第10話 うわぁ……。

 ご機嫌いかがでしょうか? 私は、悩んでいます……。


 本を出版してもらってから嬉しいことに、愛する読者さまからのお手紙を頂きます。頂くたびに、飛び上がって喜びます。そして何度も何度も何度も何度も……読み返します。数ある本の中から私の本を選んでくださって、最後まで読んでくれるだけでも嬉しいのに、わざわざお手紙を書いて、送ってくださる! 作家冥利に尽きます。本当に、嬉しいです。


 お手紙のあて先は、本のあとがきのページに書いてあります。これは私が編集のPさんに「愛する読者さまからの、お手紙が欲しいです!」と、強くお願いしたためです。Pさんがデザイナーさんと相談して、あとがきのページにあて先欄を作ってくれました。

 ちなみに拙書の「姫さまですよねっ!?」で一番評判の良いページは、このあとがきです。本文よりも、あとがきが好評という……。この辺に、私の残念さが表れています……。


 ある日、甲賀市役所からメールが届きました。「甲賀市の広報誌で本をプレゼントしたら、ファンレターが届いたので取りに来てください」。

 本が発売された時に、私は甲賀市に本を寄贈しました。お世話になっている市民の皆様に、わずかですけれどプレゼントしたかったからです。その懸賞に応募して本を読んだ方が、感想文をくださったらしい。わざわざ応募してくださって、読んで、感想を送ってくださる。買ってくださる読者さまもありがたいですけれど、こういう方も、ありがたいです。 


 ワクワクしながら市役所へ行き、受け取ったお手紙は、なんと! FAX用紙でした! お若い方はご存じないかもしれませんけれど、昔はFAX(ファクシミリ)という通信手段があったのです。おうちのFAXに紙ベースのお手紙などを読み込ませて、電話回線で相手のFAXに送ると、感熱紙に書かれたお手紙がロール状でベロベロ出てくるという。


 昔懐かしいFAXで届いたので「ご高齢の方かしら?」と思いました。正解です。おそらく70代の男性。流れるような筆跡と流麗な日本語で、縷々と感想を書いてくださっています。要約すると「忍者の本格的な戦闘場面を期待していたのに、無かった。でも全体に、良い所もあった。励め」という内容です。戦闘シーンが無いと、叱られてしまった……。最初は凹みましたけれど、わざわざ応募して、読了なさって、お手紙を書いて送ってくださったのは、とてもありがたいことです。私が期待していた内容とちがうと、勝手にガッカリするのはワガママです。すぐに、お礼状を書きました。


 私の筆力が足りずご期待に添えなかったことを詫びて、良いと褒めてくださったのを感謝して、今後も精進しますと結びました。FAXよりもさらにアナログな、封書のお手紙に切手を貼ってポストに投函します。70代の方よりも、アナログです。


 10日ほど経過したころ、またまた市役所から連絡がありました。「先日の方から再びお手紙が届いているので、受け取りに来てほしい」。

お礼状のお礼状? なんのお手紙でしょうか? すぐにでも行きたかったのですけれど、二巻の追い込みに入っていたので、すぐには行けません。数日後、やっと二巻を納品(出稿? 提出?)しました。やったあ!! 出来たあああああ!!!!!!


 市役所で受け取ったのは、FAX用紙ではありませんでした。渡された封筒は、厚くて重たい。これがお手紙だとしたら、100枚くらいの枚数です。なんだ? 何が入ってるんだ?


 中にはお手紙と、分厚い冊子が入っていました。この方は、とあるお仕事をしていらして、そのお仕事の長をなさっていること。そのお仕事に関する冊子を執筆、編集してお配りしていること。私の書くお話に参考になればと、冊子をくださったこと。質問があれば、いつでも訪ねてくるようにと、嬉しく有難いお手紙です。


「げ。」 私は思わず、声を漏らしました。もったいないほどのご親切に対して「げ。」は、いけない。全然いけませんけれど、「げ。」しか出てこない。


なぜか?


 じつはこの方と、ピッタリ合致するキャラクターが、二巻に登場するのです(お話が公開前なので、職種はナイショです。ごめんなさい)。私には馴染みのない職種なので、書くのに苦労しました。あちこちに取材に行って、資料を読んで、ネットを調べました。もし書いている最中に、このお申し出があれば、私は喜び勇んで取材に………は、行きません。絶対に、行きません! 取材したい気持ちは熱烈にありますけれど、来いと言われても、行きません!


問い せっかくのチャンスなのに、なぜ行かないのか?

答え このキャラ、腐れ外道の極悪キャラなんです(涙)。


 腐れ外道なんて、乱暴な言葉を使ってしまって、ごめんなさい。でも、完膚なきまでに、腐れ外道なのです……。その腐れと、お仕事が完全に一致している……。オーマイガー!!

偶然にしても、出来すぎやろう!! 悪魔の仕業かっっっ!?(私の仕業です)。


 市役所から連絡をもらった時点ですぐに行っていれば、書き直しができた。でも原稿を提出した後に行ったので、間に合わなかった。これが事実なのですけれど、その方は違う感想をお持ちになるでしょう。「俺をモデルに、腐れ外道を書いただろう!」と……。それくらい、職種やお立場が合致している。もし私がその方の立場なら、間違いなく激怒します。偶然と言われても、ウソにしか聞こえないほど合致している。うわぁ……。マズイ。マズ過ぎる……。


というワケで、私は悩んでいます。お手紙と冊子をいただいたお礼状を書きたいのだけれど、どうやって書いたものか……(涙)。


はっ! 思いついた! 解決策を思いつきました!

原稿がボツになれば、いいのですよ! そしたら腐れキャラの書き直しができる!

……って、あれだけ苦労して書いた原稿がボツになるのは、ありなのか? また七転八倒して書くのは、ありなのか?

ごめんなさい(涙)。それはイヤです(涙)。


私の悩みは、尽きません………。



 








 


















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