第12話 素っ裸。

 あなたは、裸で外に出たことがありますか? 私は、あります。

私はおぼえていないのですけれど、母がきっちりおぼえています。


 あれは私が3歳の12月。私たち家族は、冬の海を見に行ったそうです。

その日はとても風が強く、海は白波を立てて荒れ狂っていました。

母たちが「すごいね!」 「寒いね!」と言い合っていると、服を脱いでパンツ一枚になった私が「今から泳ぐ!」と、海に突撃したそうです。12月の海で、泳ぐ!? 私は、バカか? あと、家族にも言いたい。脱ぐ前に、止めろよ。さすがに泳ぎだす前に制止したそうですが、パンツが海水で濡れてタイヘンだったらしい。私が49歳になる今も母から「ビックリした!」と言われます。


 次は、同じく3歳の頃です。二度もあるのが、自分でも残念でなりません。

私と両親は、七五三で神社へお参りに行ったらしい。私はおぼえていませんけれど写真があるので、間違いない。写真の私はかんざしを頭に付けて、赤い着物を着ています。しかし両親がおぼえているのは着物姿ではなく、素っ裸の私です。頭にかんざしを付けて、素っ裸で神社を逃げまくる私。どうやら着物が苦しかったらしく、両親が気づいた時には裸になっていたらしい。そしてなぜか、追いかける両親から逃げまくったらしい。百歩譲って着物を脱いだとしても、どうしてパンツまで脱ぐかね? っていうか両親、止めろよ。3歳の子が帯をほどいて着物を脱ぐまで、そこそこ時間がかかったはずだぞ。なぜ裸になるまで、気づかない? 私も、私だ。ガマンしろよ。


 というような事を思い出しながら、先ほど私は服を脱ぎました。いえいえ、今日はおかしな事をするためでは、ありません。お風呂に入るためです。私もさすがに大人なので、人様のいる場所で裸になったりはしません。自分の家で、お風呂に入るために裸になりました。


 お風呂の戸を開けると、真っ黒なGさまと目が合いました。虫と目が合うはずがないと思うのですけれど、バッチリ目が合いました。一瞬セミかと思うほど、デカいです。Gさまは黒くて平たい、カサカサ動くアイツです。それも特大。

 服を着ている時でも会いたくないのに、無防備な裸で遭遇してしまった。悲鳴をあげて外に飛び出そうかと思いましたが、少ない理性をかき集めて部屋に留まりました。いくらGが出たと言い訳しても、裸で廊下に飛び出したら警察案件です。私の部屋の前は人通りが多く、目の前には数十戸の部屋があります。誰が見ていても、おかしくない。ソッコー通報されます。だから、外に出てはいけません。私、大人になった! ガマンできた!


 普段からGがはびこらないよう、ホイホイや虫よけを大量に置いています。おかげで引っ越してから、一度も見たことはありません。だからウチには、殺虫剤がありません。……殺虫剤がない!? Gと戦う武器がない! どうしたらいいんだっ!?


Gとの戦闘シーンは、割愛します。読みたいシーンではナイでしょうから。


 数分後、私は紙袋を手に、途方に暮れていました。袋の中には、死んだGがいます。殺虫剤の代わりにスプレー洗剤を使って抹殺して、Gを紙袋に入れるところまでは成功です。この紙袋を、どうする? それが問題です。たとえ死んでいても、同じ屋根の下にいてほしくない……。 お洋服を着て、外のゴミ箱に入れよう。それがいい、そうしよう。


そう思った瞬間、袋の中でカサカサ音がしました! まだ生きてる! 動揺した私は袋を手に、廊下に飛び出しました! ゴミ箱を開ける余裕は、ありません! 袋を廊下に投げ捨てました。そして、やっと我に返りました。「あら? わたし、素っ裸?」 3歳の私でさえパンツやかんざしを身に着けていたのに、49歳で素っ裸……。何も学習してない。それどころか、悪化している……。


 これから数日お話の更新がなかったら、警察に連行されたと思ってください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る