第37話 セレブからクソ貧乏へ
その昔、私は「セレブ」と呼ばれていました。
優しくて愛情深い夫はエリートで、私はデカイマンションに住んで、デカイ車を与えられ、のんべんだらりと暮らしていました。そのうち夫が単身赴任をして、私は見知らぬ土地に一人で残されます。デカイマンションでデカイ車を乗りまわし、24時間フリー! お小遣いは使い放題! 毎日が夏休み! しかも宿題はナシ!!
朝目がさめたら「今日はエステに行こうかしら? それともお買い物に行こうかしら?」という日々が延々と続きます。一か月に一度帰ってくる夫は、毎回お土産をたくさん買ってきてくれる。盆や正月には私を旅行に連れ出して、寸暇を惜しんで楽しませてくれる。もちろん一人旅もOK! 「一人で淋しい思いをするくらいなら、好きなだけ遊んでおいで!」
この生活ですね、人から見れば羨ましいそうですけれど、確実に病みます。
何をしても自由、リスクはゼロ。この生活が一生続くのかと思うと、絶望を感じるようになりました。結果、離婚。
周囲からはメチャメチャ責められました。
「あんなに良い人なのに!」
「なんてワガママを!」
「恩を仇で返すとは!」
おっしゃる通りです。でも、私は耐えられなかった。
二度目の結婚は、たいてい上手くいかないものです。私も年を取っていますし、しかもバツ1。市場価値は下がる一方。叩き売りでもしないと、売れない。
周囲は言います。
「あんなに良い結婚は、もう不可能だから!」
「後は苦労するだけだよ!」
「贅沢に慣れたアンタが、泣きをみるのは明らかだから!」
私も、そう思う。結婚できたら、それだけでラッキーです。できたとしても、ロクなモンじゃないでしょう。仕方ない。後は独身で、一生を終えるか……。
意に反して二度目の結婚も、優しく愛情の溢れる夫でした。今度は、会社社長。デカイマンションに住んで、デカイ車を乗りまわし、のんべんだらりと暮らす日々です。朝目がさめたら「今日はエステに行こうかしら? それともお買い物に行こうかしら?」という日々が延々と続きます。えらく既視感のある生活だけど、どうしてかしら? こんなに素敵な毎日なのに、ケツの穴がモゾモゾするのはなぜなのかしら?
ちが~うっっ!! 私の求めている生活は、夫まかせの生活じゃな~い!!
私は自分の力で、生きてゆきたいんだあああああ!!
「は? バカじゃね? 市ね」
「なに寝言言ってんの? 寝言は寝てから言えば? ってか、市ね」
「アンタ、ホント、ムカつく。 市ね」
おっしゃる通りです。夫のおかげで何不自由ない生活を送っているのに、ワケのわからん自尊心を振りまわしている。でも、やっぱりイヤだ……。
というワケで、二度目の離婚。
自分の力で生活してみたら、クソ貧乏になりました。デカイマンション? ムリ!今は築50年を超えるボロアパートです。洗濯機は、ベランダ。冬に凍結すると、お洗濯ができなくなる。もちろんどの蛇口も、お湯は出ません。水オンリー! 冬に食器を洗っていると、冷たくて頭が痛くなる! 顔を洗うのは、拷問です。シャワーさえナイので、お風呂の準備だけで1時間かかります。
そしてコンセントが足りない! アパートのできた50年前は、クーラーもパソコンもなかった。今は、犯罪に近いタコ足配線をしています。食洗器にウォシュレット? ムリです。だってコンセントありませんから!
デカイ車? そもそも車なんて、ムリ! そんなお金ナイです! 周囲から「田舎の滋賀で、車がナイっ!? ありえない! しぬぞ!」と言われますが、ナイものはナイ!
インターネット? はああ!? (← 逆ギレ)。税金払うのに精いっぱいで、ネットなんかムリですよ! そんなお金、逆さに振っても出ませんから!
「おうちにインターネットは、ありません」と言うと、ビックリされますけれど、ナイものはナイ。
「作家してるんでしょ? どうやって原稿送ってるの!?」
主にスマホで。時間に余裕のある時は、郵送で。だってネット、ナイもん。
小説ならまだイイのですけれど、困るのはコミカライズやポスターといった画像データのやり取り。スマホで送受信できるデータは限度があるので、ものすごく困る。ものすごく困るけど、ナイものはナイ。
「ネットがなくて仕事逃がしたら、もったいナイでしょ!?」
もったいナイとは思うけど、ナイものはナイ。仕方ナイ。まさに悪循環。負のスパイラル。貧乏が貧乏を呼び込みます。
「それならNHKの受信料も、払ってないの?」
あなたは思うかもしれません。払っていません。そもそもうちに、テレビがありません。テレビもラジオも、新聞もありません。
でもね、幸せなんです。狭い部屋ですけど貧乏暮らしですけど、自分の力で何とかしてるのが、すごく幸せなんです。ボロいアパートですけど、私のお城! 世界で一番好きな場所です!!
いつか大儲けしたら、蛇口からお湯が出るようにしたい……。それが私の大きな野望です。ww
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