出会い

家から出た途端、待ち構えていたかのように寒さが肌を刺す。焦って冬服に変えたというのに、まるで役目を果たす気のない彼らに少しムッとしながらいつもの道を辿る。裸になって凍え枯れてしまいそうな木々を見ると、もう冬なんだと、そう再確認させられる。


学校に着くとすぐさま教室に入り、持ってきたカイロで暖をとる。その心地よさに身を委ねていると、視界の真横から突然声を掛けられる。「音山くん、これ家庭科室まで持っていってもらっていい?」目を背け、低く落ち着いた声でそう言った彼女は同じクラスの桜谷未月さんだ。係の仕事だろうか、きちんと順に並べられた資料の山が目に入る。 「同じ係なんだし、もちろんいいよ」

「ありがとう」

素っ気なくそういうと足早に自分の席へ戻っていく彼女を目で追いながら、自分も家庭科室へ向かう。 もう高校2年生の終わり間近だというのに何かと彼女のことを気になっている自分がいた。綺麗に伸びた背筋、長く薄茶色で毛先まで生命に溢れていそうな髪、そして時折見える暖かい微笑み、そのどれもが魅力的で気付けば彼女に惹かれていたのだ。だが、彼女と恋人になることは僕にとってほぼ不可能らしかった。

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向こう側の君に @yuyu2-2

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