第2話 吸血鬼ミレイ
「すまないが、少しの間、
「あ、えと、何かあったんですか?」
どう対応したら良いのか判らずに、ゼロ介はとりあえず、黒ドレスの少女に質問を返した。
「少し油断してな、ヤツらに『夜のトバリ』を奪われた」
「夜のトバリ?」
それにしても凄い。普通に少女との会話が成立している。これにはゼロ介も舌を巻くしかない。
「ああ、私の魔力の源でな。アレが無いと、私はまともに戦えない」
「戦う?」
「ああ。今は何とか
言いながら少女は、外の様子をチラリと伺った。
「すまないが、窓を閉めてもらえるか?」
「あ、はい」
言われてゼロ介は素直に従う。
「見てのとおり、私は人間とは少々異なる」
「まあ、そうですね」
そんなゼロ介の反応に、少女は驚いたような表情を見せた。
「怖くないのか?」
「あ、はい、まあ」
ゲームだしな。
「おかしなヤツだな、少年」
そう言って少女は、少し安堵の表情を浮かべた。
「それなら話は早い。私は吸血鬼ミレイ。夜の闇に紛れて悪事を働く魔物どもを、秘密裏に処理する魔物ハンターを
「おおおお!」
予想外にゲームらしいゲーム内容に、ゼロ介は興奮を抑え切れない。
「な、なんだ急に、大きな声を出して?」
「あ、いえ、すみません。続けてください」
ゼロ介は恥ずかしそうに、コホンとひとつ咳払いを入れた。
「まあ何だ、少しの間、
そこまで言ってミレイは、物珍しそうにマジマジとゼロ介の事を観察する。
「少年、お主、人間のくせに純度の高い魔力を秘めているな」
はい来ました、王道展開。
「そーですか? 自分では分かりませんが…」
「ああ、中々に優秀だぞ」
それからミレイは両腕を組むと、思案顔で両目を閉じた。
「外の様子を探りたい。すまないが少し、少年の魔力を使わせて貰えないだろうか?」
「え⁉︎ あ、でも、どーやって…?」
再び開いた金色の
「そこにあるのは魔道具だろう? それを使えば出来る筈だ」
ミレイの指差す先を視線で追いかけると、そこにあるのは自分のスマホ。
ああナルホド、そう言うことか。
ゼロ介はスマホを手に取り画面を確認する。すると画面の中央に、[画面をタップしてください]のメッセージと、指のマークがピコピコしていた。
「これが、少年の魔力か…」
ゼロ介が画面をタップすると同時に、ミレイの全身が淡い光に包まれる。
「素晴らしいぞ、少年。これなら、いけそうだ」
ミレイは再び両目を閉じると、すっと静かに集中を始めた。
「近くに低級魔物が二体。どうやら捜索隊だけを残して、大半の魔物は移動したようだ」
今がチャンス…なんだがな。
ボソリと呟いたミレイの声を、ゼロ介は聞き逃さなかった。
「良かったら、手伝いますよ」
「ん?」
ゼロ介の声に、ミレイはパッと両目を開く。
「だから、手伝いますよ」
「手伝うって、まさか戦闘に参加するつもりか⁉︎」
「だって、俺の魔力が必要なんですよね?」
「まあその通りなんだが…、しかし危険だぞ!」
「大丈夫、何とかなります」
ゲームなんだし。
「覚悟は変わらないか…。ならば少年、名前を教えて貰えるか?」
「えっと、ゼロ介です」
「では、ゼロ介。今から私たちはバディだ。私のことはミレイと呼ぶが良い」
「はい、ミレイさん」
見た目とは裏腹な喋り口調のミレイに、思わずさん付けしてしまうゼロ介だった。
〜〜〜
表で待つと窓から躍り出たミレイを見届けて、さてととゼロ介は一息ついた。
現在の時刻は夜の10時前、今から外に出ると伝えて両親は許してくれるだろうか?
とは言え、こっそり外に出て後から見つかる方がもっとヤバい。ここは素直に懇願しに行く。
リビングの扉を開けると、ひとりで食卓に座ってテレビを観る、母ゼロ江の姿があった。
「あ、あのさ、母さん」
「あら、ゼロ介、何?」
しかしその時、眼鏡姿のゼロ介を見て、何かを察したような表情になる。
「あまり遅くならないようにね」
「……え⁉︎」
「外で用事があるんでしょう?」
「え、あ、うん」
「気を付けて、いってらっしゃい」
「あ、じゃあ、いってきます」
狐に摘まれたような顔でリビングを出て行くゼロ介の背中を見送って、母ゼロ江は自分のスマホを取り出した。
「ゼロ美が言うには、このアプリでゼロ介のゲームの状況が確認出来るのよね?」
こうした細かいケアも怠らない。これが天才少女発明家の、天才と呼ばれたる所以である。
〜〜〜
「怪我の功名と言うべきか、魔力のほとんどを失った私の位置を、ヤツらは上手く掴めないようだ」
夜の住宅街を歩きながら、ミレイは何とも言えない苦笑いを浮かべた。
「まあ最も、万全の私ならあんなヤツらなど瞬殺なんだがな」
「あ、でも、俺が渡した魔力のせいで、居場所がバレたりしませんか?」
「全く問題ない。あんな少量の魔力、索敵で既に使い切った」
「…え⁉︎ じゃあ、まさか?」
「中々鋭いじゃないか。その通り、今の私もヤツらの居場所は分からない。移動してなければ、この辺りの筈なんだがな」
そう言いながら、ミレイは近くの運動公園へと入っていく。
「あ、ちょっと待って」
そのとき、慌てて追いかけたゼロ介の視界に飛び込んできたのは、
「言ってるそばから、お出ましだ」
巨大なパンダと正面から向き合う、ミレイの小さな背中だった。
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