第14話 やっちまった?

 ご機嫌いかがでしょうか? 私は、やっちまった……かも、しれません。


 以前から試してみたかったことの一つに「羽布団の洗濯」があります。今日は雨が降らないという予報でしたので、試してみました。しかし、すでに雨が降っています……。


 雨は何とかなるとして、問題は羽布団のほうです。まずはプラスティックの引き出しにギュウギュウに詰め込んだ布団を出すことから始めました。ギュウギュウに詰め込んでいたので、なかなか出てきません。力まかせに引っ張ると、バキっ!と音がして、引き出しが割れてしまいました……。ショックです……。


 割れたものは直らないので、あきらめることにします。

洗濯機にいっぱい水を入れて、洗剤を入れた後に、羽布団を入れました。冬物のダブルサイズの布団です。ボワボワに膨らんだ布団を、ギュウギュウと洗濯槽に押し込みます。これ、入るの? 不安な気持ちで押し込むと、なんとか入りました。入ったのはいいけれど、布団は水を吸って膨らみ、洗濯槽にギチギチです。大丈夫か?


 羽布団のコースはないので「毛布洗いコース」を選びます。スタートボタンをポチっと押す。後は出来上がるのを待つだけ。ところが洗濯機は動きません。いつもなら軽快に回る音がするのに、じっと黙ったままです。重すぎて、動けない? なんどかやり直してみましたけれど、うんともすんとも言わない。怒った? ねぇ、デカすぎる羽布団を入れられて、怒ってる? ねぇ、何とか言ってよ。倦怠期のカップルみたいな会話を試みますが、洗濯機は黙っています。私のこと、キライになった?


 毛布洗いコースは動かないことがわかったので、通常コースにしてみます。スタートボタンを押しても、うんともすんとも……。これ、洗濯機で洗えなかったら、私はどうしたらいいのでしょう? ビチョビチョの布団をベランダからお風呂場まで運んだら、畳がエライことになります。そしてお風呂場に運んでも、自分で手洗いできるとは思えません。頑張って洗えたとしても、脱水はムリ……。ビチョビチョの布団を干す場所なんてナイし、乾くのに何日かかるか……。私、やっちまったのか?


……と考えているうちにメンドクサクなったので、現実逃避です。新しいお話を書きます。

あ! 洗濯機が動きだした! お洗濯ができるかも!?


 楽しいお話をお届けしますと銘打ったこのシリーズですけれど、笑えるお話はさほど書いていません。なんだかビミョ~な読後感になると思うのですけれど、あきらめてください(← 開き直った)。

 今日は、ずっと前から書きたかったお話です。これは、怖いお話になるのかなぁ? 私はめちゃめちゃ怖かったのですけれど、あなたは平気かもしれません。幽霊とかは出ませんので、そこはご安心を。


 昔から「知り合いの〇〇さんに似ている」と、よく言われます。中肉中背でタラコ唇がインパクト大の顔なので、タラコ唇でさえあれば誰でも「似てる」と言えます。

小さなころから「親戚の〇〇ちゃんに似てる」 「近所の〇〇に似てる」と言われ続けてきたので、驚きはありません。実際に会ってみると「ぜんぜん似てない」と思います。自分に似ていると思ったことは、一度もありません。相手も「似てる」と言う以上、私と誰かが別人なのは明確に把握しているのですから、とくに問題もありません。私が「そうかなぁ? 似てるかなぁ?」と答えれば、まったく問題のない話です。

 

 ちょっと風向きが変わってきたのは、高校生の頃でした。「昨日、折尾駅にいたよね?」 「日曜日に、黒崎で買い物してたよね?」などと、身に覚えのないことを言われるようになりました。いくら私がうっかり屋さんでも、それくらいの記憶はあります。「折尾駅には、いってない」「日曜日はずっと家にいた」と答えても「どうしてウソをつく?」と言われます。だから! それ、私じゃないってば! よほど私に似た人がいるのでしょう。そうこう言っているうちに時は流れ、私は結婚して故郷を離れました。私と似ている人とも、お別れです。


 知らない土地で結婚して、それなりにお友達もできた頃、また「〇〇にいたよね?」と言われるようになりました。聞かれる回数がどんどん増えてゆき、ついには「今、〇〇であなたを見たけど、今どこにいる?」と、確認の電話が掛かってくるようになりました。「家です。家にいます。それは、私ではありません」。

 見かけた方たちが口を揃えて言うのは「声を掛けたのに、無視された。追いかけたが、姿は見えなくなっていた」です。そりゃあ私じゃないのですから、私の名前を呼ばれても、無視するでしょう。その頃は都会に住んでいたので、追いかけても人込みに紛れて見失う可能性は大です。とにかくそれ、私じゃありませんから!


 そんなことが続いたある日、私は知人と二人で歩いていました。静かな住宅街を歩いて角を曲がると、知人が「ひっ!」と悲鳴をあげました。すぐ目の前に、私の後ろ姿が見えたのです。その私は、のんびりと前を歩いています。着ている服も髪型もちがいますが、背格好は私そのもの。何より自分で「私がいる!」と感じました。めっちゃ気持ち悪いし、めっちゃ怖い! 知人と私は、無言で顔を見合わせました。怖い。でも、確かめないと! その私は前をのんびり歩いていますから、追い越しざまに顔を見ればいいだけです。すごく簡単。すぐに解決。なんならお友達になって、みんなに「私のソックリさんが見つかった!」と、引き合わせてみるのも楽しいでしょう。そうすればお友達も、私がウソをついてなかったと納得してくれる! 


 私は歩調を速めました。距離が、どんどん近くなります。その私は、私とそっくりな歩き方です。腕の振り方も、足を少し引きずる感じも同じ。背中も肩のラインも、よくよく知っているラインです。必死で自分との違いを探そうとするのですけれど、違いが見つからない。距離は縮まります。髪の質感も、耳の形も私です。少し頭を傾げているのも、まったく同じ。怖い。違いが見つからない。私は彼女を睨みながら、追い越しにかかりました。顔さえ見れば、解決する!


 耳たぶに、小さなホクロがあります。一度開けたけれど塞がったピアスの穴も、はっきり見えます。鳥肌が止まりません。私と同じなのです。横に並ぶ直前、今まで見えなかった彼女の横顔が見えました。いつも鏡で見ている私の横顔が、そこにありました。頬骨、アゴのライン、肌の質感まで私です。無理でした。私はそこから一歩も進めなくなりました。何度か足を踏み出そうとしたのですけれど、どうしても足が出ませんでした。もしも彼女が私だったら、私の存在は消えてしまう。もう元の私には、戻れない。頭で考えたのでは、ありません。本能が私の歩みを止めました。

「絶対に、顔を見てはいけない」。私は一瞬で理解しました。


 知人に目で「私の代わりに、顔を見て」と頼みました。知人は目で「ムリムリムリ!」と答えました。知人も何かを感じたようです。断固として拒否されました。

その私は、私たちの葛藤を知ることもなく、のんびりと前を歩いてゆきました。私たちは別の道に飛び込んで、彼女から離れました。


この話に、今のところオチはありません。長生きすれば何か答えがわかる日が来るかもしれませんけれど……。


あ! お洗濯が完了したみたいです! 羽布団のようすを見てきます!

 

どうぞあなたが、こんな怖い目に遭いませんように! 良い一日を☆



















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