降りたり、歩く歩道を歩いたりして、彼はモノレールに乗り込む。


 めざすは品川の安いホテル。いちおうビジネスマンとして予約をとってある。彼の今回の任務は、豪華客船『クイーン・クリスタル』号の監視である。

 ちなみに、コンドルだが、彼はばりばりの日本人。金髪の外人などではない。コンドルという名前は、コードネームなのだ。ちなみに本名は秘密である。極秘事項にあたる。


 コンドルは、年齢的にはおっさんだが、背が高くスマートな体形。仕事上、格闘技などで身体を鍛えているせいで、全身の筋肉は引き締まっている。が、あまり強そうだと、潜入捜査のときに目立ってしまうので、鍛え過ぎは禁物だ。ほどほどが大事である。


 品川の安いホテルにチェックインした彼は、さっそく変装。いかにも日本人観光客といった洋服に着替え、首からカメラを下げて外出する。いちおう顔にはラバー製の変装マスクを被り、別人になりすます。彼が捜査中に素顔をさらすことは、ほとんどない。いや、絶対にないといっても過言ではない。ま、過去に一回くらいはあったろうが。

 彼の素顔に関しては、インターポールの同僚ですら知らない者が多い。それくらい彼は変装の名手であり、やることが徹底していた。


 コンドルは品川からJRで、『クイーン・クリスタル』号が停泊している横浜まで電車移動した。列車の吊革につかまりながら、彼はぼんやりと考える。


(やっぱ、横浜でホテルを予約した方が、便利だったかな……)


 今回インターポールがつかんだ情報によると、『クイーン・クリスタル』号は国際犯罪組織の所有する船であり、日本に寄港したのも、なにか大きな事件を起こすのが目的だという。彼はその情報を確かめるために、横浜に停泊中の『クイーン・クリスタル』号への潜入を計画していた。

 『クイーン・クリスタル』号は横浜に停泊中、その船内を一般に公開するらしい。入船料は千円。だれでも入れる。

 その企画にのっかって、コンドルは『クイーン・クリスタル』号の内部を調査するつもりでいた。


 横浜から、みなとみらいへ。そこから徒歩で大桟橋へ。

 巨大な城のように、桟橋に接弦して海に浮く豪華客船。その乗り込み口に立ったコンドルは、無言で立ち尽くした。

 そして、乗り込み口の看板を呆然と見つめる。


 ……船内の一般公開は、明日からだった。


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