第13話 警察に連行はされていません(豆知識)。
おかげさまで昨夜は、警察は来ませんでした。通報されずに済みました。
(素っ裸で外に出たのは良くありませんけれど)何も悪いことはしていなくても、警察って聞くと動揺しませんか? 私は、めちゃめちゃ動揺します。どこかの誰かさんみたいに、覚〇剤とかしていないのに、めっちゃキンチョーします。
つい先日、アパートの敷地内でカードを拾いました。クレジットカードです。ゴールドの。いわゆる「ゴールドカード」。使用限度額が、とんでもなくデカイカード。
悪用されたら気の毒なので、カードの裏面に書いてる複数個所の電話番号に、電話をかけました。でも電話は、つながりません。どこも「ただいま電話が混雑しています。そのままお待ちください……」というアナウンスが流れます。業を煮やした私は、最寄りの警察署に電話をしました。アパートの敷地内(民有地)でクレジットカードを拾ったが、警察に届けてもよいか? わざわざ電話した理由は、法改正で民有地内の拾得物は、そこの管理者が対応しないといけない…とかいうウワサ(本当かどうか、よく知りません)を聞いたからです。
警察の回答は「あなたがアパートの管理者でないのなら、警察に届けてもよい」というものだったので、場合によっては警察が対応してくれないのかも…?
とりあえず警察署に出向き、会計課でカードを拾ったと告げました。対応してくれた女性は、おそらくパートタイムの方でしょう。物腰が優しく、とても親切です。優しくて親切なのは助かりますけれど、場所が警察署だけにキンチョーしてしまいます。ワルイことはしていないのに、胸がドキドキする。「ドキドキすると、怪しまれるから落ち着いて!」と思うと、さらにムネがドキドキする。ドキが、ムネムネします。
係りの方は「ここにお名前と、ご住所と、電話番号を書いてください」と、コピー用紙の裏紙利用のメモ用紙を出しました。私はドキがムネムネしていて、自分の住所を思い出せない始末です。ヤバイ。怪しまれる。そう思うと、さらにムネムネ、ドキドキします。
なんとか住所を書き終えると、女性は言いました。「預かり書を作成しますから、ちょっとお待ちくださいね」。預かり書が何かよくわかりませんけれど、わかりました。
ほっとしてベンチに腰を下ろします。ムネムネしていた時は気づきませんでしたが、すぐそばで運転免許更新のための、視力検査をしていました。係員は、お若い女性警察官。視力を測定しているのは、50代くらいのおじさんです。
女性警察官が「これはどこが開いているか、わかりますか?」と丁寧に尋ねると、おじさんはものすごく感じの悪い言い方で「知らん。わからん」と答えます。「これは?」 「だから、わからん言うてるやろ!」 逆ギレです。キレたら女性警察官が恐れをなして、合格にしてくれると考えているのでしょうか? おじさんは不貞腐れたようすで足をだらしなく投げ出して、イライラした顔をしています。「オレは忙しいんや! 早く終わらせてくれ!」 だ~か~ら~! てめぇがとっとと正しい答えを言えばいいんだよ! 見ている私までイライラします。めっちゃ感じ悪い!
私よりずっとお若い女性警察官は、おびえるでもなく、媚びるでもなく淡々と言いました。「これが見えないと、免許証をお渡しできません。今日はお帰りになりますか? 後日、もう一度検査にいらしてはどうでしょう?」 「言うてるやろ! オレは忙しいんや! また来るなんて、できひん!」 「それでは、免許証はお渡しできません」 「え……?」 「免許の再交付はできません」 「免許もらえんかったら、運転できひんやろ?」 「そうですね」 「………」 やっとおじさんは、視力測定の意味がわかったようです。「これ見えへんかったら、免許もらえへんの?」 「そうです」 うん。そのルールは、私でも知ってる。おじさん、知らなかったの?
おじさんはやっと、事の重大さが飲み込めたようです。やおら背筋をピンと伸ばすと、「もう一回! もう一回お願いします!」と言いました。警察官が「これは?」と訊くと「右です!」 「左です!」と、当てずっぽうに答えます。当てずっぽうではあるが、さっきより態度がよろしいのは、よろしいと思います。おじさん、頑張れ。そして冷静な態度の女性警察官に、幸あれ! 私はあなたを、尊敬します!心の中で拍手喝采を送っていると、私の名前を呼ばれました。そうだった!落とし物を届けに来たのだった!
係の方は一枚の用紙を出して、言いました。「これは、『拾得物件預かり書』です。印字されているお名前や住所に間違いがないか、ご確認願います」。はいはい。間違いありません。警察署長の印まで押してあって、立派な書類だと思います。私が書いたヘタクソな名前や住所も、ちゃんとワープロで印字されてあって、立派です。本格的な書類を見て、またドキがムネムネしてきました。
係の方は、続けます。
「二つ、質問があります。一つ目は、拾得された物件に対して、所有の権利をどうしますか?」
これは、知ってる。落とし主が現れない、なおかつ一定期間が過ぎた場合、拾ったゴールドカードを「コレは私のモノです!」と主張するか、しないか? 人様のカードを「コレは私のモノです!」と言っても、仕方がナイ。ゴールドカードの権利は、放棄します。
「わかりました。二つ目の質問です。あなたは警察署長が落とし主に対して、あなたの名前や住所を告げることに、同意しますか?しませんか?」
聞かれた私は、アタマが真っ白です。何を聞かれているか、わからない。
「ごごご、ごめんなさい。イミがよくワカリマセン。ナンデショウカ?」
動揺して、外国人みたいな口調になります。日本語、ムズカシイデス。係の方はニッコリ笑って、親切に教えてくれました。
「もし落とし主があなたにお礼を言いたい、お礼をしたいと言った場合、お名前や住所を教えてもよいですか?」
あ! そういうコトですか! 意味はわかりました! そして千載一遇のチャンスが来たことも、わかりました! 私、ずっと前から言いたかったセリフがあるのです! まさに、今がチャンス! 私は深呼吸をして、そのセリフを言いました。
「礼はいらぬ。名乗るほどの者ではござらぬ」
うわぁ~! わたし、カッコイイ~! お侍さまみたい~! いつか言ってみたかったのですよぉ~!
あんまり嬉しかったので、係員さんに言いました。
「コレ、一回言ってみたかったんですよ!」
係員さんは笑顔で「言えて、良かったですねぇ~!」と、一緒に喜んでくれました♪ 嬉しい~!
というやり取りを終えて、私はとても満足して帰ってきました。良いことをして、言いたかったセリフを言えて、すごく良い気分です☆ やっぱり、真面目に生きてゆこう! オレ、お疲れさまでした!
おうちに帰ってから、落ち着いて書類を見ました。すると、係員さんに聞かれなかった選択肢が書いてありました。
係員さんが聞いたのは「拾ったモノの権利はどうする? 名前などの個人情報は、どうする?」です。キンチョーしていた私はその場で一所懸命に考えてお答えしましたが、なんと!この二つについて「後で考えて決めることとしました」という選択肢がバッチリ書類に書いてありました! なんてこったい! その場で即答する必要はなかったんだ!
この選択肢が、滋賀県警だけのものか全国のものか、私は知りません。けれどあなたがもし何かモノを拾って警察に届けたら、「ゆっくり後で考えて決める」という選択肢があるかもしれない……ということを、頭の隅っこに置いておくのは、有用かもしれません。ほら、二千万円の宝石とか拾うかもしれないから……(笑)。
あ。二千万円の宝石を思い出したら、また悔しくなってきました! キイイ! くやしい!!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます